高齢女性から特殊詐欺でだまし取った現金600万円をコンビニのトイレに隠し、別の人物に受け取らせたとして、台湾籍の17歳少女が組織犯罪処罰法違反(犯罪収益等隠匿)の疑いで福岡県警に逮捕された。
朝日新聞によると、少女は「詐欺のお金とは思わなかった」と供述しているという。また、読売新聞によると、「ただで日本を観光できると思い、アルバイトを手伝った」と話しているという。
県警は、犯罪グループから秘匿性が高い通信アプリで指示を受けていたとみているようだ。
事件の詳細は不明だが、詐欺で得た金を移動させたり、隠したりしただけでも、いわゆるマネーロンダリング(資金洗浄)として罪に問われてしまうのだろうか。刑事事件にくわしい澤井康生弁護士に聞いた。
●隠匿=「捜査機関の発見や追跡を困難にする行為」
──他人からだまし取った金をどこかに隠す行為だけでも犯罪になるのでしょうか。
詐欺で得た金を隠した場合、「犯罪収益等隠匿罪」に問われる可能性があります。
法定刑は10年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金、またはその併科で、比較的重い犯罪類型といえます(組織犯罪処罰法10条1項)。
犯罪収益等隠匿罪は、詐欺をはじめとする刑法犯など(前提犯罪)によって得た犯罪収益を隠匿することで成立する犯罪です。
犯罪収益が組織犯罪の資金源となり、健全な経済活動に悪影響を及ぼすことから設けられた規定です。
一般に「隠匿」とは、犯罪収益を物理的に隠匿したり、海外の銀行口座への送金や、第三者名義口座への送金をしたりするなど、捜査機関による発見や追跡を著しく困難にする行為を指すとされています。
過去の裁判例では、第三者名義で借りたトランクルームへの搬入(東京高裁平成17年11月17日判決)、現金を畑に埋めていたケース(横浜地裁平成25年6月18日判決)、実母宅の金庫に保管したケース(大阪地裁平成19年8月10日判決)などが隠匿行為と認定されています。
要するに、捜査機関による犯罪収益の発見や追跡を困難にする性質を持つ行為が「隠匿」にあたるということです。
●「闇バイト」はもはや「闇犯罪のデパート」
──今回のようなケースではどうなるでしょうか。
報道によると、特殊詐欺によって得た現金をコンビニのトイレの便座とタンクの隙間に隠していたとされています。
犯人グループと無関係とみられるコンビニ内で、しかも通常は人目につきにくい場所であることから、捜査機関による犯罪収益の発見や追跡を困難にする行為として犯罪収益等隠匿罪に該当すると考えられます。
ただし、犯罪収益であることの認識(故意)がなければ犯罪は成立しません。
少女が「犯罪のお金とは知らなかった」と供述していると報じられており、実際に犯罪収益であることを認識していたのかどうかは重要な争点になる可能性があります。
特殊詐欺をはじめとする「闇バイト」は、一度関与するとさまざまな犯罪に問われることから(詐欺、窃盗、強盗、強盗予備、盗品等関与罪、職業安定法、犯罪収益移転防止法など)、そもそも関わらないようにすることが重要です。
結局のところ、実行役は「捨て駒」として利用されるだけで、得られる利益に比べて負うリスクがまったく割に合いません。そう考えると、もはや「闇バイト」という呼び方よりも、闇犯罪のデパートと呼んだほうが実態に近いかもしれません。
【取材協力弁護士】
澤井 康生(さわい・やすお)弁護士
警察官僚出身で警視庁刑事としての経験も有する。ファイナンスMBAを取得し、企業法務、一般民事事件、家事事件、刑事事件などを手がける傍ら東京簡易裁判所の非常勤裁判官、東京税理士会のインハウスロイヤー(非常勤)も歴任、公認不正検査士試験や金融コンプライアンスオフィサー1級試験にも合格、企業不祥事が起きた場合の第三者委員会の経験も豊富、その他各新聞での有識者コメント、テレビ・ラジオ等の出演も多く幅広い分野で活躍。陸上自衛隊予備自衛官(2等陸佐、中佐相当官)の資格も有する。現在、早稲田大学法学研究科博士後期課程在学中(刑事法専攻)。朝日新聞社ウェブサイトtelling「HELP ME 弁護士センセイ」連載。楽天証券ウェブサイト「トウシル」連載。毎月ラジオNIKKEIにもゲスト出演中。新宿区西早稲田の秋法律事務所のパートナー弁護士。代表著書「捜査本部というすごい仕組み」(マイナビ新書)など。
事務所名:秋法律事務所
事務所URL:https://www.bengo4.com/tokyo/a_13104/l_127519/

