少女漫画となろう系のハイブリッド――韓国ドラマ「あやしい彼女」、“ハラハラしない”のに極上の上質エンタメである理由

少女漫画となろう系のハイブリッド――韓国ドラマ「あやしい彼女」、“ハラハラしない”のに極上の上質エンタメである理由

「あやしい彼女」
「あやしい彼女」 / (C) STUDIO V PLUS Co.,Ltd. and (C) IDEAFACTORY. Co.,Ltd

青春時代…人生の“春の日”に戻りたい――大人になった誰しもが一度は思ったことがあるのではないだろうか。そんな夢を叶えてくれるような韓国ドラマ「あやしい彼女」(全12話)が、5月26日(火)昼3:20よりCSホームドラマチャンネルにて放送される。今の日本のドラマシーンとはまた違う煌めきが詰まった本作の魅力をたっぷりと紹介したい(以下、ネタバレを含む)。

■“おばあちゃんアイドル”は“なろう系”?

本作は、韓国で866万人を動員した大ヒット映画をキム・へスク×チョン・ジソ×ジニョン共演でドラマ化し、2024年から2025年にかけて韓国で放送されたドタバタロマンスコメディ。歌手になる夢を諦め、女手一つで娘を育て上げたオ・マルスンが、ある日20代に若返り、アイドルデビューのチャンスを手にし、奮闘する姿を描く。“おばあちゃんアイドル”として、諦めていた夢、プロデューサーとの恋、家族との関係などさまざまな“愛”に向き合っていく。

なんと言っても本作の魅力は、日本のエンタメでいう“なろう系”や“俺TUEEE系”的なドーパミンがドバドバ出るようなカタルシスと、少女漫画のような胸がときめく甘酸っぱいキュンではないだろうか。70代の女性が突然20代に若返ってアイドルデビュー、そして元・超人気アイドルで現・イケメンプロデューサーとの青春という、一見ご都合主義とも言えるやり過ぎファンタジー展開なのに、安っぽさが一切ない。なぜ、最初から最後まで冷めることなく熱狂してしまうのか?その理由は、演出の丁寧さと多くの謎を秘めながらも“ハラハラしない展開”にあるように思う。

■複雑な「考察」に疲れた現代人へ――安心の“ハラハラしない”心地よさ

昨今の日本のドラマは、ショート動画の流行りもあってか、テンポの良い展開と刺激が多い内容という傾向があるように感じる。常に感情が激しく揺さぶられるような、伏線が複雑に絡み合った作品が多い印象だ。たとえコメディーというジャンルでも、シンプルな笑いではない。ウィットに富んだセリフや他の要素が追加される。もちろんだからこそ面白いのだが、その分ただ視聴してるだけでもエネルギーを消費する。だが、「あやしい彼女」は良い意味で感情が緩やかに動かされるため、安心して身を委ねることができる。

マルスンの正体がバレるか否かというスキャンダラスなハラハラドキドキはほとんどない。意地悪なキャラクターが登場しても、口が達者でたくましいマルスンが跳ね返すため、視聴者にフラストレーションは溜まらない。なぜかマルスンが2人いたり、マルスンと家族(特に元夫・娘)の間に“何か”があったり、プロデューサーにも秘密があったりと多くの謎はあるのだが、それはストーリーとしての刺激ではなく、登場人物のバックボーンを掘り下げてキャラクターを立体的にするためのギミックとして機能している。これこそが、本作を安っぽく見せない最大の理由だろう。

■国民の母・キム・ヘスクから、最旬キャストへの見事なバトンタッチ

またファンタジーの設定ながら本作をリアルに落とし込んでいるのは、実力派俳優陣の功績も大きい。突然20代に若返る70代のオ・マルスンを演じるのは「冬のソナタ」「賢い医師生活」などに出演し、韓国で「国民の母」と愛される女優のキム・へスク。20代に若返ったオ・マルスン(オ・ドゥリ)を演じるのは、映画「パラサイト 半地下の家族」「ザ・グローリー ~輝かしき復讐~」などのチョン・ジソ。プロデューサーのダニエル・ハン役には、本作のもとである「怪しい彼女」で映画デビューした、B1A4出身で「Sweet Home -俺と世界の絶望-」シーズン2&3「雲が描いた月明り」などのジニョン。

言うまでもなくキム・へスクの“一人二役”の演じ分けと“二人一役”の自然なバトン渡しは圧巻だが、本作のコメディ部分を一身に背負っていると言っても過言ではない、チョン・ジソの愛らしい顔芸と、アイドルらしい顔立ちなのに年寄りっぽい言動というギャップがイラかわいくてほんわかする。そして何と言っても、少女漫画から飛び出したようなスター性溢れるジニョン。その圧倒的な輝きは目の保養でしかない。

■ツッコミどころも愛おしい…極上の王道エンターテインメント

内容的には、美人で歌も料理も上手い主人公が、人間関係に葛藤しながらもその人間力で周囲を魅了し、夢と愛をすべて掴んでいくというまさに“なろう系”で、正直ツッコミどころもあるのだが、のめり込んでしまう。主人公だけでなく、周囲の人間関係まで地道に深掘りしていく韓国ドラマ特有の手腕によって、キャラクターに圧倒的な奥行きが生まれている。世界観がブレないからこそ自然と感情移入させられてしまい、気づけば極上の王道エンターテインメントとして成立しているのだ。

ちなみに、中盤からは新たなワケありイケメンも登場し、まさに少女漫画のような三角関係も繰り広げられるのだが…これがもう本当に最高だ。ありがとう…まさに青春。青色どころか色を失ったおばあちゃんが、若返って春色の人生をやり直す。枯れていた人生の桜がひょんなことから新たに芽吹き、徐々に蕾が膨らんでいき、気付けば満開を迎える。その後、桜は枯れてしまうのか、永遠に咲き誇るのか…主人公の選択を見届けてほしい。

もし、自分だったらどうするかを考えながら主人公を追っていくのも楽しいはず。視聴者もまた人生の“春の日”に戻ったかのような心の瑞々しさを感じることだろう。「あやしい彼女」を通して、そんな不思議な12時間を過ごしてみてはいかがだろうか。

構成・文=戸塚安友奈

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