2026年5月、フランス・カンヌで開催された第79回カンヌ国際映画祭。映画『急に具合が悪くなる』主演の岡本多緒さん、ヴィルジニー・エフィラさんが最優秀女優賞に輝いたことは日本でも大々的に報じられましたが、幸いなことにオトナミューズウェブは受賞直後のご両名にお話を聞かせていただけることになっていたのです。受賞の瞬間は我々も絶叫しました。聞き手はカンヌ開催前から本作に太鼓判を押していた映画ライターのよしひろまさみちさんです。
監督は「ドライブ・マイ・カー」で国際的にも高い評価を受けている濱口竜介監督。ちなみに、よしひろさん曰く「大丈夫。映画は196分=3時間以上あるけど、体感としてはその半分くらいだから」とのこと。2026年6月19日公開です。映画館に行く前でも、余韻に浸りながらでも、最優秀女優賞のおふたりの楽しいお話、どうぞご堪能ください。
『急に具合が悪くなる』
story パリ。介護施設の施設長マリー(V・エフィラ)は、ユマニチュードを実践しようとするも、慢性的な人員不足とスタッフの反発でうまく仕事を回せないでいた。そんなとき、たまたま彼女が知り合った演出家・真理(岡本多緒)の手がける舞台を鑑賞。彼女たちは急速に仲を深めるのだが……。
監督・脚本:濱口竜介/原作:宮野真生子、磯野真穂(晶文社)/出演:ヴィルジニー・エフィラ、岡本多緒、長塚京三、黒崎煌代 ほか/配給:ビターズ・エンド/公開:6月19日より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
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――カンヌ国際映画祭での女優賞受賞おめでとうございます。受賞された瞬間の映像は日本でもたびたび報じられたんですが、あのとき何しゃべってたか覚えてます?
多緒 現実感が全くなくて、「え?」って感じで笑ってたんですよね。でもまわりの反応を見ていたら、どうもこれは本当に私たちが受賞したんだというのが伝わってきて、みんなでハグしてましたね。
ヴィルジニー 私もそうでした。多緒さんと同じでぜんぜん現実味がなくて。私の場合は「嘘でしょ? おかしくない?」っていう表情をしていたと思います(笑)。
多緒 それで、舞台に行かないと!って立ち上がってとりあえずステージに向かったんですけど、それでも夢の中みたいにふわふわしていたんですよね。
ヴィルジニー それとともに、「あれ? ここに濱口監督いないのはおかしくない?」って思ってました。だって、彼の作品なのに。
――濱口監督がノンノンみたいなジェスチャーをしてましたよね。
多緒 じつは何かの受賞があるから授賞式に呼ばれるんですけど、その連絡をいただいたときに「女優賞じゃないよ」ってヴィルジニーは言われてたみたいなんですよね(笑)。
ヴィルジニー そうそう。だから本当に驚いていました。
多緒 しかもヴィルジニーと2人でいただけるなんて思わなかったです。
ヴィルジニー 男優賞が2人で受賞だったから、女優賞は一人でしょ、って現場で思ったものね。
多緒 そうそう。それに、私たちの席もなんだか不自然な場所で、そこは濱口監督が座るべきだと思ったので「代わりますよ」って言ったんですよ。でも、監督からは「この席次はなにか意図があるかもしれないので」っておっしゃっていて。こんなサプライズがあるとは思わなかったです。
――授賞式のあとは会見やコメント取りで大忙しだったと思いますが、お二人でのお祝いは?
ヴィルジニー 作品に関わったチーム全員での小さな祝賀会はありましたが、世界中の人がご存知だから言っちゃいますけど、多緒さんは妊娠されているので、からだを気遣って遅くまではやらなかったんです。ただ、部屋に戻ってからぜんぜん眠れなくて。子どものころから夢見ていたことだったので、信じられない気持ちでいっぱいで。
多緒 私もまだまだ夢の中状態でした。登壇した後はバックステージでクロージングまで待機したんですが、その場でもモニターを見ながら呆然とするばかりで。そんな状況で会見してコメント収録をしてたので、お祭り気分というよりは夢の中でふわふわ歩いている感じ。打ち上げもそうでしたし、今もまだちょっと。
――カンヌでも日本でもさんざん同じような質問されてうんざりされていると思うので……、
多緒 いえいえ。いいんですよ(笑)!
――同じこと載せても面白くないので(笑)。
ヴィルジニー 何聞かれるのかしら(笑)。
――『急に具合が悪くなる』のクランクアップはお二人のシーンでしたか?
多緒 一緒でした。京都の山の上で、パリに一緒に戻ろうって言うシーン。
ヴィルジニー 私、いつもの仕事でクランクアップのときはまったく感動したりとかないんですけど、あのときは違ったんですよ。この作品に関われたことが私の人生において特別で、意味が深いことだったので、あのシーンを撮っているときも、あの風景に電車が通っていくのを見て、まるで人生の通過点を見せられているよう、と込み上げてきちゃったんです。この作品の撮影が終わったら、多緒さんなしで、竜介さんなしで私はどう人生を歩んでいくんだろう……って思ったら泣けてきちゃった。
滝口竜介監督
――あ、作品の旅路はまだまだ続きますよ。なんせ『ドライブ・マイ・カー』なんて、撮影から数えたら最後に受けた映画賞まで、3年くらいかかってますから。
多緒 たしかに。この作品も長く広がっていくといいですよね。私はあのシーンを撮っているとき、風景とヴィルジニーの美しさに見とれちゃってました。ちょうど朝日が昇り始めて、彼女の顔を少しずつ照らし出していくんですが、それが本当に美しくて。じつはあのシーンは私にとって怖かったんです。
――怖い!?
多緒 本読みのときからどうしても感情を抑えられなくて涙が出てしまって。一生懸命おさえようとするんだけど、すればするほど涙が止まらない。だから本番になったらどうしよう、って怖さがあったんですね。やはり感情は滝のように流れてきたんですけど、現場にはその美しさと温かな感動がありました。パリから来たクルーと日本から短い間ジョインしたクルー、みんなが一体化した瞬間だったと思います。
――すっごいくだらない質問なんですが、日仏の現場のケータリングの違いはどうでした?
多緒 (笑)。
ヴィルジニー (笑)。それ、言っちゃおうかな。結論からいうと、日本でいただいたケータリングが日本食でも「そんなに……」っていうものがあるんだって初めて感じた瞬間でした(笑)。私は日本文化、食の大ファンで、つね日ごろから親しんでいるつもりなんですけど、あのお弁当はまずくはないけどおいしくはない。だから、自由時間にはおいしい和食屋さんへ直行(笑)。
多緒 京都の山の中の撮影だったので、すごく大変だったんですよね。ケータリングといっても場所柄、選択肢も限られますし、ものすごい配慮でいろいろと工夫してくれていたと思います。ただ日本の現場で私が気になっているのは使われる資材。フランスだとお皿やナイフ・フォークなどがお店で食べるのと同じように、使い捨てではないもので出てくるんですよ。でも、日本だと洗う場所がなかったり、おそらく業者さんの都合でどうしても使い捨ての資材になる。今回カンヌで本作は、フランス本土での廃棄物やCo2排気量などを配慮した作品に送られるEcoProd賞も受賞しています。日本の撮影現場にも、こうした意識や取り組みが組み込まれていくといいなと思います。
――最後に。この作品ってシスターフッドであり、バディであるとともに、クィアな一面もあると思うんです。友情や恋愛ではないけど、たがいに惹かれ合っている2人の物語。演じたお二人からすると、この解釈はどう思います?
ヴィルジニー ユニバーサルな愛情を描いていると思ってます。たとえば、京都の家で足のマッサージをするシーンは、わかりやすくそれを感じ取れると思いますし、ある意味、ちょっと踏み込んだ欲望すら感じられる方もいらっしゃるかもしれません。撮影しているときはそうは感じなかったし、監督もそれを指示してないんですよ。でも、撮影が終わってからそこを監督に指摘したら「うん。それでいいんじゃないかな」とおっしゃられて。あぁ、やはりクィアな表現ととらえられてもいいのね、と思いました。
多緒 私もそうとらえられるだろう、と感じているシーンがいくつかありますし、ご覧いただく皆さんが自由に受け取ってもらえたらいいと思っています。ただ、私個人の感覚としては、ヴィルジニーと対面して「顔を触っていい?」と聞いたり、先ほどおっしゃってた足のマッサージで実際に触れ合うシーンなど、スキンシップのあるシーンでは、真理とマリー=ルーの友情がフレンドシップではなくシスターフッドでもなく、それを超えてきていると感じたことが幾度かあります。性愛に直結することではないんですが、こういうことってあると思うんですよ。たとえば、私はシスジェンダーの女性で、男性に惹かれることが多いけど、魅力的な女性の友人は「色っぽいな、素敵だな」と感じることがありますし、それは誰にでもあたりまえにあることだと思うんです。性はグラデーションだとつねに思っていますが、この作品でもそれが表現されているんじゃないでしょうか。
Interview & Text_MASAMICHI YOSHIHIRO
Photograph_KAZUYUKI EBISAWA[MAKIURA OFFICE]
Stylist_AYA FUNAKOSHI(多緒さん)
Hair_ Eita[iris](ヴィルジニーさん)
Hair & Make-up_MIFUNE[SIGNO](多緒さん)
多緒さん■ドレス¥79,200(CFCL/CFCK Inc.)、イヤリング¥9,240,000、リング¥2,521,200(共にカルティエ/カルティエ カスタマー サービスセンター)
ヴィルジニーさん■衣装は全てサンローラン

