
キタニタツヤが、5月28日に都内で開催された「大ゴッホ展 夜のカフェテラス」取材会に登場。手がけた同展のイメージソングの制作秘話や創作のこだわりについて語った。
■ファン・ゴッホの前半生に焦点を当てた展覧会
5月29日(金)から東京・上野の森美術館で開催される同展は、2回にわたって行われる展覧会の第1期。バルビゾン派やハーグ派の影響を受けた草創期のオランダ時代に始まり、印象派を中心とする画家たちと交流したパリ時代を経て、南仏アルルで傑作「夜のカフェテラス(フォルム広場)」を描くに至るまでの、ファン・ゴッホの前半生に焦点を当てている。8月12日(水)まで開催。第2期は2027年から2028年に開催される予定。
取材会に登場したキタニは、一足早く鑑賞した同展について「僕はそれほどゴッホという作家について詳しい人間ではなかったのですが、そんな自分でも知っている“ゴッホ像”というものがあって、それをオランダ時代からパリ時代を経て、アルルに至るまでの道筋みたいなものを順を追って分かりやすく示してくれているように感じました」と告白。
さらに、印象に残った作品について「オランダ時代の『秋の風景』という作品です。自分が存じ上げない作品だったんですけれど、その横にゴッホ自身が作品について言及している書簡の引用がついていて、それも込みで見た時に、素人目で見たら何でもない風景のように思ってしまうような風景画だったんですけど、ゴッホは『4度、この景色と取っ組み合いをした』というふうに言っていて。つまり、これを描くことで成長の機会を得ると思って、何度もトライ&エラーをしたということだと思うんです。それが自分にとってはちょっと衝撃的でした。『天才画家』みたいな語られ方をすることが多い方なので、そんなゴッホでもこういう積み重ねをして、1個ずつ自分の殻を破って技術を身に付けるという過程をちゃんと踏んでいるだなということをまざまざと見せつけられた感じがあって、そういうバックグラウンド込みで感動した作品でした」と明かした。
また、アーティストとして共感できた部分について「(ゴッホは)自分の好きなアーティストの模写をすごくしていて、そこから模写を基にしてアレンジを加えて自分なりの作品にしているものもあったりして。自分も二次創作みたいなこともしてきましたし、何かを創る上で必ず下敷きになる自分が好きな作品みたいなものはいくつか絶対にあるので、ゴッホもやっていることは実は自分と大きくは変わらないんだなということを知れて面白かったです」とにっこり。
■アーティストとしての表現の軸について言及
ほか、イメージソング制作について「絵画の展覧会に対してイメージソングを書かせていただくというのが、自分の作曲家人生で初めてのことでした。(来場者が)ゴッホの本物の作品を見ることができるというのはなかなかない機会だと思いますし、そのすばらしい体験をした後の何とも言えない余韻を、僕の音楽で汚してしまうことは絶対にないようにと、勝手にプレッシャーをめちゃめちゃ感じておりました(笑)」と漏らして笑いを誘った。
そして、「肺魚」というタイトルについて「他の魚たちがエラ呼吸で水の中を健やかに生きていく中で、『自分だけ肺呼吸をしなければならないってどういう感覚なのだろう』と思った時に、みんなが健やかに暮らせる環境が、自分はたまに息継ぎする必要のある息苦しさを常に感じているような状況なのかもしれないと思ったり。あと、肺魚は夏眠するのですが、いろんな生命が活発に動く時季に、一人で自分の殻に閉じこもって眠っているのもすごく示唆的だなと思って。そういったみんなにとってデフォルトの環境でも、なにか自分だけがあまりうまく生きられない瞬間があるって自分もすごく感じるし、ゴッホの作品の前に映った自分の姿の例えとして『肺魚』というタイトルを付けました」と語った。
そんな中、「創作上のこだわりや日々大切にしている表現の軸は?」と聞かれると、「自分が好きなものの中から、みんながなるべく気に入ってくれるものを選べば、それは多くの人に聴いてもらえるんじゃないかと思っているんですけど、でも前提として『自分が大好きなものじゃないといけない』というふうに思っていて。特に、自分が好きなメロディーの動きとか言葉の単語の手触りとかがあって、そういった『俺やたらこういうの好きだな』っていうのを、ちゃんと毎回遠慮することなく前面に押し出して書くようにしています」と打ち明けた。
◆取材・文=原田健

