●12年間の闘争で勝ち取った「労働者性」
労働委員会制度や裁判を頼りにたたかったが、その過程で佐々木さんが痛感したのは「制度の遅さ」だった。
2014年1月の救済申し立てから、愛知県労働委員会が不当労働行為と認定するまで2年7カ月。中央労働委員会の認定までは、さらに5年近く。そのうえ河合塾が訴訟を起こしたことで、さらに4年以上を費やした。
「厚労省のリーフレットを封筒に入れて渡したことでクビにされた。普通なら3秒でおかしいとわかる話ですよね。でも実際には10年以上かかりました。河合塾側は同じ主張を何度も繰り返し、審査制度や司法制度を"時間稼ぎ"の武器にしているように見えました」
復職を目指した佐々木さんにとって、労働委員会制度は適した制度ではあったが、長期化することで費用などがかさみ、組合が疲弊するケースも少なくない。佐々木さんは制度の改善が必要だと感じたと話す。
「お金も時間もかかる。都道府県労働委員会から最高裁まで実質5審制をたたかうのは大変です。幸い、私の場合はみんなの団結が固かったのでユニオンも維持できましたが、簡単なことではありませんでした。今回の経験を踏まえ、救済までの時間を短縮する仕組みが必要だと思います」
●「労働者性」をめぐる議論を当初は理解できなかった
佐々木さんの法廷闘争では、画期的な判断も出た。業務委託契約の講師にも「労働者性」が認められ、その判断基準も具体的に示されたことだ。
中央労働委員会は、河合塾の業務委託契約の勤務実態を審査した結果、こう指摘している。
「法人の事業遂行に不可欠かつ恒常的な労働供給者として事業組織に組み入れられている。報酬は、法人に対する労働供給に対する対価であると認められる。広い意味での指揮監督下の労務提供と一定の時間的場所的拘束が認められる。委託契約講師について、顕著な事業者性は認められない」
この判断は、佐々木さん個人だけでなく、河合塾の業務委託講師全員にも及んでいる。河合塾ユニオンによると、河合塾では、講師の4割程度が業務委託契約だという。
他の大手予備校などでも、業務委託のケースが圧倒的に多いとされる。労働者性が認められたことで、業務委託でも組合を作ることができ、団体交渉やストライキもできるようになる。
佐々木さんは、こうした「労働者性」をめぐる議論を当初は理解できなかったと笑う。
「相手側の弁護士も、組合の弁護士も、労働委員会の委員も、裁判官も、誰も私の働き方を見ていないのに『労働者か否か』を語っているのは不思議でした。でも途中から、これは"大きな壁"なんだと気づいた。自分が労働者性を確立する責任を負っていると思うようになりました」
結果的に、労働委員会から裁判所まですべての段階でユニオン側の主張が認められた。

