
キリンビールが始動させた「人生を共に生きるウイスキー」は、ウイスキーの熟成とともに、自分や家族の人生の歩みを重ね合わせていくという新サービス。2026年6月26日(金)に公式LINEお友だち向けの先行販売、6月29日(月)に一般抽選販売を開始する。
2026年6月2日に開催された発表会には、同サービスの起案者である同社マーケティング部事業創造室・小島亨介さんが登壇。「買ったら届くのは20年後」という型破りなコンセプトが生まれた背景や、先行的に実施した2025年のクラウドファンディングで大ヒットの鍵となった新たな消費価値観「未来消費」、そしてキリンビールが20年というリスクを負ってまで本事業に挑む理由を語った。
■わが子の成長、家族の歴史。ウイスキーの熟成に「人生」を重ねる新サービス
キリンビールの新サービス「人生を共に生きるウイスキー」は、熟成前のウイスキー原酒を購入すると、それをそのままキリンディスティラリー社のウイスキー樽内で熟成させ、20年後に熟成しきったウイスキーを届けるというもの。

一見すると途方もない未来に思えるが、購入者が熟成の経過を追えるように、0年目、3年目、7年目と数年刻みで熟成途中のウイスキーをミニボトルで送付する。たとえば0年ウイスキーはほぼ透明で、市販ウイスキーよりもアルコール度数が高く、力強く未熟感も感じられる香味だという。こうした味や香り、色合いでウイスキーがどう変化していくかを節目で確かめられるのだ。
なお、現在は2019年までの仕込原酒も購入可能で、その場合は仕込年を0年として、2019年原酒であれば購入時点ではなく仕込から数えて20年後の2039年に商品が手元に届く形だ。価格は10万円、容量は熟成期間0~18年品は50ミリ瓶で、熟成が完了した20年品は700ミリ瓶となる。

■「身長を刻んだ家の柱」の体験をウイスキーで実現
“お客様の人生を共にすることで、一生忘れられない乾杯を提供する”をビジョンに掲げた新サービス。起案したキリンビールの小島亨介さんは「家の柱」から着想を得たと語る。

もともと同社では研究者としてビール酵母の研究開発に携わってきたが、成果を出せても実際の商品として世に送り出せてはいないことに葛藤を覚えていたという小島さん。自ら顧客に接してヒアリングを重ねる中で「子どもの身長の成長を刻んでいった家の柱を、建て替えの時に捨てることができなかった」というある顧客のエピソードがヒントとなった。
「子供の成長・変化を楽しみたいという前提のものが、時間の積み重ねで“家族の歴史”を体現したものに変わっていく。すなわち、思い出は時間とともに価値に変わっていくということに気づいたんです」

同サービスは、こうした時間による価値の変化をウイスキーの熟成に重ねて生まれたものだ。子どもの生誕をはじめ、結婚、引っ越し、起業、退職といった人生の節目を迎えた人に向け、「サービスの主役はあくまでこのウイスキーではなくて、お客様の人生」と小島さんは位置づける。
■「4分で1億円」を突破!購入者はウイスキーファン以外が過半数
人生を共に生きるウイスキーの展開はクラウドファンディングサービス「Makuake」でスタート。2025年6月、目標額に到達しなかった場合は事業を取り下げるオールオアナッシング形式でクラウドファンディング募集を開始した。支援の単位は11万円からと、クラウドファンディングとしては高額に属する設定といえる。

クラウドファンディング開始前のコミュニケーションは、募集直前の約1カ月間、SNS広告などでのプロモーションが中心だったという。決して大々的とは言えないプロモーションにもかかわらず、開始わずか4分で1億円を達成した。これはMakuake史上最速の記録で、その後7時間で完売。Makuakeの年間アワード「Makuake Award 2025」で特に目覚ましい実績を残したとして、Makuake Of the Year Gold賞を受賞した。
小島さんはヒットの背景を分析し、クラウドファンディング支援者からのコメントにて、ウイスキーの味への期待よりも「娘が生まれた」「還暦祝いと息子の就職を記念」「結婚記念の年」と、支援者それぞれのエピソードが多く寄せられたことに着目した。
「ウイスキーは基本的にコアなファンの方々が買われる商品であると考えていますが、このサービスにおいては一番好きなお酒がウイスキーでない方(の購入)が過半数。10万円という高い金額を“20年後の特別な乾杯という価値”に共感して買っていただいている」と、サービスのコンセプトが潜在的な需要に合致した構図を明かす。

この需要を、小島さんは“未来に対する希望を買う”という新たな消費行動の形「未来消費」と定義づけた。「今は将来に対する投資や、今のうちから備えておこうという“守りの消費”があると思うのですが、人生を共に生きるウイスキーに関しては極めてポジティブな消費行動が見られている」。実際の物品の所有を重視するモノ消費、体験価値を重視するコト消費、商品の背景にある意味や価値を重視するイミ消費といった消費価値観に時間の経過を組み合わせた複合的な価値観とも言えるものだ。
■「顧客との20年」という不確実性に挑戦
クラウドファンディングの反響も後押しとなり、このたび2026年から本格的な事業化がスタート。2026年6月26日(金)に公式LINEお友だち向けの先行販売、6月29日(月)に一般抽選販売の開始を予定している。初年度目標は1万5000人の新規契約、中期目標では2028年までに5万人規模への拡大を掲げる。
一方で、企業にとって「20年」というスパンは大きなリスクともなる。キリンビールとして前例のない形のサービス、かつ長期スパンでの展開に対し「20年間というサービスを会社としてやりきれるのか」「そのリスクに対するリターンが見込めるのか」という点は特に議論を重ねたポイントとなったという。

そのリスクを乗り越えるため、ウイスキーの仕込みから熟成まで全てキリンディスティラリーが一貫して実施。同サービス専用の基幹システムとECサイトを構築したほか、物流網についてもキリングループロジスティクス社による物流管理を実施していく。20年間の熟成・管理・配送を確実に進めるために、グループ内でのナレッジやノウハウの蓄積を進めていく構えだ。そして小島さんは「本サービスが20年間かかるところに対して『キリンだがら安心して買いました』と言っていただくお客様もたくさんいらっしゃいました」と、顧客からの信頼感が成立の支えにもなったと話す。

小島さんは現在、キリンビールの新規事業統括も担当している。本サービスをはじめとするキリンビールの新規事業への姿勢について「この不確実性への対峙が1つのテーマと考えています」と締めくくった。
「今後、世の中に新しい価値を生み出していくためには、不確実性に対する挑戦をしていくことが必要だと思います。『人生を共に生きるウイスキー』のように、新しい価値を世の中にどんどん出していきたい」
客としても、会社としてもまさに未知が待っている挑戦的な新事業。どんな未来が待っているのかワクワクするウイスキーだ。
文=国分洋平
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