一日一冊読んでいるという“本読み”のアルパカ内田さんが、幻冬舎の刊行作品の中から「今売りたい本」を選んでレビュー。さらに“POP職人”としての腕を振るって、手描きPOPも作るコーナー。
今月のオススメはこちらです!
また、幻冬舎営業部の人気者・コグマ部長が新刊の中からセレクトする、アルパカ内田さんへの「オススメ返し」もあわせてお楽しみください!
【元カリスマ書店員でPOP職人のブックジャーナリスト
アルパカ内田さんが今、売りたい本】
第56回 吉田修一『タイム・アフター・タイム』
建設会社に勤める尾崎颯は、高校の同級生だった久遠愛と再会する。二人は同じプロジェクトの担当者として再び言葉を交わすようになるが、建築家のデザイン盗用疑惑によって計画は暗転。さらに尾崎の家庭にはスキャンダルが迫り、久遠もまた癒えない心の傷を抱えていた。揺れる心はやがて、二十年前の夏へと引き戻されていく。眩しい夏の初恋と二十年後の再会─あの日、二人は何を守り、何を手放したのか?
皆さん、こんにちは。修一作品なら毎日でもOKなアルパカ内田です。
なんと純粋で狂おしい恋愛模様なのだろう。物語はゲリラ豪雨の東京郊外で始まる。ドラマチックな再会から、あの夏の記憶が呼び起こされた。複雑に絡まる運命の赤い糸。身体の底から湧きあがってくる懐かしき思い出。美しい南の島で見た、空と海とが一体となった青い絶景は、とりわけ印象深い。
主人公の十字架を負った男女による、突然の嵐のような恋。高まる鼓動、生々しい吐息、とまどう感情。言葉にはならない切実な熱情をありのままに表現している。まっすぐに誰かを想う気持ちはいつも衝動。理性よりも圧倒的に本能が勝るのだ。ここには体感すべき豊かな文学世界がある。
脳裏に焼きついていたセピア色の光景が、いつしか鮮やかに彩られ、置き忘れていた大切な思い出が、次々と眼前に甦ってくる。素晴らしいラストシーンは涙でかすんで、読み進めるのが困難なほど。自分の居場所を探し求めた二つの魂の遍歴。その行方に心を奪われ、一筋縄ではいかない青春の日々に激しく胸を揺さぶられるのだ。
この物語を読んだ誰もが「特別な」感情を抱くに違いないが、それはありきたりの「共感」とは異なるはずだ。嫉妬、憧憬、後悔、蹉跌、諦念……偶然と必然が織りなす感情の渦に溺れそうになるかもしれない。過去があるから今がある。理想と現実の狭間をたゆたい、人それぞれの幸せのカタチを問いかける『タイム・アフター・タイム』は、誰のものでもない、僕ら自身の物語なのだ。

アルパカ内田さんの手描きPOP。ご自由に使っていただけます。その際、こちらにご連絡いただけると幸いです

