
永作博美が主演を務める火曜ドラマ「時すでにおスシ!?」(毎週火曜夜10:00-10:57)。鮨アカデミーを舞台にした学園ドラマでありながら、家族の物語でもあり、人間ドラマでもある本作は、笑えるやりとりの中に、ふと心に残る言葉がちりばめられているのも魅力の一つだ。そんな本作を手がけた脚本家・兵藤るりさんに、脚本やサブタイトル制作の裏話について語ってもらった。
■50歳主婦が第二の人生を歩みだす姿を描く“人生応援ドラマ”
本作は、“飯炊き3年握り8年”といわれる伝統ある鮨職人の世界と、現代の価値観が交差する鮨アカデミーの中で描かれる、「笑いあり! ロマンスあり! そして美味しいおスシあり!」 の完全オリジナルの人生応援ドラマ。
「子育て卒業」という大きな一区切りを迎え、50歳で久しぶりに自分の時間と向き合うことになった待山みなと。これまでいつも「誰かのため」に全力で走り続けてきたみなと(永作)が、ひょんなことで足を踏み入れたのは、3ヶ月で鮨職人になれるという“鮨アカデミー”。
そこで待ち受けていたのは、鮨へのリスペクトが強すぎる堅物講師・大江戸(松山ケンイチ)や、世代も個性もバラバラな仲間たちだった。そんな“鮨アカデミー”でのさまざまな出会いによって、みなとは自分のために“第二の人生”の一歩を踏み出していく。
また、これまで誰かのために一生懸命走り続けてきたみなとと、ある事情で他人と深く関わるのを避けてきた大江戸という正反対な2人は、新たに飛び込んだ環境で心を通わせていく。

■さまざまな要素が混ざり合う本作は「全部が挑戦だった」
兵藤さんは今回の執筆について、「本当に全部が挑戦だった」と振り返る。鮨アカデミーを舞台にしながら、コメディー、青春、家族関係など、さまざまな要素が混ざり合う独特のテンポ感も、本作ならではの魅力だ。
「学園ものという、ある特定の場所で起こる人物劇を書くのも初めてでしたし、しかも“鮨を習う”という珍しい場所じゃないですか。そういう意味でも、何もかもが新鮮でした」と明かす。
兵藤さんがこれまで紡いできたセリフからは想像できない言葉も飛び出す。「“タイマン”とセリフに書いたのも初めてですし、ト書き(セリフ以外の動作や表情などの指示)に“デコトラ”と書いたのも人生初でした」と笑顔を見せる。
これまでにないジャンルや空気感への挑戦も、兵藤さんにとっては新鮮な楽しさにつながっていたようだ。

■松山ケンイチの表情芝居に「あそこまでやってくださるとは(笑)」
人生ドラマとしての共感性を持ちながらも、随所にコミカルな演出が差し込まれている本作。そんなコメディー要素について兵藤さんは、「楽しく見てもらうためのメリハリの部分」と語る。
「共感してもらいたい部分や、その回のメッセージになる部分は、軽快なやり取りというより、ちゃんと聞かせるセリフとして書くことを意識しています」
一方で、それだけでは“真面目なメッセージ性のあるドラマ”になりすぎてしまうことから、「“さかな組長”の顔芸のように、ちょっと笑える要素を入れることで、“楽しかった”という余韻にもつながるんじゃないかなと思って、そういう要素を入れていきました」と明かす。
その“象徴”とも言えるのが、“さかな組長”こと大江戸海弥(松山ケンイチ)の存在だ。
「(脚本に)“やっちまった”とは書いていましたが、あそこまでやってくださるとは思っていなくて(笑)」と、想像を超えて広がっていく松山さんの芝居に圧倒されながらも、「それでもちゃんと大江戸先生のキャラクターとして成立しているのがすごい」と驚きを口にする。
「脚本の段階から想像していた以上に、皆さんがキャラクターを立たせてくださった」と振り返り、「演者さんのお芝居で広がっていった部分はすごく大きかった」と語った。

■みなとと泉美、渚と森の関係性に込めた思い
キャラクター作りでは、出演者本人の個性が大きく影響した部分もあったという。中でも、みなとの親友・磯田泉美については「完全に有働由美子さんありきだった」と明かす。
「“有働さんをいかに生かすか”みたいなところから、泉美というキャラクターが出来上がっていった気がします」と裏話を語る。慎重で真面目なみなとに対し、泉美は大胆で自由奔放。その絶妙な対比も、有働の存在があったからこそ成立したバランスだった。
特に兵藤さんが印象に残っているのは、泉美の行きつけのカラオケスナック「べてらん子」でのシーン。「『べてらん子』のシーンの有働さん、本当に輝いていました(笑)」と振り返る表情からも、その存在感の大きさがうかがえた。

また、みなとの息子・渚(中沢元紀)と、みなとのクラスメートで親への反発心を隠さない森蒼斗(山時聡真)の関係性についても、「二人とも、自分の好きなことに向かって頑張っている姿勢は同じなんです。根底にある熱さは似ている」と語る。
第7話で二人がパンケーキ店を訪れるシーンについては、「渚は“頑張らなきゃ”と思うほど視野が狭くなってしまうタイプなので、そこをこじ開けてくれるような友達がいてくれたらいいな、という思いも込めていました」と明かした。

■思い入れのあるキャラクターは「蘭子ネキ」
好きなキャラクターを尋ねると、兵藤さんは「蘭子ネキ(姉貴)です(笑)」と即答し、猫背椿が演じる小宮山蘭子への愛着をのぞかせる。「そこまで多くを語らなくても、その場をつないでくれる存在なんです。視線でアシストしたり、思いきり盛り上げてくれたり」。
物語の終盤では、そんな蘭子が“いつもより少ししゃべる”シーンも登場すると言うが、「でも、全部は明かさないんですよね。そういうミステリアスさも魅力だと思います」とも。

さらに、本作を語る上で欠かせないのが、毎話登場するダジャレの存在だ。もともとは“大江戸先生が少しダジャレを言う”程度の設定だったが、気づけば作品全体のカラーになるほどに発展。サブタイトルにも採用されるようになった。
「最初は“面白いかな”と思って始めたんですが、結果的に自分で自分の首を絞めています」と苦笑いを浮かべる。特に苦労したのは、第8話の“エビ”回。「ダジャレな上に、その回のモチーフに合わせるっていうルールまで自分で作ってしまって」と笑う。
ダジャレを言うフランス人留学生・セザール(Jua)の存在も加わったことで、「キャラクターとしてはすごくかわいいんですが、書いているほうは大変でした(笑)」と本音ものぞかせる。
それでも、「視聴者の方が“毎回あってほしい”と思ってくれる要素になったらいいなと思って続けていました」と、脚本家としての心意気を感じさせる。

■佐藤江梨子“温子”のキャラに生かされた“ヤンキー恋リア”の衝撃
第5話に登場した森の母親・温子(佐藤江梨子)は、制作途中で大きくキャラクターが変化した人物だった。
第4話までを作り上げる中で、プロデューサーから本打ちで「当初の温子の設定より、もう少し明るくインパクトのあるキャラクターにしたい」という話があり、提案されたのが“ヤンキー”だったという。その参考として薦められたのが、あるヤンキーの恋愛リアリティーショーだった。
「人生で初めて恋愛リアリティーショーを見ました(笑)」と笑う兵藤さん。年末最後の打ち合わせで突然告げられたことから、「一人で年越ししながら見ていました。“なんだこれは”と衝撃でした(笑)」と、思わぬ年越しになった様子を語った。そのエッセンスを取り入れて生まれた温子については、「書いていてすごく楽しかった」と振り返る。

また、永作博美も第5話の“わちゃついている感じ”を楽しんでいたそうで、森親子がケンカをするシーンで、「“タイムです”と、みなとが割って入るところが『めちゃくちゃ面白かった』と言ってくださっていたそうです(笑)」と、撮影現場の和やかな空気ものぞかせた。
そんな本作について、兵藤さんは「誰にとっても、第二の人生や、何かを始める節目みたいなものはあると思う」と前置きした上で、こう語る。
「一歩を踏み出すことで得られるものもありますし、逆に責任を感じたりすることもあると思います。ですが、それも全部含めて、この物語に込めた前向きな気持ちを受け取っていただけたらうれしいです」
そんな兵藤さんの言葉には、本作の前向きで温かな“余韻”が改めて感じられた。


