相次ぐクマの出没・・・いったい何が起きている?原因と対策を専門家に聞きました

相次ぐクマの出没・・・いったい何が起きている?原因と対策を専門家に聞きました

食べる目的で人を襲うことはない

こういう話をすると、人を食べようとして襲うことはないのか聞かれますが、それはありません。人を襲う理由は、母グマが子グマを守ろうとして向かってくるとか、鉢合わせしてしまってパニックになって目の前の人をはたき倒してしまうとかです。個体差はあるにしても、基本的にクマが人を襲いかかるのは防御を目的にした攻撃です。

――鳥獣保護法が改正され、市町村の判断で特例的に市街地での猟銃の使用が認められる「緊急銃猟」制度が2025年9月から始まりました。
従来は住宅地ですと警察官の指示の下でしか発砲ができませんでした。県警と県庁の鳥獣担当が話し合って、情報交換をする県も増えてきてはいるのですが、警察官には野生動物の知識はないので、撃たせてくださいって市町村の人が地域の警察官にお願いしても判断できない。県警に聞いて判断して、返事が来るまでに時間がかかっている間にクマがどこかに行ったり、次の事故が起きたりすることがあったので、この時間が短縮するっていう意味では一歩前進だと思います。

説明:環境省の緊急銃猟ガイドラインで説明されている制度のポイント

ただ、これからは市町村の職員が判断をすることになるのですが、野生動物の専門知識をもっている人はほとんどいないのが現状です。野生動物管理の知識がないと、どのタイミングで撃つか、撃つことで次の被害が起きないかどうかというような判断はできない。さらに、そのクマを駆除しても次のクマが来るだけですから、都道府県レベルで野生動物管理に詳しい人材をきちんと雇用して各市町村と連携しながら総合的な対策を立てることが必要になってくると思います。

有効な解決策は

例えば島根県は、野生動物の専門職が正規職員として採用され、県内各地に出向いて、日頃からいろいろな対策を住民に伝えています。住民との距離が近いので適切かつ迅速に対応できます。秋田県にもツキノワグマ担当の県庁の職員が3人います。市町村が困っても、あの人に聞けばすぐ適切な対応を教えてくれるという関係が出来上がっているわけです。こういう対策が都道府県レベルでは大事です。
東京農工大では、2年前から試行的に社会人を対象にしたリカレント教育を始めました。野生動物の生態や被害対策を学ぶだけでなく、集落診断と言って集落の人と一緒に対策を考案したり、山に入って動物の痕跡を見つけたりする実習も組み合わせたカリキュラムになっています。
本当は自治体に専門職がいれば良いのですが、市町村レベルだとなかなか難しい。なので、担当になった市町村の職員の方に最低限の知識を身につけてもらうことを目指しています。

クマの正しい姿を知ろう

――クマが市街地に出没することで怖いと思う人もいますし、逆に駆除をすると抗議の電話が殺到するという事態にもなっています。一般の人にメッセージがありましたら教えて下さい。
出没が多発すると、クマなんていなくなってほしいって思うでしょうし、クマが身近じゃない都市の人はクマがかわいそうって思う人もいると思います。地域ギャップと意識ギャップが非常に大きい。ただ多くの人に共通するのは、ほとんどが正しいクマの姿を知らないってことなんですね。
これまでお話してきたように、クマが森から出てくるにはそれなりの理由があり、適切な対策をとることで被害が減る可能性が高まります。過度に恐れる必要はないけれども、かわいいだけの動物でもない。そのことを皆さんに知っていただきたいですね。

写真説明:クマの生態について解説してくれた小池伸介・東京農工大教授。「20年近く、自然の中でのクマの行動を調査していますが、一頭一頭個性が違います」と語る。

<防災ニッポン編集部> 館林牧子

配信元: 防災ニッポン