脳トレ四択クイズ | Merkystyle
#4 丸の内のダイニングバーで、銀行同期の男二人、クラフトビールと“最高級”のハンバーガーを食べながら…|小野寺史宜

#4 丸の内のダイニングバーで、銀行同期の男二人、クラフトビールと“最高級”のハンバーガーを食べながら…|小野寺史宜

小野寺史宜さんの最新刊『片見里足立アフェクション』には、ファミレスで、夜景の見えるバーで、居酒屋で、結婚式場で……と、とにかく「乾杯」シーンがたくさん出てきます。乾杯の場面で展開する、軽快、軽妙かつ深遠(?)な登場人物たちのやり取りを、少しだけご紹介。

*   *   *

子供の頃の百円バーガーについて語りながら、三杯目のビールを頼んだところで出てきたのは、銀色の串が刺さったどっしりしたバーガー。

「よし。じゃあ、乾杯するか」と細谷映志郎が言い、

「そういうのはいいよ」と僕が言う。

「何でよ」

「いや、だって、何に乾杯すんのよ」

「ただ乾杯でいいだろ。じゃ、乾杯」

映志郎が自分のグラスを僕のグラスにカチンと当てる。

ビールだ。いわゆるクラフトビール。しゃれた細長いグラスに入っている。

それを一口飲む。まあ、おいしい。高めのお金をとるクラフトビールがおいしくなかったら困る。

「うーん。仕事のあとのビールはうまいな」と映志郎。

「ビールがまずいのは、飲みすぎたときぐらいだけどね」と僕。

「何、加茂も飲みすぎること、あんの?」

「なくはないよ」

「意外だな」

「でもそんなにはないかな。気持ちよくなりたくて飲むのに気持ち悪くなるって、意味がわかんないしね」

「そりゃそうだけど、飲むときは飲んじゃうだろ。で、どうする? バーガーにするだろ?」

「うん」

今日もまた丸の内。ダイニングバー。合コンのときのイタリアンな店とはちがい、アメリカンな店。だからメニューにハンバーガーがある。タコライスやロコモコもある。丸の内にしては珍しく、かなり遅くまでやっているらしい。

二人なので、僕らがいるのはカウンター席。

メニューを見て、映志郎が言う。

「おれはフライドチキンバーガーにするかな」

「僕は牛タンバーガーだな」

「ポテトはバーガーにちょっと付いてくるっぽいから、あとはオニオンリングを頼むか」

「うん」

そして注文をすませる。

映志郎がビールを一気に飲み、すぐにお代わりを頼む。

「早いよ」と僕。

「このグラスならすぐだろ。ある程度入れちゃわないと、飲んだ気にならない」

この映志郎も、僕の友人ではない。同期。銀行員だ。今は財務企画部にいる。そこまで親しくはない。同期だからそれなりに、という程度。

日中、久しぶりに社屋で会い、帰り、メシ食ってこ、と言われた。珍しいな、と思ったが、断る理由もなかったので、うん、と返した。

仕事を終えたあと、玄関の外、ビルの角で待ち合わせ、永代通りを渡って丸の内に来た。店は映志郎が決めた。初めからここにするつもりでいたらしい。

「いや、この何日かさ」とその映志郎が言う。「どっしりしたバーガーが食いたいなと思ってたの。ファストフードのとかじゃなく、こういうとこの。串がぶっ刺さってるようなやつ」

「その串を抜いたら倒れちゃうようなやつだ」

「そう。食いにくいやつ」

「食いにくいって、それはもう食べものとしてマイナスだけどね」

「でもうまいんだよな。分けて出されたら味気ないし」

「まあね。分けたらバーガーじゃなくなっちゃうしね」

「高校生のころはさ、そういうの食わなかったよな」

「食べなかったね。値段的に手が出なかったし」

「単品で千円を超えるもんな」

「うん」

「この手のバーガーは初めからそんなだけど、ハンバーガー自体、高くなったよなぁ。今はもう、ファストフードの単品でも五百円とか当たり前じゃん。セットなら七百円八百円だし」

「そもそも高いのが増えたよね。安かったのも高くなったし」

「そうそう。そうなんだよな。一番安いのは一個百円みたいな時期もあったじゃん。それが今は二百円に迫る感じだもんな」

「ウチは田舎だったから、ファストフード店自体がなかったけどね。駅前にやっと一軒、という感じで」

「どこだっけ」

「片見里」

「あぁ。おれも矢板だから、似たようなもんだよ。家の近くにはなかった。わざわざ二十分チャリに乗って食いに行ったりしてたもんな。高校は宇都 宮まで行ってたから、そこにはあった

けど」

「高校は私立なんだっけ」

「そう。近くに適当な公立がなかったからな。あのころはまだ公立だと学区があったけど、私立なら関係ないっていうんで、三十分電車に乗って通ってたよ。駅からは十五分で、トータル一時間」

「かかるね」

「かかる。高校でそれはきつかったよ」

「僕も四十五分かかってたけど、そこからの十五分はきついな」

「チャリだけで通えるやつとかさ、マジでうらやましかったよ」

「部活はやってた?」

「ああ。サッカー」

「三年までやった?」

「一応。うまくはなかったけどな。試合には、出たり出なかったりで」

「部活もやって通学に二時間は大変だ」

「だからその二時間で勉強してたよ」

「すごいな。電車、座れたわけ?」

「座れることもあったけど。立ちでも」

「ほんとにすごいじゃない」

「立ちだとむしろ気が紛れてよかったよ。テキストとか読んでると、立ってんのが気にならなくなる。って、まあ、それはいいけど。そんななんで、実家の近くにハンバーガー屋はなかったからさ、母ちゃんがスーパーで買ってくるハンバーガーで我慢するしかなかったんだよな」

「スーパーのハンバーガー?」

「あるじゃん。あの、百円ぐらいの安いやつ」

「あぁ。一応、ハンバーガーっぽく、紙に包まれてるやつだ」

「それ」

「今もあるよね」

「あるな。パンのコーナーに置かれてる。菓子パンとかと一緒に。よく考えたら、あれで常温保存できるっていうのもすごいよな。紙だから、密封すらされてないだろ、たぶん」

「そう、だね」

「あれ、何の肉なんだろうな」

「豚とか、鶏とか?」

「牛ではないよな」

「おそらく」

「あれはあれでうまいけどな。というか、あのころは、おれにとってあれこそがハンバーガーだったし。ファストフードのだって高級に感じてたからな」

「じゃあ、これなんか最高級だ」

「最高級だよ。しかも丸の内で食す。おれも出世したもんだよ」

「偏差値が高かっただけでしょ」

「うわ、すごいこと言うな。さすが、加茂」

「事実だからしかたないよね」

事実だからしかたない。だが確かに、そう言うと、それだけで自慢ととられることがある。

何で? といつも思う。そう言えないなら、その事実を人に説明するときにどう言えばいいのかと。優秀? 聡明? わかりづらい。頭脳明晰? そのほうがヤラしい。

わかってはいる。自分では言わないようにするべきなのだ。その手の話題は避ける。誰かに

言われたら、そんなことないよ、と控えめに返す。

というそのこと自体をバカらしく感じるから、僕は普通に言うことにしているだけなのだが。

二杯めのビールも飲み干した映志郎が三杯めを頼んだところで、ようやくバーガーが届く。

まさにどっしり。串、刺さっている。銀色のあれだ。

その串を抜き、結局はバンズと牛タンパテを分けて食べる。

映志郎はちがう。串を抜いたあとに両手で上から押さえつけ、無理やりバーガーとして食べる。横からかぶりつく。

だがそうできるのも一口めだけ。皿に戻すと、バーガーはやはり崩れる。映志郎はそれをどうにか補修する。最後まで、バーガー、でいくつもりらしい。

オニオンリングも食べ、三杯めのビールを一口飲んで、映志郎が言う。

「今日は報告もあるんだよ」

「報告。何?」

「えーと」

「もしかして、転職するとか?」

「いや。転職はしない」

「じゃあ、ウチをやめて起業するとか?」

「まさか。それもしないよ。そっちは絶対しないな」

配信元: 幻冬舎plus

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