インプラントの骨移植の種類
インプラント治療に用いられている骨移植材は、自家骨(患者さんご自身の骨)とそれ以外の骨補填材に大別されます。それ以外の代表的な骨補填材は下記のとおりです。
人工骨
同種骨(他者のご遺体から加工、滅菌された骨)
異種骨(動物由来の骨)
骨補填材の形状にはブロックや細片、顆粒などがあり、用途に応じて選択されます。それぞれの特徴を踏まえ、使用目的、部位、術式に応じて各材料が使い分けられています。ただし、移植剤として何が適しているかは、まだ議論の余地があります。
参照:『口腔インプラント治療指針2024』(公益社団法人日本口腔インプラント学会)
人工骨移植
人工骨移植とは、人工的に作られた骨の材料を、顎骨に移植する方法です。
人工骨は、人工的に作られた骨の材料です。身体の別の場所から骨を採取しなくても済むため、患者さんの身体への負担が軽いという利点があります。
人工骨移植では主にβ-リン酸三カルシウム(β-TCP)やハイドロキシアパタイト(HA)などの無機素材が使われます。どちらも身体になじみやすく、周囲の骨が伸びてくる足場として働きます。β-TCPは体内で吸収され、時間とともに自分の骨へ置き換わっていく特性があります。HAは骨と強く結合して形を保ちやすく、長期的な支えとして働きますが、骨組織には置換されません。
材料の選択によって粒の大きさや吸収速度を調整できるため、欠損形態や目的に合わせてボリューム設計が可能です。近年では人工骨による骨移植の成績が、自家骨と遜色ないとする報告もあります。
参照:
『歯科インプラント治療指針』(厚生労働省)
『口腔インプラント治療指針2024』(公益社団法人日本口腔インプラント学会)
『Meta-analytic study of implant survival following sinus augmentation』(Med Oral Patol Oral Cir Bucal.17 (1):e135-9)
自家骨移植
自家骨移植とは、患者さん自身の身体から採取した骨を顎骨移植することを指します。
自家骨は生きた骨をつくる細胞を含んでいます。そのため、新しい骨を生み出す骨形成能を持っています。さらに、骨が再生するように周囲の組織へ合図を奥って再生を促す骨誘導能、そして骨ができあがる際の足場となる骨伝導能を持っています。これら3つの力がそろっているため、生物学的に有利と考えられ、現在でも骨移植材の標準治療と位置づけられています。
採取部位は、必要とされる骨量や移植骨の形状などにより決定されます。採取部位はお口の中からが基本です。代表的な採取部位は下記のとおりです。
オトガイ部
下顎枝(下顎の奥歯の奥の骨)
上顎結節(上顎の奥の骨)
前鼻棘(鼻の近くの骨)
インプラント体埋入部周囲
欠損が大きく、より多くの骨が必要な場合は、口腔外の腸骨(腰の骨)や脛骨(すねの骨)から採取し、粒状あるいはブロックとして使用します。この方法は、広い範囲の高さを増やしたい場合や、三次元的な再建で特に効果が期待できます。
一方で、骨を採取する部分の身体の負担や術後の痛み、供給量の限界、移植骨の吸収などの課題もあります。
参照:『口腔インプラント治療指針2024』(公益社団法人日本口腔インプラント学会)
人工骨移植と自家骨移植の併用
人工骨移植と自家骨移植を組み合わせる方法は、両者の利点を生かしたバランスのよい選択肢です。人工骨は安定的に入手可能、身体への負担が少ない、形態がつくりやすいなどの利点があります。そこに、自家骨のもつ骨形成能が合わさります。
実際に併用を行う際には、目的や部位によって配分が変わりますが、自家骨をやや多めに混ぜることで、骨づくりの力と形態の安定性の両立をねらいます。人工骨と自家骨の配分は、骨欠損の大きさ、位置、必要とされる骨の質と量、治療期間やダウンタイム、さらには患者さんの全身状態や喫煙の有無などを総合して個別に決定されます。
また、人工骨と自家骨の併用は、自家骨移植単独では充填しきれない大きな欠損がある場合や、採骨量が不足する場合にも有効で、インプラント治療の適応を広げる有効な方法です。
参照:
『歯科インプラント治療指針』(厚生労働省)
『口腔インプラント治療指針2024』(公益社団法人日本口腔インプラント学会)
『骨造成法と骨移植剤の選択基準を再考する』(日口腔インプラント誌 第34巻第4号)
インプラントの骨移植の流れ
インプラントの骨移植は、初診での相談、検査から計画の立案、手術、術後の治癒期間、最終の被せ物装着、そして定期メンテナンスまで、いくつかの段階を踏んで進みます。
骨の形態や全身状態をふまえて、材料や術式、骨移植とインプラント治療を同時にするか否かを判断します。施術後、骨とインプラントが安定した後に、セラミック歯などの被せ物を装着します。その後も長期安定のため定期的なメンテナンスが必要です。
インプラントの埋入と同時に行う場合
インプラントを骨移植時と同時に埋入するか、あるいは骨移植後にインプラントを入れるかの2つの選択肢があります。
骨欠損の範囲が小さく、インプラントが埋入時にしっかり固定される(初期固定)見込が高い場合に、骨移植と同時にインプラント埋入が行われることがあります。治療回数や治癒期間を短縮できる可能性があり、患者さんの負担軽減につながります。
同時手術では骨の成熟を待つことなくインプラントを埋入するため、創部の安定や、感染対策、術後の圧迫回避が重要です。喫煙や清掃不良、強く噛むことは失敗リスクを高める要因となるため、厳格な術後管理が求められます。
インプラントの埋入と別々に行う場合
骨欠損が大きい、初期固定が得られにくい、洞粘膜の状態に課題がある、あるいは複数部位の再建が必要なときは、同時法ではリスクが高くなります。これらの場合は、先に骨移植を行って、骨の成熟を待ち、その後にインプラントを埋入する方法が選択されます。この方法は安全性や長期安定性に優れていますが、治療のステップが増える分、全体の治療期間が長くなる傾向があります。

