「症状」がないのに進行する“あの心臓病”の【原因】とは?

「症状」がないのに進行する“あの心臓病”の【原因】とは?

大動脈弁硬化症は、健康診断や心エコー検査(心臓超音波検査)で初めて指摘されることが多い疾患です。「症状がないのに異常と言われた」と戸惑う方もいるかもしれません。この記事では、なぜ大動脈弁が硬くなるのか、その仕組みと関連するリスク因子、検査で確認できる指標、そして日常生活でできる対策について、順を追って解説します。

本多 洋介

監修医師:
本多 洋介(Myクリニック本多内科医院)

群馬大学医学部卒業。その後、伊勢崎市民病院、群馬県立心臓血管センター、済生会横浜市東部病院で循環器内科医として経験を積む。現在は「Myクリニック本多内科医院」院長。日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会専門医、日本心血管インターベンション治療学会専門医。

大動脈弁硬化症の主な原因:加齢と動脈硬化のメカニズム

大動脈弁硬化症は、加齢とともに増加する心臓の疾患の一つです。健康診断や心エコー検査で初めて指摘されることも多く、「特に症状はないのに異常と言われた」と戸惑う方も少なくありません。もちろん、大動脈弁硬化症は単なる年齢変化として片付けてよいものではなく、進行すると大動脈弁狭窄症へ移行する可能性もあります。しかし、症状のない早期の段階で発見できたからこそ、余裕を持って適切な経過観察を始めることができるとも言えます。過度に心配しすぎず、まずは正しい知識を持つことが重要です。
近年では、大動脈弁硬化症は単なる“老化現象”ではなく、加齢に加えて動脈硬化や慢性的な炎症などが複雑に関与して進行する疾患であることが明らかになってきました。このセクションでは、大動脈弁硬化症が発症する仕組みについて、加齢による変化と動脈硬化との関係という2つの観点から詳しく解説します。

加齢による弁組織の変化

大動脈弁は、左心室から送り出された血液を大動脈へ流し、逆流を防ぐ重要な役割を担っています。通常、大動脈弁は3枚の弁尖(べんせん)から構成されており、心臓が拍動するたびに開閉を繰り返しています。

心臓は1日に約10万回、人生では数十億回以上拍動するといわれており、それに伴って大動脈弁も絶えず動き続けています。そのため、年齢を重ねるにつれて弁組織には少しずつ負担が蓄積し、組織の変性が進行していきます。

加齢による変化の一つが、弁組織を支えているコラーゲンやエラスチンといった構造タンパク質の劣化です。これらの成分は弁の柔軟性や弾力性を保つ役割を担っていますが、加齢とともに変性し、弁は徐々に厚く硬くなっていきます。

さらに、傷ついた弁組織にはカルシウムが沈着しやすくなります。カルシウムは本来骨を形成するために必要な成分ですが、加齢や慢性的な炎症によって弁組織にも蓄積することがあります。この現象を「石灰化」と呼びます。

石灰化が進行すると、弁は本来のしなやかさを失い、開閉の動きが制限されるようになります。この段階が大動脈弁硬化症です。初期には血液の流れに大きな影響を与えないことが多いものの、さらに石灰化が進むと弁の開きが悪くなり、大動脈弁狭窄症へと進展する可能性があります。

加齢との関連は非常に強く、65歳以上になると有病率が高くなることが知られています。また、75歳以上では軽度の弁硬化や石灰化が認められる方も珍しくありません。高齢化が進む現代では、今後さらに患者数の増加が予想される疾患の一つと考えられています。

一方で、加齢による変化は自覚症状を伴わないことがほとんどです。そのため、「息切れも胸痛もないから大丈夫」と考えていても、実際には弁の硬化が進行しているケースがあります。健康診断や循環器内科での心エコー検査によって偶然発見されることも多く、症状の有無にかかわらず定期的な評価を受けることが重要です。

動脈硬化が大動脈弁に与える影響

大動脈弁硬化症の発症には、加齢だけでなく動脈硬化の仕組みが深く関与していることがわかっています。

動脈硬化とは、血管の内側にコレステロールや炎症細胞が蓄積し、血管が厚く硬くなってしまう状態です。一般的には心筋梗塞や脳梗塞の原因として知られていますが、近年では大動脈弁の石灰化にも似たようなメカニズムが働いていることが明らかになっています。

大動脈弁は、全身へ送り出される強い血流を直接受ける部位です。そのため、弁尖の表面には常に機械的な負荷がかかっています。この負荷によって微細な損傷が生じると、血液中のLDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)が弁組織の内部へ入り込みやすくなります。

その結果、弁組織では慢性的な炎症反応が起こります。炎症が長期間続くと、組織の修復過程でカルシウムが沈着し、弁の石灰化が促進されます。つまり、大動脈弁硬化症は単にカルシウムが付着するだけではなく、「脂質の蓄積→炎症→石灰化」という動脈硬化に似た過程を経て進行していくのです。

このため、大動脈弁硬化症と動脈硬化性疾患には共通するリスク因子が数多く存在します。
代表的なものとしては、以下が挙げられます。

・高血圧
・脂質異常症
・糖尿病
・喫煙
・肥満
・慢性腎臓病
・運動不足

特に高血圧は、大動脈弁にかかる圧力を増加させるため、弁への機械的ストレスを強める要因になります。血圧が高い状態が長期間続くと、弁組織の損傷と修復が繰り返され、石灰化が進みやすくなると考えられています。

また、脂質異常症によってLDLコレステロールが高い状態が続くと、弁への脂質沈着が促進される可能性があります。糖尿病では慢性的な高血糖による炎症や血管障害が進行し、弁組織にも悪影響を及ぼすことが知られています。

こうした背景から、大動脈弁硬化症の予防や進行抑制を考える際には、弁そのものだけでなく全身の血管の健康を守ることが重要になります。血圧・血糖・コレステロール値を適切に管理し、禁煙や適度な運動、バランスの良い食生活を心がけることは、動脈硬化の予防だけでなく、大動脈弁硬化症の進行リスクを抑えることにもつながると考えられています。

まとめ

大動脈弁硬化症は加齢や動脈硬化、生活習慣病などを背景に、心臓の弁に石灰化が進む状態です。自覚症状が現れにくい段階から進行することが多いため、定期的な心エコー検査による経過観察が重要な意味を持ちます。最大血流速度などの基準値を把握して定期的な検査を受けるとともに、血圧・脂質・血糖を適切に管理して全身の血管の健康を保つことが、将来を見据えた大切な備えとなります。気になる症状や検査結果がある方は、ぜひ循環器内科への受診をご検討ください。

参考文献

日本循環器学会「弁膜症治療のガイドライン(2020年改訂版)」

国立循環器病研究センター「大動脈弁狭窄症について」 国立循環器病研究センター「心エコー検査とは」
配信元: Medical DOC

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