自分だけの時間
気づいた時には、「しばらくお休みをください」と書き置きを残し、家を飛び出していました。
向かった先は、結婚前に夫と訪れた温泉地。
あの頃から、この人の家族ごと、一生大切にしていこう、と心から思っていました。
けれど、長年積み重なった疲れが、私を追い詰めていたのだと思います。
温泉に浸かり、誰にも気を遣わず、ただ眠る。
そんな自分だけの時間が癒しとなり、心の奥に染み渡りました。
「このまま帰らず、ひとりで生きていけたらどんなに楽だろう」
そんな考えが頭をかすめました。
でも――。
やっぱり、私は母であり、妻であり、あの家の嫁。
どうあがいたって、家族が大好きなのです。
やっぱり、家に帰ることに
3日後、私は家に戻りました。
怒られるのを覚悟していましたが、家族は「おかえり」と喜んで出迎えてくれました。
その晩、夫に晩酌に誘われました。
「本当は、B子に全部押しつけてきたって、気づいてた。なのに、見て見ぬふりをしていた。ごめん。後悔している」
すまなそうに頭を下げる夫を見て、胸がじんとしました。
「これから先、もし親の介護が必要になっても、今までみたいにはしない。施設やサービスにも頼るし、両親の貯金もあるから、金銭的な心配もいらないよ」
夫の言葉は意外でした。
謝罪の念はあっても、てっきり、悪かったという言葉や、その場しのぎのプレゼントで終わらせられると思っていました。
今回のことで、夫なりに、これまでのことと、これからのことをきちんと考えてくれたのでしょう。
そのことが、私には嬉しかったのです。

