「ハムやソーセージに発がん性がある」という話を聞いて、不安を感じた方は少なくないかもしれません。この表現は国際がん研究機関(IARC)の評価に基づくものですが、「発がん性がある=危険」と単純には言い切れません。分類の意味や根拠を正しく理解することで、必要以上に心配せず、冷静に向き合うための視点を得られます。ここでは発がん性リスクの考え方について解説します。

監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。
加工肉(ハム・ソーセージ)の発がん性リスクとはどういうことか
「加工肉に発がん性がある」という話は、特定の国際機関が発表した評価によって広く知られるようになりました。しかし、「発がん性がある」とは具体的にどのような意味なのか、正確に理解している方は多くないかもしれません。そこでこのセクションでは、発がん性リスクの考え方と、加工肉がどのような根拠で分類されているのかを解説します。
世界保健機関(WHO)の国際がん研究機関による分類とは
世界保健機関(WHO)の下部組織である国際がん研究機関(IARC)は、2015年にさまざまな物質や食品について発がん性を評価した報告を公表しました。この報告のなかで、加工肉は「グループ1(ヒトに対して発がん性がある)」に分類されています。
この「グループ1」という分類を聞くと、「加工肉はタバコと同じくらい危険なのか」と感じる方もいるかもしれません。しかし、こうしたIARCの分類は発がん性の強さを示すものではなく、「発がん性があることを示す科学的根拠がどの程度確立しているか」を示すものです。
したがって、「同じグループ1に分類されているから、加工肉と喫煙のリスクが同程度である」ことを意味するわけではありません。例えば、喫煙は多くのがんの主要な危険因子として知られていますが、加工肉については主に大腸がんとの関連が報告されています。発がん性の証拠の確かさと、実際のリスクの大きさは区別して考える必要があります。
IARCの評価では、加工肉を1日あたり50g摂取した場合、大腸がんのリスクが約18%上昇すると報告されています。ただし、この数値は「相対リスク」であり、もともとの発症リスクに対する増加率を示したものです。そのため、数字だけを見て過度に不安になるのではなく、年齢や生活習慣なども含めて総合的に捉えることが重要です。
一方、約8万人の日本人を約10年間追跡した研究では、「加工肉(ハム・ソーセージなど)の摂取は、日本人の一般的なレベルであれば大腸がんのリスク上昇とは関連しない」と報告されています。これは、日本人の加工肉摂取量が 1人あたり1日約13g(赤肉と合わせて約63g) と、欧米諸国と比較して大幅に少ないためと考えられています。
また、大腸がんの発症には加工肉だけでなく、喫煙や飲酒、運動不足、肥満、食物繊維の摂取不足など複数の要因が関与すると考えられています。加工肉はあくまでも数あるリスク要因の一つとして位置付けられており、食生活全体のバランスを意識することが大切です。
なぜ加工肉が大腸がんと関連するとされているのか
加工肉と大腸がんとの関連が指摘される背景には、いくつかのメカニズムが考えられています。ただし、どの要因がどの程度影響しているのかについては現在も研究が続けられています。
まず挙げられるのが、「N-ニトロソ化合物」と呼ばれる物質です。加工肉には保存性や色調を保つために亜硝酸塩が使用されることがあり、これらが体内で反応することでN-ニトロソ化合物が生成される可能性があるとされています。一部のN-ニトロソ化合物については、動物実験などで発がん性との関連が報告されています。
次に、加工肉や赤身肉に含まれる「ヘム鉄」の影響です。ヘム鉄は効率よく吸収される鉄分として知られていますが、一方で腸内において酸化反応を促進し、細胞へ影響を与える可能性が指摘されています。その結果、大腸の粘膜環境に影響を及ぼす可能性があると考えられています。
さらに、調理方法も重要な要素です。肉を高温で焼いたり焦がしたりすると、発がん性が疑われるヘテロサイクリックやアミンなどの物質が生成されることがあります。これらは加工肉に限らず、肉や魚を高温調理した際にも発生する可能性があり、発がん性との関連について研究が行われています。
加えて近年では、腸内細菌叢(腸内フローラ)との関係も注目されています。食生活の内容によって腸内環境は変化するため、加工肉の摂取量や野菜・食物繊維の摂取量が、大腸の健康に影響を与える可能性があると考えられています。
このように、加工肉と大腸がんの関連には複数の要因が関与していると考えられており、一つの成分だけで説明できるものではありません。また、加工肉を食べたからといって直ちにがんになるわけではなく、摂取量や頻度、食生活全体のバランスが重要です。
実際には、野菜や果物、食物繊維を十分に摂取しながら、加工肉を適量にとどめることが現実的な対策と考えられています。過度に恐れるのではなく、正しい知識をもとに食生活を整えることが大切です。
まとめ
加工肉(ハム・ソーセージ)には発がん性リスクと関連する物質が含まれており、IARCによってグループ1に分類されていることは事実です。しかし、少量を時々食べる程度であれば過度に心配する必要はなく、大切なのは「食べ過ぎないこと」と「食べ方を工夫すること」です。添加物については、食品表示ラベルを活用して選ぶことで、摂取量を抑えることができます。また、身体にはもともと解毒の仕組みが備わっており、食事・運動・睡眠といった日常の生活習慣を整えることでサポートすることが可能です。加工肉に関して血便や便潜血陽性、排便習慣の変化、原因不明の体重減少、貧血などの症状がある方や、40歳以上で大腸がん検診を一度も受けたことがない、家族に大腸がんの既住がある方は消化器内科などの医療機関に相談されることをおすすめします。
参考文献
消費者庁「食品表示基準について」
国立がん研究センター「赤肉・加工肉のがんリスクについて」
国立がん研究センター「最新がん統計」
- 朝のコーヒーに大腸がんの予防効果? 「本当に大切な対策」を専門医が解説
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