誰かを待つ時間、その人が来たときの第一声を考えたり、そのあとの時間に思いを馳せたり、あるいはメールチェック、SNS、携帯ゲームなど、過ごし方はさまざま。
DJ、作詞、音楽演出など幅広い活動をしているカワムラユキさんに、そんな「待つ時間」をテーマにして選曲&言葉を綴っていただきます。
光は交差しながら意味を失う
人影は名前を脱ぎ捨てて流れてゆく
もしも君を象徴する全てを刻んだものだとしても
ガラスの表面には無数の残像が重なって、現実は薄い膜の向こうへ退いてゆく
悲しくて虚しい歌が耳の奥に沈むと、感情は輪郭をやめ、ただ色彩だけに
紫がかった孤独と、銀色の倦怠、青白い憧憬は僕の半径50mに取り巻いて
圧倒的な愛ではないと知った君は、致命的な落胆をつまらない表情で片付ける
まだ言葉を持たない欲望
まだ触れられていない記憶
まだ失われてもいない喪失
スクランブル交差点の夜気のなかで微かに、君の乱れた息遣いだけを生命力として記憶して
僕は過去にとらわれたイメージの縁を歩いているのか、崩壊を待つだけの街を漂っているだけなのか、判然としない焦燥感に陶酔している
若さとは何だろう?
完成へ向かう時間ではなく、むしろ崩壊の予感に敏感であることかもしれない
たとえ何にも代え難い大切なものだとしても、壊れてしまう直前が最も美しい
だから君は幸福を歌わない
僕も到達を歌わない
夕暮れの窓に残る反射
雨上がりのアスファルトに沈む光
世界は断片によってできている
そして人は断片に恋をする
夜更けになるほど、街は静かに狂い始める
ビルの隙間から吹く風は遠い季節の匂いを運び、記憶と幻想の境界を曖昧にする
誰かを思い出しているのではなく、思い出そうとする感覚そのものに酔いしれてゆく
無数の孤独を抱きながら、美しく腐敗していく君と僕
そのフェティッシュに身を寄せて、お互いの魂を今宵限りは震わせたいの

中谷美紀『MIKI』(2001年、ワーナーミュージック・ジャパン)収録

