「『殺せ』と叫ぶ人と議論できますか?」 クルドから在日コリアンまで……差別と闘う神原元弁護士の問い

「『殺せ』と叫ぶ人と議論できますか?」 クルドから在日コリアンまで……差別と闘う神原元弁護士の問い

●「表現の自由」と差別

「戦前の日本は治安維持法でおかしな方向に進み、戦争に突き進みました。その反省から、憲法学者の芦部信喜は『表現の自由はもっとも大事な権利』と説いたのです。

それは正しいことですが、憲法学には差別の問題が抜け落ちています。にもかかわらず『表現の自由』を金科玉条にする弁護士や学者が多かったと感じます。

討論すればいいと言いますが、民族名をあげて『殺せ、殺せ』と叫んでいる人たちと、どんな議論が成立するのでしょうか」

ヘイトスピーチの実態が知られることで、少しずつ変わってはきたものの「表現の自由があるのだから、互いによく話し合うべき」という法学者は少なくないという。

●クルド人差別は「官製ヘイトである」

これまで標的とされたのは在日コリアンの人たちだったが、2023年の入管法改正審議によってヘイトの矛先はクルド人にも向けられた。参院選でも差別的言説が利用され、彼らの日常生活が脅かされている。

「在日韓国・朝鮮の人たちは植民地支配の末裔で、その差別問題には植民地支配の総括が必要です。一方、クルドの人たちは1990年代から少しずつ来日し、2023年まで問題なく暮らしていました。それが入管法審議を機にヘイトスピーチが広がりました」

在日韓国・朝鮮人とクルド人は背景が異なるため、単純な比較はできないものの、1ついえるのは「クルド人差別も、在日コリアンの問題と同じく官製ヘイトの側面が強いことだ」と神原弁護士はいう。

「2025年5月に法務大臣が『国民の安全・安心のための不法滞在者ゼロプラン』を公表しましたが、国民の安心・安全と非正規滞在者に関係はありません。

外国人の存在によって犯罪率が上がった事実もないのに、関連があるかのように打ち出され、ネットを中心に排外主義を掲げる極右政党が躍進しました。

今、クルドの人たちへの差別は、ヘイトスピーチからヘイトクライムへ、暴力に発展しかねない状況になっています」

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