「味噌汁を飲めばがんが予防できる」という情報を耳にしたことがある方もいるかもしれません。しかし、研究が示す内容を正確に理解することが大切です。国立がん研究センターによる疫学研究のデータをもとに、乳がんや胃がんのリスクと味噌汁摂取の関係について、過大評価も過小評価もせずにお伝えします。

監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。
疫学研究が示す味噌汁と乳がん・胃がんリスクの関係
このセクションでは、実際に行われた疫学研究のデータをもとに、味噌汁の摂取と特定のがんリスクとの関係について説明します。「味噌汁を飲むとがんが予防できる」という言説が一人歩きしやすい分野ですが、研究の示す内容を正確に理解することが大切です。
乳がんリスクとの関係を示す研究データ
日本において乳がんは女性のがんのなかで罹患率が高い部類に属します。国立がん研究センターが実施した多目的コホート研究では、味噌汁の摂取頻度と乳がん発症率の関係が調査されました。この背景には、前述の大豆イソフラボンの関与が考えられています。ただし、この関連は「飲む量が多いほど確実に乳がんが予防できる」という単純なものではなく、食習慣全体や生活環境、遺伝的要因など多くの要素が複合的に影響していることも忘れてはなりません。研究の結果はあくまでも「傾向」として捉えることが適切です。
また、閉経前・閉経後によってもイソフラボンの作用は異なる可能性が指摘されています。閉経後の女性では、体内のエストロゲン量が減少するため、イソフラボンのエストロゲン様作用がより顕在化しやすいとされており、個々の状況に応じた評価が必要です。
胃がんリスクと味噌汁の関係をめぐる議論
胃がんについては、味噌汁と塩分の問題が絡むため、より複雑な議論があります。塩分の過剰摂取は胃の粘膜を傷つけ、ピロリ菌(Helicobacter pylori)の感染と相まってがん化するリスクを高める可能性があるとされています。そのため、「塩分を含む味噌汁は胃がんリスクを上げるのではないか」という懸念が生じることもあります。
しかし、国立がん研究センターの研究グループによると、味噌汁の摂取それ自体が胃がんリスクを高めるという明確な根拠は示されていません。むしろ、味噌に含まれる抗酸化成分や発酵産物が胃粘膜を保護する可能性も議論されています。ただし、塩分の総摂取量が多いほど胃がんリスクが高まる可能性があります。重要なのは、摂取する塩分量の総量であり、味噌汁だけを取り立てて悪者にすることは適切ではありません。
ピロリ菌の感染がある方や、胃の不調が続く方は、消化器内科などで相談のうえ、食生活全体を見直すことが大切です。
がん予防における味噌汁の位置づけ
現時点において、「味噌汁を飲めばがんが予防できる」と断言できる段階には至っていません。ただし、日本人を対象とした複数の疫学研究が、大豆・味噌の摂取と一部のがんリスク低下との関連性を示しているのは事実です。この点を過大評価も過小評価もせず、バランスよく理解することが求められます。
がん予防の観点からは、特定の食品に頼るのではなく、野菜・果物・豆類・全粒穀物を中心とした食事パターン全体を整えることが、エビデンスに基づく方針として広く推奨されています。味噌汁はその食事パターンの中に自然と組み込まれるものであり、日本の伝統的な食文化のなかで継続的に摂取されてきた背景からも、健康的な食習慣の一部として位置づけることができるでしょう。
まとめ
味噌汁はがん予防との関連性が研究で示されつつあり、塩分については発酵食品ならではの特性を踏まえた正しい理解が求められます。飲みすぎによる塩分過多には注意が必要ですが、具だくさんにして汁の量や濃さを控えめにし、1日1杯程度を目安に減塩の工夫を取り入れれば、健康的な食生活の一部として活用できると考えます。味噌汁は「がん予防の特効食品」ではなく、減塩を意識した食生活の中で上手に取り入れたい食品と言えるでしょう。気になる症状や持病がある方は、消化器内科や腎臓内科などに相談しながら、自分に合った摂取方法を見つけることをおすすめします。
参考文献
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
食品安全委員会「大豆イソフラボンを含む特定保健用食品の安全性評価の基本的な考え方」
国立がん研究センターがん情報サービス「がんの統計・予防」
農林水産省「大豆及び大豆イソフラボンに関するQ&A」
- 味噌汁に含まれる栄養素と健康効果とは? 味噌汁が健康に良い理由を管理栄養士が解説
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