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中森明菜、トップアイドルから孤高の俳優へ――“3人の美しい悪女”に翻弄される、90年代初期の伝説的サスペンス<悪女>

中森明菜、トップアイドルから孤高の俳優へ――“3人の美しい悪女”に翻弄される、90年代初期の伝説的サスペンス<悪女>

「悪女A・B」
「悪女A・B」 / (C)共同テレビジョン

「今の世の中、主導権を握るのはね、タフで賢い、女」――1990年代初期、そんなセリフを体現する3種3様の“悪女”を演じた中森明菜。1980年代に音楽界の頂点を極めたトップアイドルは、1990年代に入ると大きな転換期を迎える。そのスイッチとなったのが、この「悪女」シリーズだ。彼女は本作で、一人の表現者・俳優として“新しい顔”を見せ、世間に衝撃を与えた。

■中森明菜が体現した、美しすぎる“悪女”の魅力

彼女の覚醒を刻んだ貴重なサスペンス2作が、今蘇る。中森明菜の主演作「悪女A・B」(1991年)が6月7日(日) 深夜1時30分より、「悪女II サンテミリオン殺人事件」(1993年)が6月18日(木)夜10時15分より、CSホームドラマチャンネルにて放送される。第二のフェーズに入った彼女が体現した、美しすぎる“悪女”の魅力を改めて紐解きたい。

なお、平成生まれの筆者は彼女の全盛期をこの目で見ていないが、“中森明菜”という名前とその圧倒的な存在感は、当たり前のように知っている。今回は、1980年代の音楽シーンを牽引した、時代を象徴する大スターである彼女への敬意を込めて、親しみを持ちながら、ここからは“明菜”と表記させていただく(以下、ネタバレあり)。

■タイプが違う3人の“美しき悪女”の凄み

1980年代の純粋無垢な美少女から、1990年代には“一人の孤高の美女”へと成長を遂げた明菜。その変化の中で、本シリーズは歌手から“役者”へと幅を広げ、新境地を切り拓くドラマとなった。30年以上経った今も、その姿は色褪せない唯一無二の美しさを誇っている。

「悪女A」では結婚による保険金殺人を繰り返す悪女、「悪女B」では男2人を操り宝石強盗を企てる悪女、精度を増した「悪女II」では“愛”に執着して完全犯罪をも辞さない悪女。色気溢れる洗練された大人の女性、愛らしくも妖艶で計算高い女の子、そして哀愁と孤独を纏った儚い女性――。一言で“悪女”と括るにはあまりにタイプが異なる3人を、明菜が一人で見事に体現している。

だが、いずれのキャラクターにも“男を翻弄する女”という共通点がある。そして、見事なまでの表裏の二面性だ。明菜特有の“儚いウィスパーボイス”が表の顔なら、“冷徹で芯のある声”は裏の顔。その声と雰囲気のスイッチによって、普通の女性が悪女へと切り替わる。完全に別人として画面に立ち上る恐怖と美しさに、作中の男たちと共に我々視聴者も魅了されてしまう。

ただ「悪女A・B」の2人は“動”であり完全なる悪と言えるが、「悪女Ⅱ」の1人は“静”であり、単なる悪では片付けられない悲哀があるところもまた憎い。3人それぞれの悪女から明菜の異なる美しさが切り取られており、彼女にしか演じられない悪女像がここに完成されている。

■古尾谷雅人、阿藤快、坂上忍ら明菜に翻弄される男たち

そんな明菜に翻弄される男たちを演じるのは、阿藤快(当時は阿藤海)や坂上忍といった、いま見ると非常に贅沢で豪華な実力派俳優陣だ。個人的には坂上のビジュ爆発の美青年っぷりに慄いた。そんな名優たちが物語の土台をガッチリと支える中、本シリーズで最も印象に残る“男”は、やはり古尾谷雅人だろう。唯一「悪女A」と「悪女II」の2作品にメインキャラクターとして出演し、保険調査員とソムリエという全く異なる男を演じている。ただ、どちらの役でも明菜を追い詰めようとしながら、気付けば誰よりも彼女に翻弄されていく。

悪女として圧倒的な凄みを見せていた明菜。その美しさに隠れた鋭い牙や妖艶な魅力を120%引き出すには、彼女に負けない強烈な存在感と確かな演技力を持つ男が必要だった。それが、188cmの高身長という圧倒的なスタイルと、何を考えているかわからない独特な色気を放つ古尾谷だ。彼が「悪女II」に登場した瞬間、本シリーズのファンは歓喜の舞を踊ったことだろう。

■時代を超えて輝く、表現者・中森明菜的執念と美しさ

そんな本シリーズの制作は、「世にも奇妙な物語」(フジテレビ系)などを手がける、心理サスペンスの名門・共同テレビ。1990年代初頭の少し退廃的でゴージャスな映像美が光る。何ともオシャレでエモーショナルなその雰囲気と、明菜の相性は抜群だ。まるでお酒に酔っているようなふわふわとした心地良さと、少しの気持ち悪さを感じる映像美は、癖になる。

綺麗で可愛いヒロインではなく、あえて“悪女”という難役に挑み、圧倒的な役者魂で見る者をねじ伏せた明菜。私たち視聴者も劇中の男たちと共に、3人の悪女に愛憎を抱き、気づけば夢中になってしまう。そんな明菜の知られざる“新しい顔”に翻弄されるのは、実に甘美な悪夢である。

構成・文=戸塚安友奈

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