「簡単に痩せられるすごい薬」
「ダイエット薬じゃなくて糖尿病患者の治療薬だ」
などさまざまな論争があり、注目の薬であるマンジャロですが、医師の目線で見るとどうなの?
西梅田シティクリニック理事長の赤松敬之先生による解説です。

流行のGLP-1ダイエット、本当のところはどうなのか
「マンジャロを使ってダイエットしている」
「ゼップバウンドって聞いたことある?」
最近、こんな話をよく耳にしますよね。
芸能人やインフルエンサーの間で話題になる一方で、
「危険じゃないの?」
「美容目的で使うなんてアリなの?」
という不安の声もよく聞きます。
私は糖尿病をはじめとする生活習慣病の患者さんを長く診てきた医師です。
臨床の現場では、肥満を抱えた患者さんと毎日のように向き合ってきました。
その立場から、マンジャロ(そして同じ成分の「ゼップバウンド」)を肥満症治療に使うことについて、正直なところを話してみようと思います。
もともとは糖尿病の薬。なのに、痩せる効果がすごかった
そもそもマンジャロ(一般名:チルゼパチド)は、糖尿病の薬として開発されました。
ところが使ってみると、患者さんの体重がぐんぐん落ちる。
これは肥満症にも効くんじゃないか?と研究が進み、複数の大規模国際臨床試験によって、72週間で15〜20%の体重減少効果が確認されたんです。
ちょっと想像してみてください。
体重70kgの人なら、1年半で10〜14kg減るペース。
これって、従来のダイエット薬とは比べものにならない数字なんです。
「痩せましょう」と言われて痩せられるなら、誰も苦労していない
患者さんに「体重を落としましょう」とお伝えするのは、医師にとって日常的なことです。
実際に減量に成功すれば、糖尿病のコントロールは劇的に改善します。
でも、現実はそんなに甘くありません。
太りやすい方は、何十年もかけて今の生活習慣を積み重ねて、今の体型になっています。
それを大人になってからガラッと変えるって、本当に難しいんです。
「食事を減らしましょう」「運動しましょう」といって、はい分かりました、と簡単にできるなら、世の中こんなに肥満で悩む人はいません。
そんな中でマンジャロやゼップバウンドが登場して、状況は本当に変わりました。
患者さんが無理なく痩せられる。
結果、糖尿病の治療が驚くほどスムーズになる。
実際に、もともと肥満があって糖尿病が悪化していた方にマンジャロを入れたところ、体重が落ち、血糖値も劇的に改善した、というケースを私自身、何度も見てきました。
ただし、「BMI20を切ってる人がさらに痩せる」のはダメ
ここからが大事な話です。
いま話題になっているのは、本来の使い方とは違う、若い方の「美容目的での使用」。
これについては医師としてハッキリ言わせてください。
BMIが20を切るような、もともと痩せている方がさらに痩せようとしてマンジャロを使う・・これは正直、おすすめできません。
デメリットの方が大きい使い方です。
でも、これと「ちゃんと太っている方が治療として使うこと」を一緒くたに論じてはいけない、というのが私の意見です。
副作用も、正直に話しておきます。
ポジティブな話ばかりだとフェアじゃないので、副作用についてもちゃんとご説明します。
カンタンに痩せられる魔法の薬と思わないで。マンジャロの副作用
マンジャロの主な副作用はこんな感じです。
・消化器症状(吐き気、嘔吐、便秘、下痢)使い始めにいちばん多い
・気分の落ち込み(軽いうつ傾向)
・日中の眠気
特に消化器症状は、最初の数週間でかなりの確率で出ます。
だから、いきなり高い用量で始めるのではなく、少しずつ身体を慣らしていくことが大切です。
「カンタンに痩せられる魔法の薬」ではありません。
必ず医師の管理下で、自分の身体と相談しながら使う薬だと思ってください。
日本でも保険が使える「ゼップバウンド」って何?
「マンジャロとほぼ同じ成分なのに、なんで別の名前?」と思った方、鋭いです。
実は、まったく同じ成分(チルゼパチド)が、糖尿病の薬としては「マンジャロ」、肥満症の薬としては「ゼップバウンド」という名前で売られているんです。
中身は同じ。違うのは、何の病気に対して保険が使えるか、それだけです。
ゼップバウンドは2024年12月に承認されて、2025年から日本でも保険適用で使えるようになりました。
ただし、誰でも使えるわけではなくて、こんな条件があります。
・高血圧、脂質異常症、糖尿病のどれかを併発している肥満症であること
・食事・運動療法をやってもうまくいかなかったこと
・BMI27以上で肥満関連の病気が2つ以上、またはBMI35以上で1つ以上あること
・長期で栄養指導を受けられる体制があること
・専門の研修を受けた医療機関で処方されること
つまり「ちょっと痩せたいから保険で出して」というのはダメ。
それなりに重い肥満症で、ほかにも病気を抱えている方が対象です。
糖尿病薬のマンジャロを「ダイエット目的で保険診療として」使うことも、認められていません。
「太ってるだけ」と思っている方へ。肥満症は立派な病気です
ここで強調したいことがあります。
肥満症のリスクを軽く見すぎている人、本当に多いんです。
「ちょっと太ってるだけでしょ」と思っているかもしれませんが、肥満症はそれ単独でも、こんな深刻なリスクを高めます。
・脳梗塞・脳出血
・心筋梗塞・狭心症
・睡眠時無呼吸症候群
・2型糖尿病・脂質異常症・高血圧
・大腸がん、乳がん、子宮体がんなど一部のがん
ちょっと怖くないですか?
「太ってるだけ」では済まないんです。
でも、太っている方は、それまでの生活習慣の積み重ねで今の体型になっています。
食べるのが好き、お酒が好き、甘いものに目がない、運動なんてできない・・そういう習慣を、大人になってから根本から変えるのは、何度も言いますがホントに難しい。
本人の意志の問題、というより、もう「身体に染み付いた習慣」の問題なんです。
マンジャロのすごいところは「我慢しなくていい」点
ダイエットを試したことがある方なら、絶対に共感してもらえると思うんですが、これまで「100のタンク」分しっかり食べないと満足できなかった人が、根性で「60」に抑えて痩せようとしても、長続きしませんよね。
そもそも、そんな強い意志を持てる人は、最初から太っていません。
マンジャロやゼップバウンドのすごいところは、この「100のタンク」自体を「60」くらいに小さくしてくれることなんです。
タンクが小さくなれば、「50」食べただけで「ああ、もう満足!」となります。
我慢しているわけじゃない。本気でお腹いっぱい、と感じる。
だから、自然に食べる量が減って、自然に体重が落ちていく。これが、従来の食欲抑制薬と決定的に違うところです。
結論。太っている人にとっては、合理的な選択肢になる
長くなりましたが、私の結論をシンプルにまとめると・・・
・BMI20を切るような痩せ型の方が美容目的で使うのは、NO
・ちゃんと太っていて、高血圧・脂質異常症・糖尿病などのリスクがある方が使うのは、むしろアリ
これが、医師としての正直な見解です。
日本の保険制度では、糖尿病薬のマンジャロをダイエットに使うことはできません。
でも、同じ成分のゼップバウンドなら、条件を満たせば保険診療で治療できます。
「薬で痩せるなんて」と抵抗を感じる方もいると思います。
でも、肥満を放置することのリスクと、減量することで得られる健康のメリットを天秤にかければ、適応のある方にとっては前向きに検討する価値のある選択肢です。
「太ってるだけだから」と諦めないでほしい。
それが、医師としていちばん伝えたいことです。
[執筆者]

赤松敬之先生
医療法人星敬会理事長・西梅田シティクリニック理事長・クラウドドクター代表取締役・医師
大阪・梅田で内科、消化器、婦人科、健診センターなど幅広く対応する「西梅田シティクリニック」を運営。糖尿病をはじめとする生活習慣病の早期介入と、がんの早期発見をテーマに、現役世代の予防医療に取り組む。
「患者様ファースト」に徹底した医療マインドを持ち、全国向けオンライン診療プラットフォーム「クラウドドクター」、および美容クリニックを展開し、対面・オンラインの両面から働く世代の医療アクセス改善に取り組んでいる。
医院経営や医療関連のビジネスにも携わりつつ、医療現場に立ち続ける。
さらに、医師として医薬品の開発や海外での医療支援にも従事。
株式会社クラウドドクター
https://cloud-dr.jp/

