ドラマの中で描かれるYouTuber(動画配信者)像がいつまで経ってもひと昔前のイメージの“迷惑系YouTuber”だったことがあった。
「もうあんな感じのやついないし、いたとしても一部だけどな……。」
現実とは乖離しすぎた劇中のYouTuberを観ては何度も残念に思ったものだ。
ドラマは大方フィクションのため何を描こうと自由ではあるが、YouTuberやトー横界隈など、時間の流れと共に少しずつ姿を変えるそれらを劇中に出して社会風刺の題材にするのであれば、その解像度は常に高く最新のものでなければいけないと思う。
なぜなら視聴者側も日々情報をアップデートしているからだ。好き好んでそれらの情報を目に入れることもあれば、今やSNSで毎秒最新の情報が流れてくる時代だ。
ドラマの中で“鮮度のある題材”を提供する際は、なるべく今の時代にあった適切な温度で仕上げ、丁寧にパッケージをし、視聴者にその温かさを保ったものを届けるべきだと私は思っている。
そんな思いを個人的に抱えていた中、「銀河の一票」(関西テレビ) 第8話では声優が抱える“生成AIの問題”について、そのタイムリーな話題を丁寧かつ繊細に描いていた。
生成AIも一歩使い方を間違えれば“人を殺す”
都知事選に立候補する元スナックのママ:月岡あかり(野呂佳代)の選挙リーフレットを折り込む際に元西多摩市長:雲井蛍(シシド・カフカ)が「なんかに似てるんだよな~」と声を漏らしていたが、その正体はアニメ「ふるるんくっか!」のフルルンというピンクと黄色の衣服を身に纏ったキャラクターだった。
そのフルルンを演じているのが声優の白鳥光留(日髙のり子)で、彼女は誰もが知っているキャラクターを数多く演じている有名声優である。
「がんも1/800」のひつじちゃん、「キャッチ」の東ちゃん……と次々に出演作とキャラクターを挙げていっていたが、そのどれもが白鳥光留を演じる日髙のり子さんの代表作を彷彿とさせる粋な演出も光っていた。
そんな白鳥光留……何とあかりの後援会会長のあっちゃん(岩松了)が知り合いだというのだ。なんならあかりの公約“8つの安心”に感銘を受け、既にチームあかりのボランティアに登録されているという。
そんな偶然……なんて思う人もいると思うが、生きていると割とこういう偶然があったりする。
人はそれを「世間狭いわ~」なんて言って喜ぶが、集まるところに人は集まるし、巡り合うべく人と人は巡り合うのだろうなと34年という歳月(筆者の年齢)で思うようになった。
そんな邂逅を果たしたチームあかりと声優の白鳥光留。
さらには有名声優の光留に選挙カーのウグイスさんをやってもらえば、かなりの注目度アップも図れるのでは? と期待したが、光留は現在声を使う仕事が難しいほどにあまり声が出ない状態だった。
その理由は精神的なものだ。
光留の声を無断で学習させAIによって生成された光留そっくりな音声で、歌や朗読をする動画が投稿されているのを観た光留。
特段悪い使い方ではないとは思ったものの、その声に命を感じてしまったのだ。
「この先技術が進歩して、自身が時間をかけて大切に育てた声が全て再現されてしまったら、私はどうなってしまうんだろう?」との思いや、声を出せば学習され奪われてしまうという気持ちから光留は声が出なくなってしまったという。
この恐怖心を何となく想像は出来るが、本当の恐怖は同業者の方しかわからないだろう。
現実の世界でも、某有名男性声優が生成AIで自身の声を無断で模倣したナレーション動画が投稿されているとして、動画アプリの運営会社を相手に動画の削除を求める訴訟を起こしたという事象があったくらいだ。
それも本当にここ最近の出来事だ。
有名男性声優が訴訟を起こす前からも、動画の広告等で「あれ? あの人の声では?」というような生成AI音声を用いたものがしょっちゅう耳に入ってきていた。
劇中でも言及があったが、声そのものを保護する法律はまだないそうだ。
故に野放しとなっているこれらは早急にどうにかしなければいけない、由々しき問題であることは間違いない。
そして茉莉(黒木華)も言うように「技術の進歩は人のためにあるべき。人にとって代わるために、人の尊厳を踏みにじるためであっていいわけがありません。だからといって技術の進歩を止めていいわけではない。」
まさにその通りで、どんな技術も使いどきと活かし方を考えなくてはいけない。当たり前のことだが車や包丁は便利だが一歩間違えば人を殺めてしまう可能性を孕んでいるものだ。
それが生成AIであっても使い方によっては光留のように人の心を殺しかねないし、その先には肉体的な死へ繋がってしまう可能性だってある。
一方で、病気などで声が出なくなってしまった方にとっては生成AIで作られる声によって声を取り戻せる可能性だって出てくる。
表と裏、どんな技術や物も結局は使い方なのだ。
その使い方を整備する法律が、この急速に発達した生成AIに対しては追いついていない。
このドラマの中では、都知事選に出馬表明しているAI企業社長の風間藍生(梶裕貴)が、落選した際にはあかりのチームのブレーンとして迎えることになっているという。
あかり達では対応しきれない生成AIに関する諸問題は、彼の力を借りるということだろう。

確かに既に落ちそうな気しかしない(それはドラマ的に……だよな? )風間藍生だが、2013年の震災時には自販機や病院、公衆電話などの位置情報や混雑状況をリアルタイムで共有出来るマップを作った男だ。
チームあかりの面々とは全てにおいて対極にある風間でさえも巻き込めそうなチームあかりの人間力。
これは都の一人一人の意見を汲むことも不可能じゃない気がして来たぞ。
光留が蒔いた“自分のキャリア”がまさに花咲いた時
声が出し辛かった光留だったが、蛍の息子:陽太(山本弓月)が光留が声優を務めるアニメ「ふるるんくっか!」でお馴染みの「元気! 勇気! 花よ咲け!」という掛け声を1人密かにやろうとして、なかなか柔道教室の門をくぐれない自分を鼓舞しようとする姿に遭遇した。
しかし、掛け声の最中に陽太は他の生徒に当たって転倒してしまった。
そんな時、声が出にくかったはずの光留の口から魂の声が発せられた。

「元気! 勇気! 花よ咲け!」
陽太と光留の声が重なったそのおまじないは陽太の背中をスッと押し、柔道教室の門への一歩を後押しした。
陽太からすると突然聞こえてきたフルルンの声に対して「いつも観ているアニメだからフルルンの声が脳内再生されたのかな?」くらいにしか思っていないだろう。
しかしそこには確実にいたのだ。本物のフルルンが。
そして自身が演じたキャラクターの台詞で勇気を貰っている少年の姿を見て、演じた当人の光留もまた勇気をもらったのだろう。
なんと美しい好循環。
こうして精神的な不調から脱し、思うように声が出るようになった光留はチームあかりの選挙カーのウグイスさんになるようだ。
またしても人と人との出会いがもたらした奇跡。
残り数話で、この出会いがどこまで広がり、どんな更なる奇跡をもたらすのか……。
もはや何でも出来ちゃう気がしちゃうチームあかり。
いい奇跡ならいくらでも見ていられますので、今後とも何卒……(不穏な影には目を瞑る)
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関西テレビ『銀河の一票』( 毎週月曜夜10時~)
出演:黒木華、野呂佳代、渡邊圭祐、倉悠貴、小雪、本上まなみ、岩谷健司、山口馬木也、木野花、岩松了、松下洸平
脚本:蛭田直美
音楽:坂東祐大
主題歌:「おーへい」浜野謙太(在日ファンク)&後藤真希 feat. 黒木華&野呂佳代(日本コロムビア)
プロデュース:佐野亜裕美
制作プロデュース:植木さくら、森田美桜
演出:松本佳奈、藤澤浩和、瀧悠輔、稲留武
制作協力:AOI Pro.
制作著作:カンテレ、MYRIAGON STUDIO
著者:ケメ・ロジェ
イメージイラスト:サク

