夫の裏切りを知ったことで、沙織の心は冷え切ってしまった。子どもたちにも優しい、あの和也の顔が、裏で気持ち悪いメッセージを送っていたと思うと、彼の存在そのものが受け入れられない。しかし、彼女の心は拒絶しても、現実は厳しかった。長年かけて返済した400万円の借金、そして子ども三人を抱える経済的な不安。沙織は、感情と現実の狭間で、苦しい決断を迫られていた。
子どもが触れるのも許せない。優しくするほど「気持ち悪い」夫への拭えない嫌悪感
和也の裏切りが発覚してから、沙織の気持ちは一変した。
「気持ち悪い」
それが、和也に対する偽らざる感情だった。子どもたちにも優しく接する彼の姿を見るたびに、裏で「癒やされる」と他の女性に甘い言葉を投げかけていたことがフラッシュバックし、ゾッとする。
子どもたちが夫に触れることすら、許したくないと感じてしまうほどだった。
「こんな父親で、子どもたちがかわいそう」
そんな思いが、沙織を苦しめた。子どもたちは和也になついている。その父親の裏の顔を知っているのは、自分だけだ。
400万円の借金と共働き子育て。すべての苦労を無責任に踏みにじった夫
沙織の和也に対する信用は、もはやゼロだった。それは、今回の一件だけでなく、実は夫が作った400万円もの借金を、共働きで子育てと育児をしながら、ようやく返済し終えたばかりだったという経緯も大きい。
借金という経済的な負担を乗り越えたと思ったら、次は女性関係。沙織は、これまでの苦労すべてを、和也が無責任に踏みにじったように感じていた。
こんな夫とは今すぐにでも離婚したい。感情的にはそうだった。しかし、沙織には現実的な壁が立ちはだかっていた。子ども3人を養えるほどの経済力が、今の彼女にはなかったのだ。
「せめて、子どもたちが大人になるまで…」
沙織は、感情を殺し、夫を「子どもたちの父親」として割り切って婚姻を継続することを考え始めた。自分の感情よりも、子どもたちの生活と未来を優先する。それは、あまりにも辛い選択だった。だが、彼女はただこの状況に甘んじるつもりはなかった。このまま関係を続けるならば、和也に対して厳しい条件を突きつける必要があると考えた。

