■スタンプひとつで完了!楽だけどそれ以上はない、コミュニケーションのさみしさ

「この作品を描いたのは3~4年前になるんですが、当時コロナ禍で人と直接会う機会が減っていて、連絡も基本的にメッセージに変わっている頃でした。それだけでも寂しさを感じていたのに、さらにスタンプだけで会話ができてしまうことにモヤモヤしていました」と、制作当時の環境を話す。
「もちろんスタンプは便利なんですが、極め付けは、当時SNSのDMで知らない方から人生相談が届いたので、それに対してすごく長い長文を返したんです。結構センシティブな相談だったので、一文一文言葉使いに気をつけて、1時間ほどかけて手紙に気持ちを込めて書きました。それに対して返ってきたのが『いいね』のハートひとつ。いいんですよ、いいんです!届いていれば。見返りを求めたわけじゃないんで。けど、なんかちょっと寂しいというか…なんとも言えない気持ちになって。この先の人生の大事な場面でもこういうことが起きてくるのかなぁ、と思いながら作りました」

実は吉本さん「すごく効率にこだわりすぎてしまう人間なんです」という。そしてそれが主人公にも反映された。会議や座談会など時間がかかる非効率的なミーティングは必要ないと言う主人公は、「いっそ脳から直接アクションできるようにならねーかな」とぼやいた。
それが叶ったのは、30年後。モニターはなく、すべてが空間に映し出される。挨拶も返事も全部、絵文字。「なので、これは自分への戒めと言いますか、皮肉のような気持ちで描きました。非効率だからこその意味もあるんだよって」タイパや時短など効率化ばかりが先立つと、実は心は置いてけぼりになってしまう。スタンプひとつでは、相手の受け取り方も気持ちもわからないさみしさを描く。

本作のラストは主人公のお葬式に参列者はなく、「悲しい」の絵文字だけがたくさん送られてくるシーン。「こんなお葬式、寂しいですよね。みんな忙しくなって、気持ちに余裕がなくなって、また社会は便利になる一方で、寂しくもなっていくだろうなと思いました」と、吉本ユータヌキさん。

このように人とのつながりが大切だと気づいたのは、X(旧Twitter)で122万PVを獲得した『あした死のうと思ってたのに』で、友人の一言に救われたことがあるから。人間同士のコミュニケーションがなくなったとき、あなたの周りにはどれだけの人が残っているだろうか。
吉本ユータヌキさんは、ほかにも「『あした死のうと思ってたのに』『まるねこププと』というちょっと切ないようなあったかいような話を描いています。また、『「漫画家やめたい」と追い込まれた心が雑談で救われていく1年間』というエッセイ本も発売しました。過去に捉われて生きづらさを感じている人、日々息苦しさを感じている人に読んでみてほしい1冊です。よかったら手に取ってみてください」
取材協力:吉本ユータヌキ(@horahareta13)
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