
「少しスカスカでもそれを聴く人が音を足して聴けばいいんじゃないか」ーーこれは、オフコースが人気絶頂の1982年3月21日にNHK教育テレビで放送されたドキュメンタリー番組「若い広場 オフコースの世界」の中で小田和正が語った言葉である。当時テレビ番組に一切出演しなかったオフコースに初めて密着し、オフコースが1曲を、そしてアルバムを作り上げるまでの行程と舞台裏を“生”感ある映像で刻んだ伝説の記録だ。
■20代・30代の小田和正と出会う、至高のドキュメンタリー2作品
小田和正の映像作品を特集放送する企画「小田和正セレクション」より、かなり貴重なドキュメンタリー2作品「若い広場 オフコースの世界」「キャディ 青木功/小田和正~怒られて、励まされて、54ホール」が、5月31日(日)夜6時30分より連続でCSホームドラマチャンネルにて放送される。どちらも当時ならではの無駄がないシンプルな映像で記録されているため、2000年代に入る前の彼らとその空気感がまるで真空パックされているような鮮度感で味わえる。
特に「若い広場」は、1979年に「さよなら」の大ヒットでスターダムを駆け上がった彼らが、1982年6月に前人未到の日本武道館10日間公演に挑むまでの約2カ月半を追ったもの。小田、鈴木康博、松尾一彦、清水仁、大間ジローの5人が織りなす繊細な「オフコース・サウンド」が若者を熱狂させていた絶頂期の記録であり、同時に、この武道館公演を最後に鈴木が脱退する直前の、5人体制最後の輝きを捉えた奇跡的な映像でもある。
■鈴木康博との「美しきコーラス」の調和――お宝映像に宿る奇跡
そもそもオフコースは、結成当初から小田と唯一活動を共にしてきた鈴木の存在と、2人が奏でる唯一無二のコーラスワークが高く評価されてきた。本作では、そんな2人がレコーディングで「愛の中へ」の超高音コーラスを何度も微調整し、ストイックに突き詰めていく姿も収められている。グループは1989年に解散を迎えるが、ファンにとって本作が“お宝”と呼ばれる理由は、この5人体制、なにより小田と鈴木の化学反応が剥き出しのまま記録されているからに他ならない。
■超一流の“引き算の美学”と、ものづくりへの圧倒的スケール
だが、本作の面白さはその希少性だけにとどまらない。メンバーの飾らない日常の会話とともに、楽曲が完成するまでの全行程が「ここまで見せていいの!?」と思うほど緻密に描かれているのだ。
たとえば小田は、「オフコース・サウンド」の特徴である“余白”についてこう語っている。「僕らの場合、オーバープロデュースみたいなのを嫌うんですよね。だから、リズムでも倍刻むところを半分にしちゃったり。自分らもこれでいいんだと思うまで、すごく時間がかかる。本当はもっとこうしたいけど、ここでやめとこうとか…」。
大抵のものづくりにおいて“削ぐ”ことは最も難しく、かつ重要だ。それを実践し、音になっていない部分まで悩み抜く彼らの姿勢は、音楽ファンならずともクリエイティブに興味がある人なら得るものがあるに違いない。そういったインタビューも含めて、たとえオフコースのファンでなくても、深く引き込まれる内容となっている。レコーディングに膨大な時間を費やし、ミキシングはアメリカで行うという当時の破格のスケール感にも圧倒される。
一方でファンにとっては、当時のまだ青春の残り香がある彼らの若くて少し尖った姿が、きっと懐かしくもあり、眩しいはず。同番組の中で小田が発する「5人で一つの塊という時期がもう過ぎてきたような気がしますね」という言葉とその真意にもまたさまざまな感情が湧き上がることだろう。
■ゴルフ界のレジェンドに怒られ、あたふたする小田和正の姿も
続いて放送される「キャディ」では、一転して普段は見られない小田の姿を目撃できる。1993年、小田がゴルフ界のレジェンド・青木功選手に自ら志願してキャディを務め、全米シニアツアー公式戦に帯同したスペシャルドキュメンタリーだ。
初体験のキャディに右往左往し、試合中に何度も失敗しては青木選手に怒られまくる小田。音楽界のトップに君臨する彼が、別の畑で必死にあたふたしている様子は、どちらのファンにとっても新鮮で、胸が熱くなること間違いなしだ。
「愛を止めないで」「言葉にできない」などの名曲を当時の演奏と歌声で堪能できる「若い広場」と、泥臭く奮闘する姿が愛らしい「キャディ」。2026年で79歳を迎える今もなお、日本の音楽界のトップを走り続ける小田和正。そんな彼の、人間としての魅力的な“余白”が、この2本から感じ取れるはずだ。
構成・文=戸塚安友奈

