チーズは栄養豊富な食品として広く親しまれていますが、「何と合わせて食べるか」によって身体への影響が変わる場合があります。特にチーズに含まれる「チラミン」という成分は、特定の食品や薬との組み合わせで注意が必要です。チーズの種類によってチラミン量も異なるため、どのチーズを選ぶかも大切なポイントになります。ここではチーズの食べ合わせに関する基礎知識を整理します。

監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。
チーズと食べ合わせで毒になる?注意すべき組み合わせの基礎知識
チーズは豊富なたんぱく質やカルシウムを含む栄養食品ですが、特定の食品と組み合わせることで消化への負担が増したり、身体への影響が出やすくなったりすることがあります。このセクションでは、チーズの食べ合わせに関する基礎的な知識と、注意すべき組み合わせについて解説します。
チーズに含まれる成分と食べ合わせの関係
チーズには、たんぱく質・脂質・カルシウム・ビタミンB2・チラミン(tyramine)などさまざまな成分が含まれています。特に注目されるのが「チラミン」という成分です。チラミンとはアミノ酸の一種であるチロシンが発酵・熟成の過程で変化したものであり、血管に影響を与える働きがあるとされています。
チラミンは、熟成期間が長いチーズほど多く含まれる傾向があります。チェダーチーズやパルメザンチーズ、ゴルゴンゾーラなどの熟成チーズにはチラミンが豊富です。一方、モッツァレラやカッテージチーズのような非熟成タイプのチーズはチラミン含量が低いとされています。
食べ合わせという観点で考えると、チラミンを多く含む食品を同時に複数摂取することで、身体への影響が強まる可能性があります。たとえば、赤ワインや一部の発酵食品にもチラミンが含まれており、熟成チーズとこれらを組み合わせると、チラミンの摂取量が集中することになります。
チーズ×ワイン・アルコールの組み合わせで起きやすいこと
チーズとワインの組み合わせは食文化のうえでは一般的ですが、身体への影響という点では注意が必要な場合があります。特に赤ワインにはチラミンのほか、ヒスタミン(histamine)という成分も含まれています。ヒスタミンは炎症反応やアレルギー反応に関与する物質であり、過剰に摂取されると頭痛や消化器症状を引き起こすことがあります。
熟成チーズ(特にチェダーやブルーチーズ)と赤ワインを同時に大量に摂取した場合、チラミンとヒスタミンの両方を一度に摂り込むことになります。これらの成分は血管に作用し、血管の拡張や収縮に影響を与えるとされており、頭痛や動悸を感じる方もいます。
また、アルコール自体が肝臓でのチラミン代謝を阻害するという側面もあります。通常、チラミンは体内の酵素(MAO:モノアミン酸化酵素)によって分解されますが、アルコールの摂取によりこの分解が妨げられると、チラミンの血中濃度が通常より上昇しやすくなることが知られています。
MAO阻害薬を服用中の方が特に注意すべき理由
チーズの食べ合わせで最も医学的に重要視されているのが、「MAO阻害薬(モノアミン酸化酵素阻害薬)」との組み合わせです。一部のうつ病やパーキンソン病の治療薬(MAO阻害薬など)は、 その作用機序上、体内のMAO活性を低下させます。
チラミンは通常、腸管や肝臓に存在するMAOによって速やかに分解されます。しかしMAO阻害薬を服用中の方は、このチラミン分解機能が著しく低下しているため、チラミンを多く含む熟成チーズを摂取すると、血圧が急激に上昇する危機的な状態(チラミン・クライシス)が生じることがあります。具体的には、激しい頭痛・高血圧・発汗・動悸・場合によっては脳卒中に至るリスクが報告されており、この食薬相互作用は「チーズ反応(cheese reaction)」として医療現場でも知られています。
MAO阻害薬を服用中の方は、熟成チーズを含むチラミン高含有食品の摂取を医師や薬剤師に相談のうえ、十分に注意することが大切です。
まとめ
チーズはさまざまな栄養素を含む食品ですが、食べ合わせや食べ過ぎによって身体にさまざまなサインが現れることがあります。特にMAO阻害薬を服用中の方は熟成チーズの摂取に十分な注意が必要であり、片頭痛を持つ方はチラミン含有量が少ないチーズを選ぶことが助けになる場合があります。日常の食事でチーズを楽しむためには、種類・量・組み合わせに意識を向けることが大切です。気になる症状が続く場合は、ひとりで判断せずに医療機関を受診し、専門の医師に相談することをおすすめします。日々の食生活を少し見直すだけで、身体の変化に気づきやすくなるでしょう。
参考文献
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」
日本頭痛学会「頭痛の診療ガイドライン2021」
国立循環器病研究センター「減塩食について」
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