麻衣は、美紀や理恵の視点を通して、復帰後の自分の立ち振る舞いについて深く考えるようになった。自分自身の体調不良で休むわけではない。子どもが熱を出した時、自分を助けてくれる同僚たちへの感謝と謙虚さが必要だ。麻衣は、もう「子持ち様」という言葉に怯えるのではなく、復帰後の自分の行動で、その言葉を払拭していくことを決意した。
「おかえり!」— 冷たい視線はなかった。SNSの不安から現実の職場へ
復帰の日。麻衣は緊張していたが、不安な気持ちを隠し、笑顔で職場に入った。理恵をはじめ、数人の同僚が「おかえりなさい!」「無理しないでね」と声をかけてくれた。美紀の言葉通り、誰も麻衣に冷たい視線を送る人はいなかった。
麻衣は、復帰後の自分のスタンスを決めていた。それは「日頃の感謝と謙虚な姿勢を常に忘れない」ということ。
子どもが熱を出して早退する時は、周囲にしっかり説明と謝罪の気持ちを伝え、そして引き継ぎを可能な限り丁寧に行う。翌日出勤した際は、直接フォローしてくれた同僚一人ひとりに、心からの感謝を伝える。そして、自分の業務を時間内に終わらせるために、出社している間は人一倍集中して働く。
麻衣は、理恵が抱いていたような「休んで当然」という態度を取る人にはなりたくなかった。子どものために早退することは権利だが、その裏で誰かが仕事を肩代わりしてくれているという事実は忘れてはならない。
「頑張っている人」だから気持ちよくフォローする。信頼が「子持ち様」の呪縛を解く
ある日、颯太が熱を出し、麻衣は急遽早退することになった。理恵が笑顔で「大丈夫だよ、引き継ぎ任せて!」と言ってくれた。麻衣は「本当にごめんね。そしてありがとう。次は理恵が好きなお菓子持ってくるね」と伝えた。理恵は「そんなの気にしなくていいのに!」と言ったが、その表情は優しいものだった。
麻衣は、この一件で、理恵との間に確かな信頼関係が築かれ始めているのを感じた。理恵は、麻衣が感謝を忘れないことを知っている。だから、気持ちよくフォローしてくれるのだ。
会社が人手不足を放置しているのが悪いのは大前提。休んだ人の分だけ、頑張った人にフォローがない状態が悪いのも大前提。それでも、麻衣は、自分にできることは「謙虚さ」と「感謝」で、職場の人間関係を良好に保つことだと理解した。
麻衣は、もう「子持ち様」という言葉に怯えていない。自分を信じ、そして助けてくれる同僚たちとの関係を大切にしながら、子育てと仕事を両立していく決意を固めている。

