シェーグレン症候群は自分の免疫が涙や唾液を作る腺を攻撃する自己免疫疾患で、中年の女性に多くみられます。目・口・鼻・皮膚・外陰部など全身の粘膜や分泌腺が乾燥し(ドライアイ・ドライマウスなど)、関節痛や倦怠感などさまざまな症状を伴います。現在のところ残念ながら根本的に完治させる治療法はなく、症状を和らげ生活の質(QOL)を維持する対症療法が中心となります。本記事ではシェーグレン症候群の治療全体像について、薬物療法・対症療法・生活指導を含めてQ&A形式で解説します。

監修医師:
林 良典(医師)
消化器内科
呼吸器内科
皮膚科
整形外科
眼科
循環器内科
脳神経内科
眼科(角膜外来)
シェーグレン症候群|治療の基礎知識

シェーグレン症候群の種類を教えてください
シェーグレン症候群には一次性と二次性の2種類があります。一次性シェーグレン症候群はほかの膠原病を伴わず単独で発症するタイプで、全体のおよそ6割を占めます。二次性シェーグレン症候群は関節リウマチや全身性エリテマトーデス(SLE)など、ほかの膠原病に合併するタイプで、約4割を占めます。また一次性の場合、病変が涙腺・唾液腺などの分泌腺に限局する腺型と、肺・腎・神経など全身臓器に広がる腺外型に分ける見方もあり、それぞれ約7:3の割合です。
シェーグレン症候群は完治する病気ですか?
いいえ、根本的に治癒させる治療法は現状存在しません。シェーグレン症候群は慢性的に経過する炎症性疾患であり、長期間にわたって症状と付き合う必要があります。そのため、治療の目的は、乾燥症状を和らげて日常生活の支障を減らすこと、そして全身の病勢を抑えて合併症の進行を防ぐことにあります。適切な治療とケアによって多くの患者さんは寛解(症状が落ち着いた状態)を目指して生活しています。ただし、一部の患者さんでは時間経過とともに腎臓や肺などの臓器障害が新たに出現することもあるため、油断せず定期的な経過観察は必要です。
シェーグレン症候群の代表的な治療法を教えてください
乾燥症状に対する対症療法と、必要に応じた免疫抑制療法を組み合わせるのが基本です。具体的には、目の乾燥に対して人工涙液の点眼や涙の蒸発を防ぐ処置、口の乾燥に対して唾液の分泌を促す内服薬や人工唾液の使用といった乾燥部位ごとの対策が取られます。全身倦怠感や関節痛など腺外症状についても、痛みに鎮痛剤を用いる、光過敏には紫外線対策をするなど症状に応じた対処を行います。さらに、肺や腎臓など重要な臓器に炎症が及ぶ重症例では、ステロイドや免疫抑制剤を用いて免疫反応を抑えます。
シェーグレン症候群|眼や口、外陰部の乾燥に対する治療法

眼の乾きにはどのような治療を行いますか?
ドライアイ(目の乾燥)に対しては、大きく次の3つの方法で治療します。
涙の分泌を促す治療
人工涙液やヒアルロン酸ナトリウム点眼液などを毎日頻回に点眼し、不足する涙を補います。重症例では自己血液から作る自家血清点眼が用いられることもあります。
涙の蒸発を防ぐ工夫
加湿を心がけ、エアコンの風が直接目に当たらないようにします。屋外では保湿用のゴーグル型眼鏡を使用すると涙の蒸発を減らす効果があります。就寝時には眼軟膏で目を保護する方法もあります。
涙の排出を抑える処置
涙は目頭にある涙点から排出され鼻に抜けますが、この出口を塞ぐ涙点プラグ挿入術を行うことで涙を目に長く留めることができます。
口の乾燥を治療する方法を教えてください
ドライマウス(口腔乾燥)に対しても、大きく次の3つの方法で治療します。
唾液の分泌刺激
ガムや飴を利用して唾液腺を刺激します。さらに薬物療法では、セビメリン塩酸塩や塩酸ピロカルピンといった内服薬が唾液分泌を促進し、口の渇きを改善します。麦門冬湯など漢方薬を併用することもあります。
人工唾液の補充
スプレー式の人工唾液を適宜用いて口腔内を潤します。そのほか口腔用保湿ジェルを塗布する方法も有効です。
口腔衛生と予防
唾液が減るとむし歯や口内炎・カンジダ感染が起こりやすくなるため、口腔内を清潔に保つことが何より大切です。毎食後の歯磨き・デンタルフロス励行に加え、定期的に歯科検診を受けてむし歯や歯周病の予防治療を行いましょう。
外陰部の乾燥はどのように治療しますか?
膣や外陰部の粘膜が乾燥するとかゆみや性交痛の原因になります。対策として、市販の膣用保湿剤を使用すると粘膜の潤いが保たれ症状の軽減に有用です。それでも不快感が強い場合は婦人科で相談しましょう。女性ホルモン(エストロゲン)の低下が影響している場合、腟錠やクリームによる女性ホルモン補充療法が有効なこともあります。実際、閉経世代の女性に多い疾患であるためホルモン補充を検討するケースもありますので、専門の婦人科医に遠慮なく相談するとよいでしょう。
乾燥に対して自宅でできるケア方法を教えてください
日常生活でのちょっとした工夫が乾燥症状の軽減に役立ちます。下記のような対策で今ある症状を軽くできたり、症状が出にくくなることが期待できます。
室内環境を整える
特に秋冬は空気が乾燥しやすいため、加湿器などで適度な湿度(50~60%程度)を保つようにします。
こまめな水分補給
のどや口の渇きを感じたら、我慢せず少量の水を頻回に飲みましょう。
うがいをする
うがいは口内を潤すだけでなく感染予防にも有効です。
目と鼻のケア
目の乾燥対策には防腐剤無添加の人工涙液点眼を上手に用い、就寝前にも忘れず点眼します。鼻の中が乾燥してカサブタや鼻出血が起こる場合は、ワセリンを綿棒で塗ると粘膜を保護できます。市販の生理食塩水スプレーで鼻腔を潤すのも有効です。

