
東北地方、主に山形県に江戸時代から伝わる「ムカサリ絵馬」という風習がある。これは、未婚のまま亡くなった人の寂しさを癒すため、死後に結婚をさせる“死後婚”の儀式であり、婚礼服姿の男女の絵を奉納するものだ。この儀式には、決して破ってはいけない掟があるという。
■「ムカサリ絵馬」の破れない掟



今回は、この「ムカサリ絵馬」を題材にしたホラー漫画『鬼の居る間にわたしたちは』の第2話を紹介する。主人公の女子高生・螢は怪異が見える体質。ある日、転校生あざみの肩に凶悪な怪異が取り憑いていたことがきっかけで二人は仲良くなる。
平穏な日々を過ごしていたのも束の間、あざみを追って前の学校の男子生徒が校門に押しかける事件が発生。異常なあざみへの執着からストーカー行動はエスカレートし、螢が「生き霊とかになられたら困る」と心配していた矢先に事件が起き、「ムカサリ絵馬」が絡むホラーな展開へと進んでいく。
■作者が描く生者と死者の曖昧な世界
本作の著者である漫画家の三ノ輪ブン子さん(@minowabunko)に、制作秘話を聞いた。
数々のホラー漫画を手掛ける三ノ輪さんが、今回の作品で「ムカサリ絵馬」を取り上げたきっかけは、「もともとフランスの漫画アプリに掲載されていた作品なので、なにか日本らしいホラーにしたいなと思った」からだという。死者と生者を同じように対等に扱う点が日本らしいと感じたほか、フランスでは死者との結婚が認められている国だという意外な事実もわかる。
物語の終盤で、新郎姿の男子高校生の目がうっすら開いたシーンについて尋ねると、「『なぜ目が開いたのか』に明確な答えはありませんが…」と前置きしつつ、描写の意図を語った。
三ノ輪さんは、「死者と生者の境目が常にあいまいで混じり合うところが、日本のホラーの好きなところです」と話す。男子生徒は死んでしまったが、彼の思いや存在まで死んだわけではない。その「何が生きていて死んでいるのかわからないあいまいな世界」を、あのシーンで描けていたらよいと述べた。
「ムカサリ絵馬」の風習で破ってはいけない掟とは、亡くなった人の相手に、生きている人の姿を描いてはいけないということだ。もし実在する人を描いてしまった場合、あの世に連れていかれてしまうと言い伝えられている。果たしてあざみは大丈夫だったのだろうか。実際に残っている風習について調べながら、本作を読み進めると、その恐怖で夏の暑さも薄れるかもしれない。
取材協力:三ノ輪ブン子(@minowabunko)
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