聴神経腫瘍は、内耳と脳をつなぐ聴神経を包む細胞が異常に増殖してできる良性の腫瘍です。バランス感覚を司る前庭神経から発生することが多く、神経への圧迫が情報の伝達を乱すことでめまいが生じます。回転性めまいと浮動性めまいそれぞれの特徴や、腫瘍が成長する過程で症状がどのように変化するかについて解説します。

監修医師:
大津 和弥(医師)
三重大学医学部卒業。三重大学附属病院で研修。市立四日市病院、三重大学附属病院などに勤務後、国立がんセンター東病院研修。三重大学附属病院 耳鼻咽喉・頭頸部外科 講師を務め、小松病院で一色信彦、田邊正博の音声外科医師の指導の下音声外科手術を研鑽。市立ひらかた病院耳鼻咽喉科部長、市立ひらかた病院耳鼻咽喉科主任部長、音声外科センター長などを歴任。大阪医科薬科大学臨床教授。現在は大津耳鼻咽喉科・ボイスクリニック 院長。
聴神経腫瘍と回転性めまいの関係①:メカニズムと発症の仕組み
このセクションでは、聴神経腫瘍がどのようにして回転性めまいを引き起こすのか、その基本的な仕組みについて解説します。聴神経腫瘍とめまいの関係を理解することは、症状を正しく判断するための第一歩です。
聴神経腫瘍とはどのような病気か
聴神経腫瘍とは、内耳(ないじ)と脳をつなぐ『聴神経(第VIII脳神経)』を包んでいる『鞘(さや)』の役割をする細胞(シュワン細胞)が異常に増殖してできる良性の腫瘍です。正式には「前庭神経鞘腫(ぜんていしんけいしょうしゅ)」または「聴神経鞘腫(ちょうしんけいしょうしゅ)」とも呼ばれます。良性腫瘍であるため、がんのように他の臓器へ転移することはありません。しかし、頭蓋骨に囲まれた限られた空間の中で腫瘍が大きくなると、周囲の脳(脳幹や小脳)を圧迫し、重大な後遺症や、まれに命に関わる状態を引き起こすことがあるため、適切なタイミングでの治療が重要です。
聴神経は大きく分けて「蝸牛神経(かぎゅうしんけい)」と「前庭神経(ぜんていしんけい)」の2つで構成されています。蝸牛神経は音を感知して脳に伝える役割を担い、前庭神経はからだのバランスや頭の位置の感覚を脳に伝える役割を担っています。聴神経腫瘍の多くは、バランス感覚を司る前庭神経の鞘から発生するため、発症当初からバランス感覚に関わる症状が現れやすい傾向があります。
発症頻度は10万人あたり1〜2人程度とされており、比較的まれな病気です。しかし、近年は脳ドックやMRI検査の普及により、症状が出る前に早期発見されるケースが増えています。年齢的には40〜60代に多く見られる傾向があり、男女差はあまりないとされています。ほとんどの場合は片側だけに発生しますが、「神経線維腫症2型」という遺伝的疾患を持つ方では両側に発生することもあります。
前庭神経が障害されるとなぜめまいが起きるのか
前庭神経は、内耳にある「前庭器官(ぜんていきかん)」からの情報を脳幹(のうかん)へ伝達する重要な神経です。前庭器官は、頭の傾きや回転、加速などを感知するセンサーの役割を持っており、目や筋肉・関節からの情報と合わさって脳がバランスを保つための指令を出す仕組みになっています。
聴神経腫瘍が前庭神経を圧迫すると、この情報の伝達が正常に行われなくなります。脳は左右の前庭神経から送られる情報を常に比較していますが、腫瘍によって片側の信号が乱れると、左右のバランスが崩れた状態として認識されます。この状態がめまいとして自覚されるのです。
また、腫瘍が徐々に大きくなる過程では、前庭神経への圧迫が段階的に進みます。そのため、初期段階では軽い浮遊感や不安定感程度だったものが、腫瘍の成長とともに強いめまいへと変化することがあります。一方で、腫瘍がゆっくり成長する場合は脳が障害に「順応(じゅんのう)」してしまい、めまいがそれほど強くならないケースも見られます。
回転性めまいと浮動性めまいの違い
めまいには大きく分けて「回転性めまい」と「浮動性(ふどうせい)めまい」の2種類があります。回転性めまいとは、自分や周囲がグルグルと回っているように感じるめまいで、ジェットコースターから降りた後のような感覚をイメージすると理解しやすいでしょう。浮動性めまいは、ふわふわと地に足がついていないような感覚や、船の上にいるような揺れを感じる状態です。
聴神経腫瘍に関連するめまいは、どちらのタイプでも起こる可能性があります。腫瘍の発生初期や急激な変化が起きたときは回転性めまいが現れやすく、慢性的に腫瘍が圧迫している状態では浮動性めまいや軽い不安定感として現れるケースが少なくありません。症状の種類だけで病気の判断はできませんが、片側の耳鳴りや難聴を伴うめまいが続く場合は、専門機関への受診が推奨されます。
まとめ
聴神経腫瘍は、耳鳴りや片側の難聴、めまいといった日常的な症状のなかに潜んでいることがあります。良性腫瘍ではありますが、発見が遅れると治療の選択肢が限られることもあるため、症状が続く場合は早めに耳鼻咽喉科や神経内科へ相談することが大切です。治療法には経過観察・放射線治療・手術の3種類があり、いずれも基本的に保険診療の範囲で対応できます。また、高額療養費制度など公的支援を活用することで、費用面の不安も軽減できます。まずは専門機関への受診を検討してみてください。
参考文献
国立がん研究センターがん情報サービス「脳腫瘍(成人)」
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「耳の病気」
難病情報センター「神経線維腫症Ⅱ型(指定難病34)」
厚生労働省「34 神経線維腫症 」
- 「聴力検査の数値」はどこから難聴なのかご存じですか?生活への影響も医師が解説!
──────────── - 「聴力検査」の結果の見方・高音や低温が聞こえない原因はご存知ですか?
──────────── - 真野恵里菜が過去の突発性難聴を告白。理解されにくい“きこえの問題”と身近に潜む耳の病気
────────────

