完全房室ブロックは、心房から心室への電気信号がまったく伝わらなくなる不整脈の一つです。心拍数が1分間に30〜50回程度まで低下し、めまいや失神といった症状が現れる場合があります。このセクションでは、心臓の電気伝導の仕組みや、房室ブロックが生じるメカニズム、そして発症につながる代表的な原因について、わかりやすく整理してお伝えします。

監修医師:
本多 洋介(Myクリニック本多内科医院)
群馬大学医学部卒業。その後、伊勢崎市民病院、群馬県立心臓血管センター、済生会横浜市東部病院で循環器内科医として経験を積む。現在は「Myクリニック本多内科医院」院長。日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会専門医、日本心血管インターベンション治療学会専門医。
完全房室ブロックとはどのような状態か
完全房室ブロックについて正しく理解するためには、まず心臓の電気信号の仕組みを把握しておくことが重要です。心臓は自ら電気信号を発生させ、その信号によって規則正しく拍動しています。しかし、この電気信号の伝達経路に障害が生じると、脈が極端に遅くなったり、めまいや失神などの症状が現れたりすることがあります。ここでは、完全房室ブロックの仕組みや原因について詳しく解説します。
心臓の電気信号と房室ブロックの仕組み
心臓は、全身へ血液を送り出すポンプとして24時間休むことなく働いています。この規則正しい拍動を生み出しているのが、心臓内部を流れる電気信号です。通常、電気信号は右心房にある「洞結節(どうけっせつ)」で発生し、心房全体へ広がった後、「房室結節(ぼうしつけっせつ)」を経由して心室へ伝わります。この一連の流れによって、心房と心室は効率よく連動しながら血液を循環させています。
房室結節は、心房と心室をつなぐ重要な中継地点です。ここで電気信号が適切なタイミングで伝えられることで、心室は十分な血液を受け取ってから収縮することができます。しかし、この伝導経路に障害が生じると、心房から心室への信号伝達がうまく行われなくなります。この状態を「房室ブロック」と呼びます。
房室ブロックは障害の程度によって1度、2度、3度(完全房室ブロック)に分類されます。1度房室ブロックは信号が遅れて伝わる状態で、自覚症状がないことも少なくありません。2度房室ブロックでは一部の信号が心室へ届かなくなり、脈が飛ぶ感覚や動悸を自覚する場合があります。
一方、完全房室ブロックでは、心房で発生した電気信号が心室へまったく伝わらなくなります。その結果、心房と心室は別々のリズムで動く状態となり、心室は自ら発生させる補充調律によって拍動を維持しようとします。しかし、この補充調律は通常よりも遅く、心拍数が1分間に30〜50回程度まで低下することがあり、補充調律の出どころによっては1分回に20回程度の心拍数になることもあります。
心拍数が著しく低下すると、脳や全身へ十分な血液が送られなくなり、めまい、ふらつき、息切れ、疲労感などの症状が現れます。重症の場合には失神発作(アダムス・ストークス発作)を起こし、転倒や事故につながる危険性もあります。完全房室ブロックは単なる脈の異常ではなく、生命に関わる不整脈の一つとして適切な診断と治療が求められる病態です。
完全房室ブロックの主な原因
完全房室ブロックは、生まれつき発症する先天性のものと、加齢や疾患によって生じる後天性のものに大きく分けられます。実際には後天性のケースが多く、中高年以降に健康診断や症状をきっかけに発見されることも少なくありません。
後天性の原因として代表的なのが、心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患です。心臓へ血液を送る冠動脈の血流が低下すると、房室結節やその周辺組織にも十分な酸素が届かなくなり、電気信号を伝える機能が障害されることがあります。特に下壁心筋梗塞では房室ブロックを合併するケースが知られています。
また、加齢による伝導系の変性も重要な原因です。年齢を重ねるにつれて、電気信号を伝える組織に線維化や変性が起こりやすくなります。このような変化は徐々に進行するため、自覚症状がないまま完全房室ブロックへ移行する場合もあります。
さらに、心筋炎や心筋症、心臓弁膜症などの心疾患も原因となります。炎症や心筋の障害によって伝導路が損傷されると、電気信号が正常に流れなくなる可能性があります。加えて、サルコイドーシスやアミロイドーシスなどの全身性疾患が心臓へ影響を及ぼし、房室ブロックを引き起こすこともあります。
薬剤の影響にも注意が必要です。β遮断薬やカルシウム拮抗薬、ジギタリス製剤などは心拍数を抑える作用を持つため、もともと伝導障害がある方では房室ブロックを悪化させる場合があります。服用中に脈の異常やめまいを感じた場合は、自己判断で中止せず主治医へ相談することが大切です。
一方、先天性完全房室ブロックは比較的まれですが、母親が自己免疫疾患を有している場合にみられることがあります。特に抗SS-A抗体や抗SS-B抗体が胎盤を通じて胎児へ移行し、房室結節に障害を与えることで発症すると考えられています。出生時から徐脈が認められるケースもあり、経過によってはペースメーカー治療が必要になることがあります。
完全房室ブロックは原因によって治療方針が異なるため、原因疾患の有無を詳しく調べることが重要です。心電図検査だけでなく、心エコー検査や血液検査、場合によってはCTやMRIなどを組み合わせながら評価が行われます。脈が遅い、めまいが続く、失神したことがあるといった症状がみられる場合は、早めに循環器内科を受診して原因を確認することが大切です。
まとめ
完全房室ブロックは、心臓の電気信号が心室に伝わらなくなることで、徐脈・倦怠感・失神・めまいといったさまざまな症状を引き起こす不整脈です。前兆となる脈の乱れや前失神の段階で気づくことができれば、早期の介入につながります。症状が気になる方は、循環器内科での心電図検査を早めに受けることが大切です。ペースメーカー治療によって多くの方が症状の改善と生活の質の向上を実感しており、適切な治療と定期的なフォローアップが心臓の健康を守ります。
参考文献
日本循環器学会「不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版)」
国立循環器病研究センター「不整脈」
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