「過敏性腸症候群(IBS)」の患者数は近年増加傾向にあり、日本人の約10人に1人が罹患していると推定されています。特に若い世代や女性に多く、症状のせいで通勤や通学ができないなど、日常生活に支障が出ることも少なくありません。今回は、過敏性腸症候群の症状や原因、なりやすい人の特徴、治療法・予防法について、「池袋ふくろう消化器内科・内視鏡クリニック 東京豊島院」の柏木先生に解説していただきました。

監修医師:
柏木 宏幸(池袋ふくろう消化器内科・内視鏡クリニック 東京豊島院)
2010年埼玉医科大学卒業後、沖縄にて初期臨床研修をおこない、東京女子医科大学病院消化器病センター内科へ入局。女子医科大学病院消化器内科助教となり複数の出向病院で勤務し、2023年4月に池袋ふくろう消化器内科・内視鏡クリニック開業。日本内科学会総合内科専門医、日本消化器病学会消化器病専門医、日本消化器内視鏡学会消化器内視鏡専門医、一般社団法人日本病院総合診療医学会認定病院総合診療医、難病指定医。
過敏性腸症候群(IBS)とは
編集部
まず、過敏性腸症候群について教えてください。
柏木先生
過敏性腸症候群は、腸に明らかな異常が見つからないのに、腹痛や下痢、便秘といった症状が繰り返し起こる慢性的な機能性疾患です。腸の働きが過敏に反応することで、生活の質に影響を及ぼすのが特徴です。
編集部
過敏性腸症候群の主な症状には、どのようなものがありますか?
柏木先生
代表的なのは「腹痛」と「便通異常」です。大きく分けて、下痢型、便秘型、下痢と便秘を交互に繰り返す混合型の3つがあります。また、腹部の膨満感やガスがたまる感じもよくみられ、症状はストレスや食事によって変動します。
編集部
過敏性腸症候群は、どのくらいの人にみられる病気でしょうか?
柏木先生
日本人の約10人に1人が罹患しているとされ、男女ともにみられます。特に20~40代の働き盛り世代に多く、日常生活や仕事のパフォーマンスに影響することが少なくありません。
編集部
働き盛りの世代に多くみられるのですね。
柏木先生
もちろん、10代など若い人でも発症することはありますし、50代や60代などでもみられます。全般的に、ストレスの多い環境にいる人が多く発症しています。
編集部
過敏性腸症候群は命に関わる病気なのでしょうか?
柏木先生
命に直結する病気ではありませんが、長く続く症状が強い不安やストレスを招き、生活の質を大きく下げる可能性があります。実際、トイレが気になって通勤や通学ができない、旅行に行けない、外出ができない、食事を普通に取れないなど、日常生活に支障が生じる場合も少なくありません。放置せず、専門医に相談して症状をコントロールすることが大切です。
過敏性腸症候群(IBS)の原因・なりやすい人の特徴
編集部
過敏性腸症候群の原因はなんですか?
柏木先生
はっきりした原因は特定されていませんが、腸の運動や感覚の異常、ストレスや自律神経の乱れ、腸内細菌のバランスなどが関与しているとされています。実際には、これら複数の要因が重なって発症すると考えられています。
編集部
過敏性腸症候群になりやすい人の特徴はありますか?
柏木先生
精神的なストレスを受けやすい人や、几帳面で緊張しやすい性格の人に多い傾向があります。また、夜更かしや不規則な食生活、飲酒やカフェインの過剰摂取など生活習慣の乱れも発症リスクを高めます。
編集部
ストレスや緊張なども関係しているのですね。
柏木先生
「脳腸相関」という言葉もある通り、脳と腸は密接に関係しています。そのため、強いストレスを感じたり、緊張したりすると腸の働きが乱れ、便通異常など様々な症状が生じるのです。
編集部
男女で症状の出方に差はありますか?
柏木先生
はい。女性は便秘型、男性は下痢型が多い傾向にあります。ホルモンの影響やストレス対処法の違いなども背景にあると考えられています。
編集部
遺伝や体質も関係しますか?
柏木先生
遺伝的な要因が関与していると考えられており、家族に過敏性腸症候群がいると発症しやすいという報告もあります。体質や生活習慣が似ていることも関連していると考えられます。

