糖尿病は、血糖値が慢性的に高くなる病気です。放置すると神経障害、網膜症、腎症や心筋梗塞などの合併症を引き起こす可能性があります。治療には食事療法と運動療法に加えて薬物療法があります。本記事では、糖尿病の治療に使われる薬の種類を解説します。
※この記事はメディカルドックにて『「糖尿病の治療薬」にはどんな副作用がある?飲み忘れるとどうなるのか?注意点なども解説!』と題して公開した記事を再編集して配信している記事となります。

監修医師:
江口 瑠衣子(医師)
2009年長崎大学医学部卒業。大学病院での初期臨床研修終了後、10年以上にわたり地域の基幹病院で腎臓内科の診療に従事。患者さん一人ひとりに寄り添った医療を心がけており、現在は内科・精神科の診療を行っている。腎臓専門医。総合内科専門医。
糖尿病の薬物療法

糖尿病の主な治療法を教えてください
糖尿病の主な治療法は、食事療法、運動療法、薬物療法の3つです。まず基本となるのが食事療法です。適正なエネルギー量(カロリー)を摂取し、過剰にならないよう気を付けます。炭水化物、たんぱく質、脂質をバランスよく摂り、食物繊維を多く含む食品を取り入れ、バランスのよい食事を心がけます。
運動療法を行うと、インスリン抵抗性が改善し、血糖値のコントロールが改善します。また、食後の運動は、ブドウ糖や脂肪の利用が増えるため、食後の血糖値の上昇が押さえられます。散歩、ジョギング、自転車エルゴメーターなどの有酸素運動と、おもりやマシンで筋肉に抵抗をかけ筋肉量を増やす運動(レジスタンス運動)を行います。
食事療法と運動療法だけでは血糖コントロールが不十分な場合に、薬物療法が追加されます。薬物療法には経口薬と注射薬があり、患者さんの状態に応じて選択されます。
血糖値を下げる薬にはどのようなものがありますか?
血糖値を下げる薬には、経口薬と注射薬があります。経口血糖降下薬は作用機序により、以下のような複数の種類に分類されます。
経口薬の種類 働き
スルホニル尿素薬(SU薬) 膵臓のβ細胞を刺激してインスリンを出す
速攻型インスリン分泌薬
膵臓のβ細胞を刺激してインスリンを出す
SU薬に比べて短時間で作用する
αグルコシダーゼ阻害薬 腸でのブドウ糖吸収を遅らせる
ビグアナイド薬 肝臓から放出されるブドウ糖の量を減らす
チアゾリジン系薬 インスリンの効きをよくする
SGLT2阻害薬 腎臓でのブドウ糖再吸収を抑え、尿から糖を出す
DPP-4阻害薬 インクレチン作用を高め、食後のインスリン分泌を増やす
GLP-1受容体作動薬 インクレチン作用により、食後のインスリン分泌を増やす
経口薬にはこのように、インスリン分泌を促すもの、ブドウ糖の吸収を遅らせるもの、インスリンの効きをよくするものなどさまざまな薬剤があります。
インクレチンとは、食事中の栄養素が胃から小腸に到達した際に血中に分泌されるホルモンです。インクレチンは膵臓からのインスリンの分泌を促します。これをインクレチン作用といいます。インクレチンは短時間で血液期中のDPP-4という酵素によって分解されます。DPP-4阻害薬は、このDPP-4の働きを抑制し、インクレチンが分解されにくくなるように働きます。GLP-1受容体作動薬は、インクレチン作用を持ち、DPP-4阻害薬と似たような効果を示します。
代表的な注射薬にはインスリン製剤とGLP-1受容体作動薬があります。インスリン製剤は、インスリンそのものを補う注射薬です。効果の持続時間により、超速効型、速効型、中間型、持効型などに分類されます。GLP-1受容体作動薬は、主に膵臓に作用してインスリンの分泌を促進する薬剤です。また、食欲を抑える作用もあります。また、近年ではGIP/GLP-1受容体作動薬と呼ばれる新しいタイプの注射薬も登場しています。これらはインクレチン作用を介して血糖値の改善に寄与します。
糖尿病の合併症を改善する薬はありますか?
糖尿病の合併症を根本的に改善させる薬はありません。神経障害に対しては、エパルレスタット(アルドース還元酵素阻害薬)により進行抑制効果を得られる場合があります。しびれや痛みなどの症状に対しては、プレガバリンやデュロキセチンなどの疼痛緩和薬が使用されます。腎症に関して、ACE阻害薬やARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)といわれる降圧薬に腎機能の悪化を抑える効果があるとされています。近年では、SGLT2阻害薬が腎機能の低下を抑制する効果も報告されています。
これらの治療薬は合併症の進行を抑える可能性はありますが、合併症を改善させることは困難です。すでに生じた神経障害や視力の低下、腎機能の低下をもとに戻すことはできません。そのため、血糖コントロールを良好に保ち、合併症の発症や進行を予防することがたいへん重要です。
糖尿病の人が薬を飲まずに血糖値を下げることはできますか?
糖尿病の初期段階や軽症の場合には、食事療法と運動療法だけで血糖値をコントロールできる可能性があります。適正なエネルギー摂取量を守り、栄養バランスの取れた食事を規則正しく摂ります。運動療法では、ウォーキングやジョギング、水泳などの有酸素運動やレジスタンス運動を行います。
しかし、食事療法と運動療法を継続しても血糖コントロールが改善しない場合には薬物療法が必要です。また、1型糖尿病の方では必ずインスリン療法が必要です。自己判断で薬物療法を中止することは危険ですので、必ず医師に相談してください。
編集部まとめ

糖尿病の治療は、食事療法と運動療法が基本ですが、これらだけでは血糖コントロールが不十分な場合には薬物療法が必要となります。経口血糖降下薬やインスリン製剤など、現在はさまざまな種類の薬があり、患者さんの病態に応じて選択されます。処方されたとおりに正確に服用し、定期的に検査を受けることが重要です。薬を飲み忘れたり、自己判断で中止したりすることは避けましょう。疑問や不安があれば、医師や薬剤師に相談し、適切な治療を継続してください。良好な血糖コントロールを維持することが、糖尿病治療の基本です。
参考文献
『糖尿病診療ガイドライン2024』(一般社団法人 日本糖尿病学会)
『2型糖尿病』(日本内分泌学会)
『糖尿病ってどんな病気?』(日本糖尿病学会)
『みんなで知ろう! からだのこと』(厚生労働省)
『2型糖尿病はどのように治療するのか?』(一般社団法人 日本糖尿病学会)
『血糖値を下げる飲み薬』(糖尿病情報センター)
『血糖値を下げる注射薬』(糖尿病情報センター)
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