誰かを待つ時間、その人が来たときの第一声を考えたり、そのあとの時間に思いを馳せたり、あるいはメールチェック、SNS、携帯ゲームなど、過ごし方はさまざま。
DJ、作詞、音楽演出など幅広い活動をしているカワムラユキさんに、そんな「待つ時間」をテーマにして選曲&言葉を綴っていただきます。
君は雨の記憶を抱いたまま、淡い眠りについている
夜へと帰り忘れた光は濡れた地表に沈み、空は何事もなかったように深く澄み渡る
街の汚れは洗われたのではなく、ひとつ古い皮膚を脱ぎ捨てて、上手に化粧を施しただけなのに
歌は風の在り方を目指して、稲妻でかき消された哀しみに寄り添う
それは君が生まれた時から手にした静かな衝動
胸の奥で眠っていた野性が音もなく目を開く
僕は生きるために走るのではない
走り続けることでしか、自分が何者でもないことを受け入れられない
夜は立ち止まったら死んでしまう人たちを優しく抱きしめて、その先のストーリーの気配だけを毛布のように肩にかける
濡れた硝子には君の姿は映らない
映るのは過ぎ去った季節でも、これから訪れる時間でもなく、その狭間に浮遊する義務や権利という類の何か
この街は既に巨大な夢の化石
スクランブル交差点から見える景色は図鑑の中を彷徨うようで、その表面を君と僕は今夜も忍び足で歩いている
誰かが持ち合わせた傷も歓びも孤独も、等しい振幅で震えるひとつのリズム
雨が去っても世界は透明にはならずに、透明に見えるものほど、多くの記憶を溶かし込んでいる
誰かを愛した記憶も、失った季節も、もう戻らない時間も、その色のなかで静かに混ざり合う
雨上がりとは空が晴れることではない
世界の傷口が一瞬だけ美しく見える時間のこと

忌野清志郎&仲井戸麗市『GLAD ALL OVER』(1994年、EMIミュージック・ジャパン)収録

