吉田美月喜、不朽の名作『リア王』に挑む 難役「コーディーリア」と向き合う故の“覚悟と闘い”の日々

吉田美月喜、不朽の名作『リア王』に挑む 難役「コーディーリア」と向き合う故の“覚悟と闘い”の日々

コーディーリア役を務める吉田美月喜
コーディーリア役を務める吉田美月喜 / 撮影:永田正雄

吉田鋼太郎が主演・芸術監督、長塚圭史が演出を務める「彩の国シェイクスピア・シリーズ2nd」の第3弾『リア王』が全国公演中。石原さとみや藤原竜也ら経験豊富な俳優陣が名を連ねる中、三女コーディーリア役に抜擢されたのは、映画『ルックバック』で主演声優を務めるなど映像作品以外でも活躍の幅を広げる若手俳優・吉田美月喜。本記事では、初の古典作品に出演した心境、役作りの苦労、そして舞台に立つ意味などを吉田本人に語ってもらった。

■シェイクスピア四大悲劇『リア王』とは

退位することを決めた高齢のリア王(吉田鋼太郎)は、3人の娘に領土を分け与えることを決める。その条件として「王への愛」がどれほどのものか試すが、巧みに王への賛辞と愛を語った長女と次女に対し、誠実さゆえに甘言を弄すことを拒んだ末娘コーディーリアを追放してしまい、臣下も巻き込んだ悲劇の連鎖が始まっていく…という物語。『ハムレット』『オセロー』『マクベス』と並ぶ、シェイクスピア四大悲劇の一つ。
左よりリーガン役松岡依都美、コーンウォール公爵役稲荷卓央、リア役吉田鋼太郎、コーディ—リア役吉田美月喜、オールバニ公爵役田中佑弥、ゴネリル役石原さとみ
左よりリーガン役松岡依都美、コーンウォール公爵役稲荷卓央、リア役吉田鋼太郎、コーディ—リア役吉田美月喜、オールバニ公爵役田中佑弥、ゴネリル役石原さとみ / 撮影:宮川舞子


■まさか23歳でシェイクスピアに…。「うわ、本当だ」と焦った本読み初日

――今回、演出の長塚圭史さんからのオファーでコーディーリア役が決まったそうですが、その時の気持ちを教えてくだい

「まさか、この年齢(23歳)でシェイクスピアを経験できるなんて!」という驚きはもちろんですが、とにかくシェイクスピアの舞台を演じられる!という喜びが大きかったです。

先輩方から「シェイクスピアは若いうちに一度はやっておいた方がいい」とは聞いていたもんですが、演じるのはもう少し先のことだと思っていたところがあって…(笑)。でも、それと同時に純粋な楽しみもありました。何より共演者のみなさんが本当に豪華な方ばかりなので、「この中で一緒にお芝居ができるなんて本当に光栄だな」と。当時はまだ実感が湧いていなくて、喜びのあまり本当に現実かと疑うほどでした。

――実際の稽古が始まってからは、いかがでしたか

本読みの初日はとにかく焦りました(笑)。噂に聞いていたんですが、主演の吉田鋼太郎さんが最初から一切台本を見ていなくて。本読みの段階なのに、もうほぼ立ち上がって動くようにお芝居をされているんです。藤原竜也さんたちも含め、みなさん最初から台本を持たずに挑まれていて。その凄まじい熱量を目の当たりにして、一気に良い緊張感が走りました。

――コーディーリアは悲劇の象徴的な存在だと思うのですが、どのように向き合っていったのでしょうか

一人で台本を読んだ時には、正直なところコーディーリアのことが全然理解できなかったんです。父としてのリア王は、ただ娘から愛の言葉を聞きたいだけなのに、なぜこんなに棘のある言い方をして突き放しちゃうんだろう?…って、姉のゴネリルやリーガンの気持ちの方が理解できました。

でも、もがきながら役と向き合い続けた中で、初めてキャスト全員で「通し」の読み合わせをしたときに、ガラッとコーディーリアの見え方が変わりました。コーディーリアが出演していない場面の、山西(惇)さんや藤原さんたちのストーリーをみなさんの言葉を通して客観的に聞いたとき、作品の根底にある「家族愛」がストンと自分の中に落ちてきたんです。

そこから、幼さも含めて、真っ直ぐすぎるがゆえの不器用さが、リア王に愛されていた理由なんだと、コーディーリアをキャラクターではなく一人の「人間」として見て向き合えるようになりました。
左より、リーガン役松岡依都美、コーンウォール公爵役稲荷卓央.コーディーリア役吉田美月喜、リア役吉田鋼太郎
左より、リーガン役松岡依都美、コーンウォール公爵役稲荷卓央.コーディーリア役吉田美月喜、リア役吉田鋼太郎 / 撮影:永田正雄


■“私立学校のお嬢様”からの脱却。舞台上で求められた「スケール感」

――今回は長塚さんの演出、そして先輩方からのフィードバックも日々熱いものがあったとお聞きしました

本当に毎日、みなさんが楽屋に来て「今日のコーディーリアはこうだったよね」って教えてくださるんです。

特に物語の引き金になる1幕1場のシーンは、毎日が闘いでした。私はコーディーリアとして、「お父様ならきっと言葉の裏にある私の本心を分かってくれるはず」と信じて、娘としてナチュラルに演じてしまったことがあって。

その時、みなさんから「娘としての自然な会話になりすぎていて、愛のスケールが小さくなっている。今日のコーディーリアは『私立学校のお嬢様』に見えたよ」と言われたんです。

――「王国を背負う姫」ではなく「お嬢様」に見えてしまった、と

本当に胸に刺さりました。父であるリア王のことが心配なあまり、舞台上でどうしても体が前のめりになって、必死さが出てしまっていたんです。長塚さんからも「父親を心配する気持ちは分かるけれど、そんな風に必死になりすぎている人に、果たしてフランス軍の兵士たちはついていきたいと思うか?」と問いかけられてハッとしました。

後半、フランスの王妃として軍を率いて久しぶりに登場するシーンがあるのですが、そこでは父、リア王への深い愛と同時に、兵士を引っ張っていく強さ、凛とした「二面性」を同時に見せなければいけない。その両立とバランスのコントロールは、今でも毎公演、必死に模索しながら演じています。
左より、コーディーリア役吉田美月喜、リーガン役松岡依都美、コーンウォール公爵役稲荷卓央.リア役吉田鋼太郎
左より、コーディーリア役吉田美月喜、リーガン役松岡依都美、コーンウォール公爵役稲荷卓央.リア役吉田鋼太郎 / 撮影:永田正雄


■マントの捌き方は矢崎広直伝「衣裳は鎧」

衣裳の力は本当に大きいです。実は今回の衣裳、「すごくシンプルだな」とは思っていたんですけど、いざ袖を通してみると、装飾が少ないクラシックなデザインだからこそ、逆にスタッフさんたちの「お芝居で魅せてくれ」という無言の期待というか、凄まじい重圧を感じました。私にとっては、着るだけで気持ちが引き締まる「鎧(よろい)」のような存在です。

――マントを捌きながらのアクションや所作は、最初からあんなに美しかったのですか

何度も何度も練習しました。最初はマントの扱いに慣れていなくて、マントの中でモゴモゴ手を動かしてしまっていて。演出の長塚さんが「マントの中だけで手が動いているのが逆にすごく目立って気になるから、動かすなら大胆に手を出して」と指摘してくださって(笑)。

そこから、鏡の前でひたすらマントの捌き方を練習しました。エドマンド役の矢崎広さんは、以前にマントのある衣裳を経験しているマントの大先輩なので、鏡の前で一緒に並んでかっこいいマントの捌き方や、剣を帯びた状態での美しい座り方をたくさん伝授していただきました。

――劇中のあの凛とした佇まいの裏には、そんな先輩たちとのやり取りがあったんですね

ほかにも、本番が始まってから「凜としようとしすぎて、セリフが走って呪文みたいになっている」とアドバイスをいただいたこともありました。「人は余裕がある人のところについていきたくなる。もっと余裕を持ってみたら?」と言われて。

コーディーリアに余裕なんてあるわけない、と思っていたのですが、あえて一歩引いて、お腹に声を落として「それは分かっています」と落ち着いて台詞を言うようにしてみたんです。そしたら、客席への言葉の届き方がガラッと変わったと自分でもわかるほどでした。

技術的なアプローチではなく、コーディーリアという人間の「見え方」から逆算してお芝居を構築していくっていうのはこういうことかと大きな学びになりました。私は先輩方のように卓越した技術があるわけではないので、とにかく今は「コーディーリアとしてまっすぐ舞台に立つこと」だけを信じて、泥臭く向き合っています。
左:リア役吉田鋼太郎、右;コーディーリア役吉田美月喜
左:リア役吉田鋼太郎、右;コーディーリア役吉田美月喜 / 撮影:永田正雄


■「生」の舞台でしか出会えない、極限状態の自分。これからも挑戦を続けたい

――映画『ルックバック』(2024/Leminoにて配信)での声優初挑戦も大反響、モデル業など多方面で活躍されていますが、吉田さんにとって「舞台」という場所はどんな意味を持っていますか

やっぱり、舞台は「生」であり、やり直しがきかない場所。そして「何回も本番が続く」というところが、舞台ならではの魅力だなと感じています。

毎日、気を引き締めて、極限状態の緊張感のなかでお芝居を重ねていく。その「数」を潜り抜けた先にしか出会えない、自分の新しい表現や姿があると思うんです。数、回数を重ねていくからこそ、お芝居がどんどん深まっていく。それが舞台の持つ何よりの魅力であり、私自身が一番惹かれているところです。

――今後はどんな俳優を目指していきたいですか?

私自身、とにかく好奇心旺盛な性格ということもあって(笑)。まずはやったことがないこと、知らない役柄にどんどん「挑戦」していきたいです。

今回のシェイクスピアもそうですし、声優のお仕事もそうですが、初めての環境に飛び込むからこそ見つかる「新しい自分」がたくさんあります。

例えば『ルックバック』で学んだ「声のトーンひとつで、人間の真剣味やキャラクターの印象がガラッと変わる」という気づきは、間違いなく今回の『リア王』でのセリフの届け方に活きています。すべての経験が繋がっていると感じるからこそ、これからも恐れずに、いろんな世界へ飛び込んでいきたいです。
左より、コーディーリア役吉田美月喜、リア役吉田鋼太郎、リーガン役松岡依都美
左より、コーディーリア役吉田美月喜、リア役吉田鋼太郎、リーガン役松岡依都美 / 撮影:永田正雄


・インタビュー・文:舛田玄

提供元

プロフィール画像

WEBザテレビジョン

WEBザテレビジョンは芸能ニュース、テレビ番組情報、タレントインタビューほか、最新のエンターテイメント情報をお届けするWEBメディアです。エンタメ取材歴40年以上、ドラマ、バラエティー、映画、音楽、アニメ、アイドルなどジャンルも幅広く深堀していきます。