近年の韓国ドラマ/映画ファンにとって、「ク・ギョファン」という出演者名は「そりゃ、とりあえず観なくちゃ!」と素直に思える、信頼と安心のマークのようなもの。Netflixシリーズ『D.P. -脱走兵追跡官-』でブレイクし、2026年もドラマ『誰だって無価値な自分と闘っている』が国内外でも注目を集めたク・ギョファンさんは、2025年夏に商業映画としてはご自身初となるラブストーリー『サヨナラの引力』に主演、韓国で260万人を動員したヒットとなりました。そして2026年7月3日からやっと日本でも公開されることに!
ク・ギョファンさんが、本格ラブストーリーの主演を引き受けた。「彼がこの出演を決意したのには、それなりの理由があるに違いないわ」と思いますよね。近年は俳優として華々しく活躍していますが、実は映画監督や製作者として長いキャリアと経験を積んだ実力派。不器用な工学部生のウノ(ク・ギョファン)と厳しい現実の中で建築家を目指すジョンウォン(ムン・ガヨン)の10年以上にわたるストーリーは、大人なら誰しも心のどこかがチクりとするのではないか、誰かの顔を思い出すのではないかと思わせる、しみじみと素敵な作品でした。オトナミューズウェブは来日タイミングでク・ギョファンさんご本人にお話を聞かせていただけました。生のク・ギョファンさん、聡明さがバシバシ伝わる、本当に素敵な方でしたよ! 聞き手は映画ライターのよしひろまさみちさんです。
『サヨナラの引力』
story ウノ(ク・ギョファン)とジョンウォン(ムン・ガヨン)は長距離バスの中で出会い、おたがいに惹かれ合う。共に地方からソウルの上京生活を支え、愛し合うが、現実の厳しさから別離を選ぶ。10年後、偶然に飛行機で再会した2人は、若かった自分を省みることに。
監督:キム・ドヨン/出演:ク・ギョファン、ムン・ガヨン ほか 配給:日活/KDDI 公開:7月3日より、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
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――この作品との出会い、出演の決め手はなんでしたか?
ク・ギョファン キム・ドヨン監督のディレクションを受けてみたい、そして共演のムン・ガヨンさんと一緒に仕事してみたいと思ったのが第一です。監督は俳優としても素晴らしく、韓国では伝説的な存在ですしね。キム監督は俳優から監督に転身されたので、俳優としてどのようにこの物語に対峙し、ストーリーテリングの魅力をどう考えていらっしゃるのか、ということを学び取りたい、と考えていました。実際現場に入ってみると、僕たち俳優がフレームの中で自由に動き回ることができるようにサポートしてくれたんですよね。あらかじめコンテで決められた導線があったとしても、現場では俳優の感情に合わせて意見を取り入れてくださいましたし、俳優の先輩としていろいろなアイデアもくださったんです。また、セリフも台本どおりではなく、撮影の直前に話し合って、そのシーンの感情を優先して変えることもありました。
――これまでかなり個性強めのキャラクターを演じてこられましたが、ウノはだいぶ印象が違いますよね。この役に挑んだことで新しい発見や試行錯誤はありましたか?
ク・ギョファン この映画は正統派のラブロマンスですよね。僕がこれまで取り組んできた作品は、どこかでもめごとが起きたりするものなんですが、これは最初から最後まで愛について語っています。そういうのは本当に初めてだったので、キャラクターに向き合うことから始めました。これまでの役でも愛を注ぎ込む努力はしてきたんですが、それとは全くアプローチが違い、ひたすら深く愛という感情に向き合わないとできない役ですから。それで、彼が映画のストーリー以前にどういう初恋をしてきたんだろう、ということを思い浮かべました。じつはこれはウノに限ったことではなく、いつもやっていることではありまして……『新感染半島 ファイナル・ステージ』(20)で演じたソ大尉のときも、同じようなことを考えていたんですよ(笑)。
――この作品では、大学生から10年以上の長い時間経過がありますよね。初恋のみならず、学生時代にあったことや仕事を始めたばかりのころとか、ご自身と重ねることもあったのでは?
ク・ギョファン 僕もウノも、ものを作る立場にありますよね。僕は映画、ウノはゲームディレクターなので、何かを作り出すときに、共通する思いみたいなものはあると感じていました。たとえば、作りたいものに向かってあきらめないこととか。また、ウノは自分が作ったゲームで遊んでいるユーザーを初めて見る瞬間がおそらくあったはずですが、それってすごく貴重なときなんですよ。僕も初めて携わった映画を観てくださった方にお会いしたときに、「楽しかったです」と言われたことがあるんですが、今でも忘れることができませんから。
――ウノから影響を受けたことは?
ク・ギョファン ウノは自分の仕事に対するビジョンに信念があり、作ろうとする作品に対して愛情を持って取り組み、決してあきらめません。しかも、彼が作るのはゲーム。ゲームはユーザーを喜ばせるためにあるものですが、彼はそのように作るのではなく、まずは自分が好きなもの、その魅力をユーザーにアピールして好きになってもらおうとするクリエイターです。そういう姿は、俳優としての僕にも影響を与えてます。僕も自分の好きな映画、芝居を通して、皆さんに好きになっていただければいいな、と思いますから。
――俳優だけでなく製作にも着手されたり、ものすごくコンスタントにお仕事をされてますけど、お仕事のスイッチの切り替えは?
ク・ギョファン とくにないんですよね。新しい作品に入るということは、監督のアイデアや演出を原動力にしているんです。監督さんごとにその方の世界観が全く違いますし、そこに飛び込んでいくのが俳優の務め。なので、毎日毎日、作品が違ったとしても、監督の世界に遊びに行くような感覚で取り組んでいます。
――ところで、5月に開催された第79回カンヌ国際映画祭でヨン・サンホ監督の最新作『群体』の上映のためにカンヌに行かれましたよね。これが初めて?
ク・ギョファン 初めてです。しかも、『新感染半島〜』もカンヌのセレクションに入っていたけど、あのときはコロナ禍で行くことがかなわなかったので、2回目の招待でようやく! といった気持ちがありました。
――念願のカンヌ、行ってみていかがでした?
ク・ギョファン 街全体が映画を祝福してくれている雰囲気で、街そのものが映画、と感じました。すごい場所ですね。
――フリータイムはありましたか?
ク・ギョファン 『群体』はミッドナイトスクリーニング(ソワレの後に行われる公式上映。ファンタスティック映画ではよくこの手法がとられます)だったので、意外と時間があったんですよ。なので、街歩きができましたし、買いものもできましたし、おいしいものもたくさんいただけました。じつは僕は仕事で見知らぬ街に行くと、必ずやってることがあるんですよ。
――え、それは?
ク・ギョファン 朝、ゆっくりとその街をランするんです。1キロあたり7分半くらいのペースで、だいたい5キロくらい。
――街歩きのレベルじゃない……(笑)。
ク・ギョファン それを午前中ゆっくりとやるんです。カンヌでは海辺で風にあたりながら走ったんですが、本当に気持ちよかったですね。
――映画祭期間中のカンヌは、映画好きの人たちばかりがいますけど、バレませんでした?
ク・ギョファン なかったかな? あ、走っているときじゃないんですが、印象的なことがありました。ミッドナイトスクリーニングの後、深夜歩いているときに『群体』をご覧になった方が声をかけてきて、「もしかして『群体』のソ・ヨンチョルさんじゃないですか?」って聞かれたんですよ。俳優として出演した作品の役名で呼ばれるのは本当に光栄なことなので、めちゃくちゃ嬉しかったですね。
Interview&Text_MASAMICHI YOSHIHIRO
Photograph_KAZUYUKI EBISAWA[MAKIURA OFFICE]

