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新潟に移住して三年、いまだ何も語れず|大石祐助

新潟に移住して三年、いまだ何も語れず|大石祐助

なぜ私が選ばれたのか分からない。

市の依頼で、新潟県三条市への移住者インタビューを受けることになった。

 

三条市に移住してくる前に、アフリカで暮らしていたことが目に止まったのだろうか。そりゃアフリカから新潟に住もうなんて奇怪な人物はそういるものではない。

あたしゃ赤道の暑さがいやになったのさ。だから雪国で生活してみたかったのさ。なんて回答を期待しているのだろうか。

 

 

撮影は私が働いているオフィスに隣接したキャンプ場で行われた。

インタビューに来てくれた制作会社の人たちは、良い動画を作ろうと熱意に溢れ、とても好感を持てた。

会社や私自身のことを上手に引き出す。「社長今日もいい靴履いてますね」と腰ぎんちゃくのお手本のような平成最後のお調子者である私をのせるのせる。

 

そして、彼らがもっとも撮りたかったであろう。三条市の魅力を伝えるパート。

三条市のどんなところが好きですか? とインタビュアー。

 

「自然が多いところです」

 

なるほど、それでは移住を考えている方に三条市のどんなところがオススメですか?

 

「新幹線がとまります」

 

はああああーーーーーぁ。大きなため息とともに、両手で頭を抱えキャンプ場の芝生に頭をめり込ませる制作会社の方の画が浮かぶ。

 

自然が多いなんてどこの地方も一緒やないかい、新幹線がとまるなんてそんな理由で移住先を決めるもんかい、自分で発言したそばから脳内でセルフツッコミを入れてしまうほどちんぷんかんぷんなことを言っている。

今日も三条市は平和である。自宅の窓から見える風景。

ついさっきまで、「わたしの野望ですか? 世界中の人々と一緒に焚火を囲んで、世界に平和をもたらすことですね」とか、ぬかしていたくせに。

このままでは三条市のプロモーションのはずが、腑抜けたお調子者の盛大なPRになってしまう。

 

私だって協力したい。でも、どんなに頭を捻っても、何も出てこないのだ。

それは三条市がわるいとかではない。かつて住んでいた静岡県三島市でも同じくちんけな回答をする自信がある。

かつて3年ほど暮らした静岡県三島市。

では、いちばん好きな町であり生まれ育った神奈川県川崎市だと、どう答えるだろう。

なぜ好きかと問われれば、やはり「都会なのに自然が多いところです」と発言しそうである。

 

つまり、なにが町の魅力を構成しているのか。それは「思い出」である。

友達と学校帰りに缶けりをした団地の公園、初めてできた彼女と肩を並べて歩いた神社の参道。

 

裏を返すと、三条市での思い出がなにひとつないことを意味する。

三年半も住んでいて、思い出がないとは。なんて哀しいことだろうか。

 

ただひとつだけ言えることがある。

それは、この三年半、毎日が平和だったのだ。これ以上の魅力があるだろうか。

この町にジョーカーはいないし、バットマンも必要ないのだ。

 

今日も三条市は平和である。

今日も三条市は平和である。職場から見える風景。

配信元: 幻冬舎plus

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