『フランダースの犬』の主人公・ネロが見たかった絵って?巨匠ルーベンスの作品を解説

『キリスト昇架』の展示風景, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

この記事では、『フランダースの犬』に登場する巨匠ルーベンスの作品について、歴史背景などを踏まえて解説していきます。

ネロが憧れたルーベンスはどんな人物?

ルーベンスの自画像, Public domain, via Wikimedia Commons

ピーテル・パウル・ルーベンスはヨーロッパ貴族を中心に大きな評価を得たバロック期を代表するフランドルの画家です。16世紀末から17世紀中旬までに活躍し、7か国語を操り外交官としても実績を残しました。

カルヴァン派(プロテスタント)の父を持ちながら、自身はアントウェルペンでカトリックの教育を受けて育ったため、対抗宗教改革の影響を受けた作品も多く残しています。
対抗宗教改革とは、プロテスタントの宗教改革に対抗してカトリック内で起こった改革運動を指します。

ルーベンスは美術を学ぶために17世紀の初めをイタリアで過ごしたという経歴があり、ローマでは古代ローマ・ギリシャの偉大な作品を模写する機会を得ました。

イタリアで古代芸術やティツィアーノ、カラヴァッジョの影響を受けたルーベンスは、その後アントウェルペンに戻ってからすぐに『キリスト昇架』と『キリスト降架』にとりかかりました。

▼ルーベンスの人生や作品についての記事はこちら

本業は外交官?多才な画家ルーベンスの人生と作品の見どころ紹介!

ピーテル・パウル・ルーベンス(1577-1640年)はバロック期のフランドル画家です。アントワープにおける宗教画に代表されるように芸術家としても成功を収めたルーベンスですが、実は画家以外にも外交官や公…

ネロが見たかった絵①『聖母マリア被昇天』

Rubens, Mariä Himmelfahrt (Antwerpen), Public domain, via Wikimedia Commons.

ネロが観たかった作品の1つはルーベンスの『聖母マリア被昇天』です。聖母マリアはイエスの母であり、彼女が地上での人生を終えたのち、天上世界で引き上げられるシーンが主題になっています。

通常キリスト教徒は亡くなると、最後の審判を待ち、その後天上世界(もしくは地獄…)に行きます。しかし聖母マリアは神イエスを産んだ特別な存在なので、死後すぐに天上に昇りました。

「昇天」ではなく「”被”昇天」という訳が日本語で伝統的に使われているのは、聖母マリアが神によって「引き上げられた」というニュアンスを含むためです。

ルーベンスは1611年から本作の制作を開始し、作品が完成したのは1626年でした。つまり、15年の時間が費やされています。(ずっとこの作品だけを制作していたわけではないかもしれませんが…(笑))

ルーベンスの『聖母マリア被昇天』では、天使の聖歌隊が聖母を囲みながら天上に連れていく様子が描かれています。神聖な光に包まれ、聖母マリアはまるで歌っているかのように軽やかな表情です。

聖母の下にあるのは、彼女の墓で、周りには11人の使徒が描かれています。本来12人のところ11人しかいないのは、この場面に使徒トマスが不在だったという伝説に由来するそうです。

11人の使徒以外には、マグダラのマリアと聖母マリアの2人の姉妹と考えられる女性も描かれています。

地上に描かれた人々は大きく手を広げたり、棺のなかをのぞきこんだり、聖母マリアを見上げたり、それぞれの感情を表しています。

穏やかな色合いではあるものの、バロックらしい躍動感は確実に表現されており、ドラマチックな作品です。

画家を志していたネロは、ルーベンスのこの作品を見ることを夢見ていたのですね…。

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