歯周病は歯を失う原因の一つであり、成人の多くが罹患しているとされる身近な病気です。ところが初期段階では自覚症状がほとんどなく、気付いたときには進行しているケースも珍しくありません。放置すると歯を失うだけでなく、全身の健康にまで悪影響を及ぼすこともわかっています。本記事では、歯周病の基礎知識から初期症状、進行時の症状、さらに効果的な治療法までを解説します。

監修歯科医師:
松浦 京之介(歯科医師)
歯科医師。2019年福岡歯科大学卒業。2020年広島大学病院研修修了。その後、静岡県や神奈川県、佐賀県の歯科医院で勤務。2023年医療法人高輪会にて勤務。2024年合同会社House Call Agencyを起業。日本歯科保存学会、日本口腔外科学会、日本口腔インプラント学会の各会員。
歯周病の基礎知識

歯周病とはどのような病気ですか?
歯周病はむし歯と並んで歯科の2大疾患といわれており、成人期において歯を失う原因の一つです。
歯周病とは、歯を支える土台となる組織に炎症が起こり、徐々に破壊されていく病気です。具体的には、歯茎や歯を支える歯槽骨が細菌感染によって障害を受け、放置すると最終的に歯が抜け落ちてしまう可能性があります。歯周病の怖い点は、痛みなどの自覚症状が乏しいまま進行してしまうことです。そのため、気付いたときには重症化していることも珍しくありません。
参照:『歯周病検診マニュアル2023』(厚生労働省)
歯周病の原因を教えてください
歯周病の主な原因は歯垢(プラーク)です。毎日の歯磨きが不十分だと、歯と歯茎の境目に歯垢がたまっていきます。歯垢は歯に付着している白、または黄白色の粘着性の沈着物で、わずか1mgのなかに1億個以上の細菌が潜んでいるといわれます。
この細菌が出す毒素が原因で歯茎に炎症を生じます。さらに症状が進行すると歯と歯茎の間に歯周ポケットと呼ばれる空間ができます。その中は酸素が少ない環境になるため、歯周病菌がますます繁殖しやすくなり、炎症はさらに広がります。
また、歯垢は唾液に含まれるカルシウムやリン酸と結びついて硬い歯石となり、歯の表面にこびりつきます。歯石が歯周病菌が定着する足場のような役割を果たします。その結果、細菌はより奥深くにまで入り込み、炎症を悪化させていきます。炎症が強まると、歯槽骨が細菌の毒素によって溶かされ、歯茎が退縮したり、歯がぐらついたりする原因となります。
さらに、歯周病はさまざまな要因が重なって進行します。例えば、年齢や体質、糖尿病などの全身の病気、免疫力の低下などの身体の状態(宿主因子)です。また、喫煙、ストレス・食生活といった生活習慣(環境因子)も深く関係しています。
参照:
『e-ヘルスネット「歯周病とは」』(厚生労働省)
『歯周病検診マニュアル2023』(厚生労働省)
歯周病の前兆と初期症状

歯周病には前兆はありますか?
歯周病の前兆は、健康な口腔状態から少しずつ変化していくときに、ちょっとした違和感として現れます。
例えば、細菌の増殖が原因でお口の中がねばつき、朝起きたときの口臭が強くなります。歯磨きでたまに血が混じる場合も、歯肉に炎症が生じ始めている兆候です。
歯周病の初期症状を教えてください
歯周病の初期には、下記のような症状がみられます。
歯磨きの際に少量の出血がある
歯茎が赤く腫れている
口臭が強くなる
歯と歯の間に食べ物がつまりやすい
歯茎からの出血は、細菌によって炎症が起こり、血管が拡張して弱くなっている証拠です。通常、健康な歯茎からは歯磨き方法や食事程度の刺激で出血することはないため、少しでも出血するのであれば、それはすでに歯肉炎が始まっているサインと考えられます。
また、歯茎の赤みや腫れも同様に炎症反応の一つです。健康な歯茎は薄いピンク色で引き締まった状態ですが、炎症が進むと赤みを帯びて腫れぼったくなります。
さらに、強い口臭を感じる場合も注意が必要です。歯周病菌は嫌気性菌と呼ばれ、酸素の少ない環境で活動し、代謝の過程で悪臭のガスを発生させます。これが口臭の大きな原因です。
歯茎が腫れて形が変わったり、炎症で歯と歯茎の間に歯周ポケットができ始めることで、食べかすが残りやすくなります。
これらの症状は軽視されがちですが、歯周病の始まりを示している可能性が高いといえます。

