
■人間には「愛すべきダメさ」が必要
――今回演じるのは、一度ヒットを飛ばしたものの、スランプにおちいっているシンガーソングライターです。人物像について鈴木おさむさんと話されたことはありますか?
【田中圭】実はまだ全然話していないんです。でも設定を聞いたときに印象的だったのは、「ラブソングが書けない」という部分です。
僕はラブソングって恋人同士の愛だけじゃないと思っていて。友達への愛もあるし、家族への愛もあるし、ペットへの愛もあるし、自分自身への愛もある。愛の形っていろいろあるじゃないですか。だからラブソングが書けないということは、単純に恋愛感情がないという話ではない気がするんです。
――どういう人物だと想像していますか?
【田中圭】もともと彼はヒットを経験していて、自分の紡いだ言葉や歌で多くの人の共感を得ていたわけですよね。ということは、人に伝えたい感情や愛情みたいなものは持っているはずです。
それでも書けなくなったということは、自分をさらけ出すことに対する恐怖がどこかで生まれてしまったんじゃないかなと思うんです。全部出し切って、それが受け入れられなかったらどうしようとか、否定されたらどうしようとか…。自分の心の中にある、最後の砦みたいなものを守っている人なのかなって。自信がないからこそ、本当に大事な部分だけは見せられない。そんな人なのかなと想像しています。
――これまでの鈴木おさむ作品での田中さんは、夢を追いながらもなかなか報われない人物を演じることが多かった印象があります。
【田中圭】そうなんです。僕、おさむさんの作品では売れない人を演じることが多かったんです。夢を追っているけれど報われないとか、夢をあきらめるとか。今回は一回は売れているので、そこは役として成長したのかなと思っています(笑)。

――ちなみに、ダメな人物を演じることに抵抗はありますか?
【田中圭】全然ないです。というか、僕は基本的に人間はダメでもいいし、ダメな部分があるからこその人間だと考えているんです。極端な話ですけど、人間が完璧だったら戦争なんて起きないじゃないですか。人類の歴史上、ずっと争い続けてきているわけで。
そこにはいろいろな理由があるけれど、結局は人間にダメな部分があるからだと思うんです。もし人間が完璧なら、ロボットと同じになってしまいますからね。

――人間らしさは欠点も含めて、ということでしょうか。
【田中圭】そうですね。今はAIもどんどん発達していて、スマホで何でも調べられるし、会話もできるし、本当に便利ですよね。
便利になればなるほど、人間のダメな部分はAIと比較されて際立っていく気がするんです。何十年後、何百年後にはもっとそうなるかもしれない。でも僕は、人間はダメでいいと思っていますし、完璧だったらつまらないんじゃないかなと。
――だからこそ、ダメな役にも共感できる?
【田中圭】むしろダメな人のほうが好きだったりします。もちろん人を傷つけたり、不快にさせたりするのはよくないですけど。でも、愛すべきダメさってあるじゃないですか。そこはすごく大事ですし、その人なりの魅力や人間味は必要だと思います。
逆に欠点がなかったら、その人のオリジナリティって何だろうと思うんですよ。AIに「君の個性は何?」と聞くようなものになってしまう気がする。だからダメな役を演じることに抵抗はないですし、むしろ完璧な人間を演じるほうが難しいです。完璧な人を演じるときほど、「どんな瞬間に人間らしさを出そうかな」と悩みますね。

■自分自身や役者という仕事と向き合う大切な期間
――この1年間の経験を役作りに活かそうという気持ちはありますか?
【田中圭】全く考えていないです。もちろん意識していなくても、自分の中に蓄積されたものが自然と出てくることはあると思います。
でも、「この1年を役に活かさなきゃいけない」とは思っていないですね。ただ、今までだったらできなかった経験や時間の使い方をした1年だったことは間違いないので、それが自分にどう影響しているのかはやってみないとわからないです。
――役者業から少し距離を置いた期間でしたが、だからこそやっぱり芝居が好きだと思った瞬間はありましたか?
【田中圭】友人の舞台を観に行くと、やっぱりいいなと思いました。自分が芝居と触れ合っていなかった分、羨ましい気持ちになりました。でも、芝居と少し距離を置いたからこそ、できた経験もありましたね。暗い気持ちになることもありましたけど、新たな自分を見つけられる期間にもなったと思います。
――アニメをたくさん観ていたという話も聞きました。
【田中圭】子どもたちが観ているアニメを一緒に鑑賞しているうちに、いつのまにか自分がハマっていました(笑)。結局、自分が先に完走しちゃったりもして。一番ハマったのは、『僕のヒーローアカデミア』。感動するシーンも多くて、感情移入することが多かったです。

――久々の出演作品が映像ではなく舞台になったことについて、感想はありますか?
【田中圭】すごくいい環境だと感じています。おさむさんの作品で、相手が矢崎(矢崎広さん)で、僕をよく知っている仲の二人と共演できることは、ラッキーだなと。舞台ってすごく濃密な空間ですし、自分自身や役者という仕事と向き合う期間としては本当に大切な3カ月になると思っています。だから素直にうれしいです。
――当初は一人芝居という案もあったそうですね。
【田中圭】それは即断りました(笑)。僕はそもそも、芝居って相手がいて生まれるものだと思っているんです。掛け合いの中で生まれるものが芝居だという感覚があるので。
一人芝居を否定するわけではないですけど、自分の中では少し違うんですよね。バカリズムさんのような、映像付きのコントのようなものだったらまた違うかもしれないですけど、やっぱり芝居は掛け合いがあってこそだという認識なんです。だから久々の芝居が、今回のような二人芝居というシンプルな形に決まったことには、しっくりきています。

――最後に舞台を楽しみにしている方へメッセージをお願いします。
【田中圭】4度目のおさむさんとの舞台で、矢崎との二人芝居、そして平井大さんの音楽という、本当に贅沢な環境でお芝居をさせていただきます。
久しぶりに芝居をしますし、これから作っていく部分がたくさんありますが、来てくださった方に満足していただける作品にしたいと思っています。特別な空間になるように仕上げていきますので、ぜひ劇場で楽しんでいただけたらうれしいです。

撮影=八木英里奈
取材・文=イワイユウ
ヘアメイク=大橋覚(VANESSA+embrasse)
スタイリスト=荒木大輔(Araki Daisuke)
衣装協力=パンツ 4万4000円(サバイ/イボルブ 03-6823-5074)、その他スタイリスト私物
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