先生の悪口のやり取りは一度きりでしたが、直美の不安は消えませんでした。彼女はまず、結衣にさりげなく「人の悪口を言わないこと」を釘刺しします。そんな中、結衣から直接、LINEの使い方に悩む友人の相談を受けます。その子はSNSを始めたばかりで、喜びのあまり、頻繁すぎる投稿と不適切な写真送信を繰り返していました。直美は、娘が抱えるリアルな人間関係の悩みに対し、どのように寄り添うべきか考えます。
「わかってる」の重み。悪口問題に触れなかった母の葛藤
先生の愚痴の件は、それっきりグループLINEに浮上することはありませんでした。直美は、過剰に反応して結衣の心を閉ざさせてしまうことを恐れ、直接スマホのやり取りについては触れませんでした。
その代わりに、夕食の時、「結衣、最近LINEは楽しい?」と尋ねました。結衣が楽しそうに頷くと、直美はさりげなく言いました。
「誰かの悪口を言ったり、嫌な気持ちになるようなことは、文字でも言葉でも言っちゃだめ。わかってるよね?」
結衣は「わかってるよ」とあっさり答え、すぐに食事に戻りました。直美は、この「わかってる」が、どれほどの重みを持っているのか、不安に思いました。
「無理に付き合わなくていい」。スマホ時代の人間関係の距離の取り方
数日後、結衣が珍しく思いつめた様子で話しかけてきました。
「ねえママ、ちょっと困った子がいるの」
結衣の話では、新しくLINEを始めたばかりのAちゃんという子が、すごい頻度で写真を送りつけてくるというのです。AちゃんはSNSを始めたことが嬉しくて仕方がないようで、日常のすべてを共有しようとしているようでした。塾に行く道中の花や、空の写真などはまだいいのですが、問題は他人の家の敷地内にいる犬などを、勝手に撮影して送ってくることでした。
「知らない人の家の中を撮るのは、ダメだと思うんだ…」
と結衣は困惑していました。さらに、Aちゃんは反応がないと「みんな返信してくれない」と、大量のスタンプを打ってくるというのです。グループLINEはAちゃんの写真とスタンプで埋め尽くされ、他の子たちは皆、辟易している様子でした。
直美は、結衣の言葉に少し安堵しました。結衣は、他人の行動に違和感を抱き、良し悪しを判断できています。
「そういう子には、無理に返信しなくていいよ」
と直美はアドバイスしました。
「誰かを困らせるような写真を送ったり、しつこく返事を求めたりするのはよくないね。付き合わないで大丈夫。学校で少し話してみてもいいかもよ?」
直美は、親が介入しなくても、結衣自身が人間関係の中で、距離感やモラルを学んでいることに、成長を感じました。しかし、そのAちゃんの行動が、さらにエスカレートするとは、この時誰も予想していませんでした。

