現代は2人に1人ががんに罹患し、3人に1人は亡くなるといわれており決して他人事とはいえません。なかでも肺がんの頻度はとても多く、骨転移も多く見られています。
治療をして完治のように見えても、気付かぬうちに転移・増殖する細胞の速さには追いつけません。この記事では、肺がんの骨転移後の治療法について解説しています。
日頃からご自身や身近な方の変化を敏感にキャッチし、早期発見の手助けとなるよう参考にしてみてください。
※この記事はメディカルドックにて『「肺がんが骨へ転移」した場合の症状はご存知ですか?【医師監修】』と題して公開した記事を再編集して配信している記事となります。

監修医師:
山本 康博(MYメディカルクリニック横浜みなとみらい)
東京大学医学部医学科卒業 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医 日本内科学会認定総合内科専門医
肺がんとは
肺がんとは、気管や気管支・肺胞の一部の細胞ががん化したもので、ほかの呼吸器疾患との区別がつきにくいため見過ごされやすい傾向にあります。
発見が遅れると治療が困難になる場合があるため、日頃から定期的な検査や生活習慣の改善など、肺がんにならないための予防や発見に努めることが重要です。
肺がんの5年生存率は5割程度
肺がんは、小細胞がん・非小細胞がんに大きく分類されます。治療法や予後はがんの種類や進行度、年齢、既往症の有無によっても大きく異なります。
肺がんのなかで8割以上を占める非小細胞がんは、手術以外に完治する方法はありません。
高齢者など心肺機能の低下や、既往症、進行度により手術困難な場合には化学療法や放射線治療を選択せざるを得ない場合もあります。
手術後の生存期間を年代別にみると5年生存率は69歳以下で48.8%、70歳代で42.9%、80歳以上で50.5%となっており大きな差は見られません。
過去に肺がんで手術された症例結果では5年生存率は61.6%で、そのうち男性が55.4%、女性が74.2%でした。
女性の喫煙率が男性に比べ低いためといえるでしょう。
CT検査の普及により早期発見につながっており、胸部X線レントゲン検査による肺がん検査を実施していない他国に比べても日本の5年生存率は高いといえます。
転移しやすい部位は骨・脳・肝臓・副腎
転移とは、治療によっていったんは完治したと思われたがんが別の臓器にあらわれることをいい、肺がんの再発は全体の8割を転移が占めるといわれています。
肺には多くの血管やリンパ管が集まっており、血液やリンパ液の流れに乗ってほかの臓器に移動しそこで転移する(増殖)のです。
血行性転移の頻度が高いのは肺のほかの部位・骨・脳・肝臓・副腎などがあげられます。
肺がんの骨転移の治療法
肺がんの骨転移の治療法には主に3つに分類されます。
放射線治療
痛みの緩和には鎮痛薬の服用や放射線療法を行います。放射線治療の目的は以下となります。
照射部位のがん細胞を減らし痛みをやわらげる
骨転移が脊髄を圧迫するために起こる麻痺を治療する
骨折や麻痺を予防する
疼痛寛解効果は75〜100%と報告されています。骨折等により麻痺や運動障害といった著しい QOL(生活の質) の低下が予測されます。
その場合、骨折部位に対し放射線治療を行うことで、壊れていた骨の再生の効果が見られる方にはQOL(生活の質)の面からも予後の改善がみられるでしょう。
副作用でだるさや吐き気・照射部位の皮膚のかゆみや赤みなども生じることがありますが、これらの症状は薬で軽減できるので主治医と相談しながら治療を継続していきましょう。
外科手術
骨折の危険性が高い場合や神経が圧迫されている場合には外科治療を行うこともあります。外科的治療の目的は以下となります。
痛みの緩和
神経の圧迫を除去
弱くなった骨を補強して骨折予防
移動能力の維持や再獲得
局所的な根治
しかしながら、外科的治療は身体への負担が大きいため、治療によるメリットが明らかにリスクを上回る場合にしか適応とはなりません。
薬物療法
肺がんの骨転移の薬物療法には、非ステロイド性の消炎鎮痛薬やモルヒネなどの麻薬による疼痛緩和や、骨の吸収と形成のバランスをとり骨折予防の目的で使用される骨修飾薬(ビスホスホネート製剤と抗RANKL抗体薬)や、がん自体の縮小を狙って分子標的薬を使用されることがあります。
分子標的薬はがんの発生や増殖に関わる特定の分子に作用するためピンポイントで標的に効果を示しますが、がん細胞だけでなく正常細胞にも分子が存在するために特徴的な副作用があります。
まれに命に係わる副作用として心毒性・間質性肺炎・腸管穿孔・動脈血栓症などが起こる可能性もあります。
また、ストロンチウム-89という放射線を出す薬剤を注射することで、骨転移による痛みをやわらげる方法もあるのです。
神経障害性疼痛にはプレガバリンなどの補助薬も有用です。

