本作が初舞台主演作となる小手さんに、この企画が誕生した経緯やシェイクスピア「テンペスト」の魅力、作品が愛され続ける理由など、演劇人としての思いを熱く、そしてユーモアたっぷりに語ってもらった。

■シェイクスピアは演劇の必須科目
――本作は“俺もそろそろシェイクスピア シリーズ”と銘打たれており、この先もさまざまな作品を展開していかれるかと思います。小手さんにとっては舞台初主演作にもなりますが、どのような思いですか?
【小手伸也】30年ぐらい舞台を続けてきた中で、シェイクスピアをモチーフにしているとか一部取り入れているとか、そういった作品の経験はあるものの、実は真正面からシェイクスピア作品を演じたことがないということに最近気づいたんですね。演劇の必須科目とも言える題材をちゃんと履修しないまま演劇を続けていいものかと、50歳にしてそういう意識が芽生えまして。周りからの一度やってみたらいいんではないかという後押しもいただき、実現することになりました。
シリーズとは言っていますが、アメリカのドラマみたいにシリーズ化をうたっておきながら…っていう可能性も、今は否定はできないんですよ(笑)。そこまで楽観視はしていないです。これはもう、評判次第。本当に皆様のお力にかかっておりますので、何卒、よろしくお願いいたします。
――題目を「テンペスト」に決めたのは、どんな経緯があるのでしょうか。
【小手伸也】演出の村上やチームと何をやろうか話し合い、シェイクスピア最後の単独執筆作品である「テンペスト」がいいのではないかということになりました。僕ら演劇人としては演劇史において重要な作品だと思っています。ただ、ほかの作品に比べて一般認知度は高くないこともあり、現代的なアレンジの余地がある…といったらおこがましい言い方ですが、この復讐劇を村上の手腕によって喜劇化していく、そういうシェイクスピアとの向き合い方を提案されました。
僕としては正直、「リア王」とか「マクベス」とか「リチャード三世」といった王様を演じてみたいという自己顕示欲と、「30年続けてきて、いよいよ小手伸也もそれなりにシェイクスピアのセリフをしゃべれるようになってますよ」ということを世間様に認めてもらいたいという承認欲求もあり、「正面からシェイクスピアをやりたいよ」っていうことを僕は散々申し上げてはいたんですけど、どうも伝わらなかったのかな(苦笑)。
村上とは学生時代から長く一緒にコメディをやってきた間柄でもあるし、当然こうなることは予測できたはずなんですけども。…非常に遺憾ながら結果的に申し上げると、彼から出てきた「コテンペスト(仮)」っていうタイトルのせいで、何が「俺もそろそろ」なのか僕自身サッパリわからない、真正面どころかかなり角度の入った作品になってしまいました。

――小手さんの主演作というのが前面に出て、かつ語呂もよく、すてきなタイトルだと思います。
【小手伸也】皆さん口をそろえてそう仰ってくれるんですけど、僕が背負うタイトルとしてはすごく気恥ずかしさが漂うというか、僕だけがずっと難色を示していたんですよ。代案も出したのですが、結果的には(仮)が取れて正式名称になったという…つまり先ほど「何故テンペストなのか」というご質問に対して申し上げたさまざまなことも、結局全部後付けであるということですね(苦笑)。村上が思いついちゃったからです。
早々に参加を表明してくださった鈴木保奈美さんを味方につけようとして、「このタイトル、どう思います?」とお話をしたら「めちゃめちゃいいタイトルじゃん」と言われて。「僕が欲しい答えじゃないですよ…」と思いつつも、そこから腹をくくったような感じでしょうか。
■知っている人には新鮮に、知らない人も楽しめるステージに
――「テンペスト」は演劇史において重要な作品とのことでしたが、本作ではかなりアレンジが加えられるようですね。
【小手伸也】よくよく原作を読み返すと、意外とシンプルで現代的な再解釈もしやすそうな内容なんです。弟に地位を奪われたミラノ大公・プロスペローが無人島に流され、島に住むエアリアルという妖精の力を借りて復讐を企てるものの、なんだかんだあって最後に許すというお話。国を追われた者が自らの国を取り戻す、という壮大なテーマを描いているのですが、まさか、その島が地方の老舗百貨店に置き換わるとは思わなくて。
しかも、僕は原作でいうところのプロスペロー役だと思っていたら、まさか、その手助けをする妖精のほうだったんです。プロスペローの復讐を手伝わされるエアリアルが何を思っているかという目線で解釈したお話になっています。
――小手さんが演じるのは、妖精おじさんこと内木弁慶。花形の仕事から理不尽な人事異動をさせられた黒須太郎(崎山つばさ)の復讐劇に巻き込まれながら、白熊こずえ(鈴木保奈美)への恋心で奮起する役どころですね。
【小手伸也】復讐のために重労働を強いられる妖精が、復讐する側と復讐される側を両方見たうえで、なんかどっちも気に食わないぞ、となるわけです。復讐劇の外側にいる第三者による復讐という、新たな構造というのでしょうか。シェイクスピア作品の翻案で、おそらく古今東西見当たらないものになっているというおもしろさがあると思います。もともと「テンペスト」を知っている人には新鮮に映るかもしれないし、全く知らない人にとっても単純に楽しめる作品になるのではないのかな、と、そんな予感はすごくします。あとはもう、小手伸也が妖精を演じる、というワードの強さで勝負していくしかないと思っています(笑)。

■自分の承認欲求よりも世間的なイメージや評価を大切にしたい
――独特の雰囲気を持っていらっしゃるので、“妖精おじさん”はハマり役というような印象もあります。
【小手伸也】どちらかというと、僕はあまりリアルなお芝居を求められないタイプですね…。でも僕だって、本当は是枝裕和監督の映画とか出たいですし、吉田鋼太郎さんの演出も受けたいですよ!だから、こういうシェイクスピアの難しいセリフ回しとかもできるぞ、っていうのを今作で見せたかったはずなんですけど…。
ただやっぱり、自分の意思とは関係なく背負っている世間的なイメージや皆さんからの評価って、自分のエゴよりも大切なことだなって最近はすごく思うんです。だから、僕の小賢しい承認欲求のようなものは置いておいて、“小手伸也がファンタジー俳優として妖精を演じる”というパワーワードにあやかり、そういう見出しに恥じない自分であろうと思いますね。そういう責任感を負うほうが僕の性に合っているので、もう全力でファンタジーをやらせてもらいます。
――「こんなはずじゃなかった」という気持ちを溜め込んだ小手さんが、本作を通して復讐をするとしたらどんなことでしょう。
【小手伸也】本作を見たお客さんがすごく喜んでくださったら、「ほら、言った通りでしょ」っていうことになるから僕の復讐にはならないし、僕が「それ見たことか!」となったら公演がコケるってことだから、それも困るわけで…何だ、何が復讐になるんだ。当初演じるつもりだった王様を演じること、そこまでシリーズを続けることができたら、復讐達成ということになるんですかね。

■長く愛される理由は群像劇が織りなす人間模様のおもしろさ
――冒頭で、演劇の必須科目というお話もありましたが、シェイクスピア作品に対する思い入れなどがあれば教えてください。
【小手伸也】世代的に蜷川幸雄さんの舞台などを見てきたりしているんですが、まだ演劇を志してなかった頃の僕でさえ「演劇ってシェイクスピアとかでしょ」というイメージをもっていたりして。娯楽というよりは芸術、ともすれば勉強に近い敷居の高さみたいな感覚があったんです。セリフ回しが独特で非常に難解ですし。でも俳優としては、難しいセリフこそ言ってみたくなるっていうドM精神がちょっとありまして、いつかは僕もこのセリフを言えるようになるのかなっていう思いでシェイクスピアを見続けてきましたね。そのいつかが、まさかこういう形で実現するとは思わなかったんですけど…。
僕がいた演劇サークルの直系の先輩で作・演出家の松村武さん(劇団カムカムミニキーナ)が、シェイクスピア作品のオールスター大集合みたいな公演をプロデュースしたことがあったんです。「ヴェニスの商人」をベースに、「オセロー」とかいろんな作品から人物が集まってオリジナルの展開をしていく内容で、そこで僕はキャリバンという「テンペスト」に出てくる異形の怪物を演じたんです。全身タイツみたいな衣装で、「下半身は動かさずに、手を使った二足歩行で舞台をアシカのように縦横無尽に駆け回れ」って松村さんに言われて(笑)。えらい大変な役だった思い出があります。今回、そのキャリバンがどう描かれるのかもポイントですね。
地方の老舗百貨店という非常にミニマルな世界観でやらせてもらうので、そういう怪物とか妖精をどう日常に落とし込むのか、その翻案の妙というか、原作との馬鹿馬鹿しいズレ具合が大きな笑いどころにもなってくると思います。
――400年以上もさまざまな形で上演され続けているシェイクスピア作品ですが、その魅力はどういうところにあると感じますか?
【小手伸也】言い回しとか劇中に出てくる概念は確かに古いものではあるけれど、策略で人を貶めたり、あるいは勘違いから複雑なことになっていくとか、群像劇が織りなす人間模様のおもしろさというのは普遍なんですよね。そこに、時代とともに再解釈やリブートをできる懐の深さがあるから、長く愛されてるんだろうなと思います。シェイクスピアという題材をどう料理するのか、そこが腕の見せどころだし、誰しもがやっぱり一度は調理してみたいと思うものなんじゃないでしょうか。だからこそ僕も、50を過ぎてやってみたいと思いましたし。…まぁ、妖精を演じてみたいと思ったことは一度もないんですけど、でもそれも腕の見せどころではありますよね。

――“そろそろシェイクスピア”ということですね。
【小手伸也】ただ、「テンペスト」は先ほどもお話したように、登場人物同士がいがみ合って勘違いが起きて、その勘違いが悲劇とか喜劇とかを生んで…というごちゃごちゃがあまりないシンプルなお話なんですよね。これは翻訳家の小田島創志先生も仰っていたんですが、そんなシンプルな復讐劇ではあるものの、登場人物たちにツッコミどころも多々あったりして。今回は真正面からという僕の夢は叶いませんでしたが(笑)、村上ならではの斜め目線はある意味、原作に対するツッコミにもなっていて、いいあんばいに真面目でくだらないコメディに仕上がったと思います。
原作のラストでは、主人公のプロスペローがすべてをやり切ったうえで、みんなを許した自分の是非を観客に問う演説をするんです。「夏の夜の夢」の妖精パックの終幕の演説と似たような構造なんですけど、今回はそのプロスペローの演説を妖精おじさんである私がガッツリ奪って、初主演の面目躍如といきたいところです(笑)。そもそもの文脈が全く変わってきてるので、印象は原作とはだいぶ違うとは思いますが、大団円の外側に立たされた妖精おじさんの魂の叫びとして、切実な思いでお届けできたらと思います。
原作に対するリスペクトも大事にしつつ、演劇の聖地・本多劇場で下手なことはできないので、これまでに培ってきた最大限のコメディ能力を大開放するつもりでやるしかないなと。あとは心強い共演者の皆さんと一緒に、生の迫力でなんとか押し切りたいと思います(笑)。
撮影=大塚秀美
取材・文=大谷和美
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