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#6 八重洲のごく普通のチェーン店の居酒屋で、上京してきた故郷の同級生男子とまずはビールで乾杯!|小野寺史宜

#6 八重洲のごく普通のチェーン店の居酒屋で、上京してきた故郷の同級生男子とまずはビールで乾杯!|小野寺史宜

小野寺史宜さんの最新刊『片見里足立アフェクション』には、ファミレスで、夜景の見えるバーで、居酒屋で、結婚式場で……と、とにかく「乾杯」シーンがたくさん出てきます。乾杯の場面で展開する、軽快、軽妙かつ深遠(?)な登場人物たちのやり取りを、少しだけご紹介。

*   *   *

ビール片手に懐かしい故郷・片見里のことを思い出しているうちに、なぜか「国民の1.5%は佐藤さん」話になり、この店の佐藤さんを探すことに?

まずはビールで乾杯。ジョッキをガチン。
次いで、メニューを見ながら、料理をじゃんじゃん頼んだ。
かわ。鶏レバー。豚レバー。しめさば。いか焼き。えいひれ。一応、女子なので、とわたしが言って、シーザーサラダ。

〈泊まりで東京に行くよ〉と雅輔が言うので、

〈じゃあ、飲もうよ〉と返した。

〈いいの?〉

〈いいよ。片見里でも飲んだじゃない〉

〈じゃあ、ぜひ〉

ということで、飲むことになった。

バー『トリノス』で飲んだとき、LINEのIDの交換はしてたのだ。わたしと恭香、と雅輔とで。だからやりとりはすべてLINEでおこなった。大して長くしたわけでもない。飲む約束をしただけ。あとは待ち合わせの時間と場所を決めただけ。

雅輔が泊まるのは東京駅の近くのビジネスホテル。だから八重洲で飲むことにした。駅直結の地下街というのも何なので、一応、外。ごく普通の居酒屋。チェーン店。

言ってしまうと、あの夜景のバーみたいなお店は難しいけど、普通の居酒屋でご飯、ぐらいならわたし出すよ、と充彦に言ったときに行くことを想定してた、普通の居酒屋、だ。わたしが大学時代にアルバイトをしてたような店。こぎれいで、居心地は悪くない。前に一度行ったことがあるのだ。八重洲で土曜なら空いてるだろうと思い、そこにした。

まずはビールで乾杯。ジョッキをガチン。

次いで、メニューを見ながら、料理をじゃんじゃん頼んだ。

かわ。鶏レバー。豚レバー。しめさば。いか焼き。えいひれ。一応、女子なので、とわたしが言って、シーザーサラダ。

結局、わたしがほとんど選んでしまった。雅輔が選んだのはえいひれだけだ。

店員さんが引きあげると、あらためて話した。

「何か、ごめんね」と雅輔が言う。「休みの日に時間をつかわせちゃって」

「全然、全然。わたしも久しぶりに飲みたいと思ってたし。片見里から誰かがこっちに出てきたら、よくこうやって飲むの。こないだの恭香とか、あのときガスケは会わなかったけど、マリとかアサとか」

「岡安さんと小高さん、だ」

「そう。あとは、高校のときの友だちとか」

「へぇ。今も結構つながりがあるんだね」

「そうね。何でだろう。中学でも高校でも部活をやってたからなのかな」

「バスケ、だよね?」

「うん。マリとアサはバスケ部ではなかったけどね。まあ、会うのは女子がほとんど。男子は徳弥ぐらいかな」

「村岡くん」

「そう。住職。こっちにある同じ宗派のお寺にたまに来たりしてるみたいで。そのときに飲んだことがあるよ」

「村岡くんは、結婚してるよね」

「うん。美和の妹さんと」

「あぁ。倉内さん」

もう亡くなった美和。でもそこは流す。わたしも、雅輔も。

「でも徳弥だからね。普通~に二人で飲むよ。奥さんの多美ちゃんも、洋さんならオーケーと言ってくれてるらしいし」

「オーケーなの?」

「うん。ほら、ウチは善徳寺の門徒で、付き合いも長いから。わたしの両親も徳弥のことは知ってるし」

「そうなんだね」

「そうじゃなくても、徳弥だからね。わたしも坊主と不倫とかしないよ。って、まず、不倫をしない」

「でもすごいよ」

「何が?」

「ぼくは大学の四年以外はずっと片見里にいるけど、その片見里でも、三十五の今二人で飲める相手なんて佐藤くんぐらいしかいない」

「佐藤くんて、誰だっけ」

「佐藤ナオトくん」

「ナオトくん」

「うん。尚更の尚に登山の登で、尚登」

「何部だった?」

「部には入ってなかったよ。ぼくと同じで」

「わたしは同じクラスになったこと」

「一度ぐらいはあるんじゃないかな」

「佐藤くんて学年に三人ぐらいいたもんね」

「そうそう。男だけで三人いた。女子も一人いたのかな」

「佐藤率、高い!」

「うん。実際、国民の一・五パーセントは佐藤さんらしいからね」

「そうなの?」

「そう。だから、千人いたら十五人は佐藤さん」

「佐藤率、ほんとに高いんだ」

「でもぼくらのころは学年で百五十人ぐらいだったから、それで四人は多いけどね」

「あぁ」

「って、その佐藤くんが言ってた」

「そうかぁ。じゃあ、今このお店にも一人ぐらい佐藤さんがいるかもね。お客さんと店員さんのなかに」

「いてもおかしくないね」

「うわ、知りたい。ここで立ち上がって、佐藤さんいらっしゃいますかぁって訊いてみたい。病院みたいに」

「それはいいけど。ほんとにいたらどうするの?」

「うーん。引っこみがつかないから、枝豆か何かおごる。賞品です、みたいなことで」

「賞品て、何の賞?」

「佐藤賞」

「だったら、加茂賞でしょ」

「そうか。わたしが出すんだもんね」

「佐藤さんが店員さんだったらおもしろいね。店員さんに枝豆」

「実際に枝豆をあげなくてもいいよ。その場合は、わたしの伝票に枝豆ってつける」

「お金とるだけ?」

「そう」

「賞っぽくないなぁ」と雅輔が笑い、

「確かに」とわたしも笑う。

そしてまずはシーザーサラダが届く。

わたしが取り皿に取り分け、雅輔の前に置く。

「ありがと」

「いえいえ。じゃ、食べよ」

配信元: 幻冬舎plus

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