眼圧は、日中だけでなく睡眠中にも変動しています。夜間や早朝にかけて上昇しやすいことが報告されており、通常の眼科外来では把握しにくい時間帯の変化が、視神経に影響を及ぼす可能性があります。また、緑内障は初期段階では自覚症状が現れにくく、視野が欠けていても本人が気づかないことも少なくありません。こうした特徴について詳しく解説します。

監修医師:
柳 靖雄(医師)
東京大学医学部卒業。その後、東京大学大学院修了、東京大学医学部眼科学教室講師、デューク・シンガポール国立大学医学部准教授、旭川医科大学眼科学教室教授を務める。現在は横浜市立大学視覚再生外科学教室客員教授、東京都葛飾区に位置する「お花茶屋眼科」院長、「DeepEyeVision株式会社」取締役。医学博士、日本眼科学会専門医。
うつぶせ寝と失明リスク|睡眠中の眼圧変動が視野を脅かす理由
眼圧は日中だけでなく睡眠中にも変動しており、その変化は眼の健康に影響を与える可能性があります。特に睡眠中は自覚症状がないため、眼圧の上昇に気付きにくいことが特徴です。このセクションでは、睡眠中の眼圧変動と視野障害との関係について解説します。
睡眠中に眼圧が上がりやすい理由
眼圧は常に一定ではなく、一日のなかで変動しています。睡眠・体位の変化や自律神経の影響により、夜間から早朝にかけて上昇しやすい傾向が報告されています。
人は立っている状態から横になると、頭部や眼の周囲の血流や静脈圧が変化します。その影響によって、眼圧も変動することがあります。実際に、立位と比較して仰向けの状態では眼圧が上昇することが報告されており、睡眠中は日中とは異なる環境に眼が置かれています。
さらに、うつぶせ寝では顔や眼の周囲が寝具に接触しやすくなります。眼球そのものへの圧迫や眼の周囲の血流変化が加わることで、眼圧が上昇しやすくなる可能性が指摘されています。
また、横向き寝でも下側になった眼の眼圧が上昇しやすいことが報告されており、睡眠姿勢と眼圧の関係は眼科領域で継続的に研究されています。そのため、睡眠中の姿勢は緑内障管理の観点からも注目されています。
睡眠中の眼圧変動が重要視される理由の一つは、通常の外来診療では把握しにくいことです。眼科で測定する眼圧は日中の限られた時間帯の値であるため、夜間や睡眠中にどの程度変動しているかまでは分からない場合があります。
そのため、日中の眼圧が正常範囲内であっても、睡眠中には眼圧が高くなっている可能性があります。特に緑内障の進行がみられるにもかかわらず日中の眼圧がそれほど高くないケースでは、睡眠中の眼圧変動が関与している可能性も検討されています。
さらに、睡眠時無呼吸症候群など睡眠に関連する疾患がある場合には、眼の血流や酸素供給に影響を及ぼす可能性も指摘されています。眼圧だけでなく、睡眠の質そのものも眼の健康に関わる重要な要素と考えられています。
視野が欠ける前に自覚しにくい理由
緑内障の大きな特徴の一つは、病気が進行するまで自覚症状が現れにくいことです。初期から中期の段階では、視野の一部が欠けていても本人が気付かないケースが少なくありません。
その理由として、人の視覚には両眼で視野を補い合う仕組みがあることが挙げられます。片方の眼で見えにくくなった部分があっても、もう片方の眼が自然に補うため、日常生活では異常を感じにくいのです。
また、視野障害は周辺部から徐々に進行することが多く、視力そのものは比較的保たれる場合があります。そのため、「よく見えているから大丈夫」と思っていても、実際には視野の一部が失われていることがあります。
視野の欠損が自覚できる段階になると、すでに視神経の障害がかなり進行している場合もあります。緑内障によって失われた視野を回復させる治療法は現在のところ確立されておらず、治療の目的は進行を抑えることにあります。しかし、早期に発見し適切な治療を継続することで、生涯にわたって良好な視野を維持できるケースも多いため、過度に悲観せず前向きに治療へ取り組むことが大切です。
このため、緑内障では早期発見と早期介入が非常に重要です。特に40歳を過ぎると緑内障の有病率が上昇するとされており、自覚症状がなくても定期的な眼科検診を受ける意義があります。
また、家族に緑内障の方がいる場合や、近視が強い方、眼圧が高めと指摘されたことがある方は、一般的に緑内障のリスクが高いとされています。こうした方は、睡眠姿勢を含めた生活習慣にも目を向けることが大切です。
うつぶせ寝が直ちに失明につながるわけではありません。しかし、眼圧上昇や視神経への負担が懸念される状況では、少しでもリスク要因を減らすことが望ましいと考えられています。睡眠姿勢の見直しは、そのために取り組みやすい生活習慣の一つといえるでしょう。
さらに、定期的な眼圧測定や視野検査、眼底検査を受けることで、自覚症状がない段階でも変化を捉えられる可能性があります。特に眼の病気が気になる方や緑内障のリスクがある方は、症状の有無にかかわらず眼科へ相談することをおすすめします。
まとめ
毎晩のうつぶせ寝は、眼圧を一時的に上昇させる可能性があり、とくに緑内障やそのリスクがある方では注意が必要です。失われた視野を回復させることは難しく、症状が現れる前の定期検診が重要です。首や脊椎、呼吸など全身への影響も踏まえると、うつぶせ寝を見直すことは幅広い健康上のメリットをもたらします。まずはできることから睡眠姿勢の改善に取り組み、定期的な眼科検診を習慣として取り入れていただければと思います。
本記事で述べている「うつぶせ寝による眼圧上昇」は、複数の研究で報告されている事実です。とくに緑内障の治療中の方や、眼圧が高め・家族歴がある方は、睡眠体位を含めた生活習慣の見直しを眼科医と相談することをおすすめします。一方で、うつぶせ寝をしているすべての方が失明するわけではなく、睡眠姿勢と緑内障の因果関係を直接示した大規模研究はまだ限られています。不安がある方は、症状の有無にかかわらず定期的な眼科検診を受けてください。
参考文献
日本眼科学会「緑内障診療ガイドライン(第5版)」
国立眼科研究所(NEI)「Glaucoma: What You Should Know」(参考)
- 「緑内障を発症しやすい人」とは? 医師が教える『特に注意』な人の特徴
──────────── - 【緑内障】日本人の多くは正常眼圧で発症している! どうやって気づき、いかに防ぐか
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