星月夜の3つの見どころ
そんな極限状態のゴッホによって描かれた『星月夜』の見どころについて紹介します。
ゴッホ作品の特徴である「うねり」の表現
1889年9月、サン=レミ。油彩、キャンバス、65 × 54.2 cm。オルセー美術館, Public domain, via Wikimedia Commons.
『星月夜』でまず目を惹くのは、特に夜空の"うねり"です。渦状運動によって、見る側としては強烈な不安を感じます。これは同時代の他の画家には見られない、ゴッホ独自の表現技法です。
この"うねり"は、1888年末の耳切事件後によく見られます。ゴッホが精神病院や療養所で苦しみながら生活していた時期の苦悩が表れたものでしょう。
力強さを感じる厚塗り
ペイントの厚塗り塗布。フィンセント・ファン・ゴッホ:星月夜、1889年。詳細, Public domain, via Wikimedia Commons.
厚塗りもゴッホが得意とする技法です。ただし論理的にこの技法にたどり着いたのではなく、感覚として気付いたら厚塗りになっていたのかもしれません。
『星月夜』にもこの厚塗り表現が見られます。当時は憔悴していたゴッホでしたが、絵画に対して不安や情熱をぶつけていたようです。この激しい筆致を見ると、さらに当時のゴッホの心境に思いをはせることができますね。
死の象徴である「糸杉」
『糸杉のある小麦畑』1889年6月、サン=レミ。油彩、キャンバス、73 × 93.5 cm。個人コレクション, Public domain, via Wikimedia Commons.
『星月夜』では画面左側に大きな糸杉が描かれています。このころのゴッホは糸杉にも惹かれており、弟のテオに「糸杉の連作を作りたい」と伝えています。
糸杉はヨーロッパ文化で、古代から「死」と結び付けられてきたモチーフです。特に墓地に多く植えられている木でした。この時期に糸杉を多く描いたゴッホは、死にたかったのでしょうか…。当時、ゴッホが死を意識していたのかどうか、現在でも議論が行われています。
星月夜はゴッホの情熱が表れた傑作
今回はゴッホが描いた『星月夜』の見どころを紹介しました。後年になって、ウディ・アレン監督の映画『ミッドナイト・イン・パリ』のポスターにも使われるなど、人気を博した作品です。
その背景には、精神的に疲弊しつつも、キャンバスの前に座り続けたゴッホの情熱があります。こうしたバックグラウンドを知ったうえで見てみることで、作品に深みが出ることでしょう。
ぜひ、あらためて『星月夜』を隅々まで鑑賞してみてください。
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