過敏性腸症候群(IBS)の治療法・予防法
編集部
過敏性腸症候群は、どのように治療するのでしょうか?
柏木先生
治療は薬物療法と生活習慣の改善が基本です。腸の運動を整える薬や便通を調整する薬に加え、プロバイオティクスなどの腸内環境を改善する薬を用いることもあります。そのほか、ストレスを軽減する心理療法を取り入れたり、場合によっては抗不安薬などの薬物療法をおこなったりすることもあります。このように、症状のタイプに応じて治療を組み合わせるのが一般的です。
編集部
生活するうえで気をつけることを教えてください。
柏木先生
規則正しい生活とバランスの取れた食事が大切です。過敏性腸症候群の症状をきたしやすいとされる食事内容は、脂っこいもの、カフェイン類、香辛料を多く含む食品とされています。脂っこいものや刺激物を控え、よく噛んで食べること、カフェイン類を含まない水分をしっかり摂ることも有効です。
編集部
そのほか、食生活で気をつけるべきことはありますか?
柏木先生
ミルクや乳製品は、乳糖不耐症の過敏性腸症候群の患者さんにとって下痢を誘発するリスクがあるため、身体に合わない場合は控えることをおすすめします。それから、欧米では食事療法として「低FODMAP食」が用いられ、日本でも浸透しています。
編集部
低FODMAP食とはなんですか?
柏木先生
「Fermentable(発酵性)、Oligosaccharides(オリゴ糖)、Disaccharides(二糖類)、Monosaccharide(単糖類)、And、 Polyols(ポリオール)」の頭文字をとったもので、FODMAPを多く含む食事を避けることで過敏性腸症候群の症状を抑えるという報告もあります。そのため、食事療法の参考にしてもいいと思います。また、多量の飲酒も下痢の原因となりやすいので注意が必要です。
編集部
ストレス対策も役立ちますか?
柏木先生
非常に重要です。特に、十分に睡眠をとることや適度な運動を継続することは自律神経の安定につながり、症状の改善に効果が期待できます。また、過敏性腸症候群はストレスと密接に関係しているため、リラックス法や趣味の時間を持つことが効果的です。必要に応じて専門医による心理療法やカウンセリングも役立ちます。
編集部
過敏性腸症候群を予防するために、普段から心がけることはありますか?
柏木先生
「無理をしすぎない」ことが最大の予防になります。過敏性腸症候群は完治を目指すというよりも、環境によって症状を繰り返す疾患です。そのため、規則正しい生活や腸に優しい食習慣、ストレスをためすぎない工夫を日常に取り入れることで、過敏性腸症候群の発症や再発を防ぎましょう。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
柏木先生
「こんなことで受診していいのかな」「ずっと症状があるけど、悪い病気じゃないか心配……」、そんな不安を抱えながら受診をためらっている人は少なくありません。しかし、一歩踏み出して医療機関を受診することで、病気が見つかることもあれば、症状を和らげる薬に出会えることもあります。また、腹痛や下痢が続く場合には、潰瘍性大腸炎や大腸がんなど、治療が必要な病気が隠れていることもあります。検査を受けることで不安が軽くなったり、日常生活で困っている症状の解決策が見つかったりすることもあります。もし気になる症状があるなら1人で抱え込まず、医療機関に相談してみてください。あなたに最適な治療や検査をご提案できるかもしれません。
編集部まとめ
過敏性腸症候群は命に関わる疾患ではないとはいえ、QOLを大きく低下させる一因であることは間違いありません。悩んでいることがあったら、まずは消化器内科をはじめとする専門医を受診しましょう。

