
【ストーリー】
圧倒的な歌唱力と革新的なダンスパフォーマンスで、アーティストの枠を超え、全世界的なアイコンとなった“キング・オブ・ポップ”=マイケル・ジャクソン。
彼は幼いころから兄弟と共に歌い続けていた。製鉄所で働く父・ジョセフ(コールマン・ドミンゴ)は野心家で、「人生は勝つか負けるかだ」と言い放ち、息子たちに厳しいレッスンを課し、兄弟グループ“ジャクソン5”としてデビューさせた。
彼らを見た聴衆は誰しもマイケルの圧倒的な歌声に酔いしれ、評判が広まったことでジャクソン5の人気は急上昇。そんな彼らはモータウン・レコードと契約し、スターダムを駆け上がっていく。
そんな中、幼い少年のマイケル(ジュリアーノ・ヴァルディ)は、孤独と重圧に打ちひしがれそうになる。子どもらしい暮らしができないマイケルを、唯一無条件の愛で支え続けたのは母・キャサリン(ニア・ロング)だった。
やがて青年となったマイケル(ジャファー・ジャクソン)は、音楽史にその名を刻む名プロデューサー、クインシー・ジョーンズ(ケンドリック・サンプソン)との出会いによって、グループの枠を超え、ソロアーティストとして前人未踏の音楽的創造性を爆発させていく。
『オフ・ザ・ウォール』『スリラー』という歴史的メガヒットアルバムと名曲の数々を生み出し、全世界の寵児となっていくマイケル。
しかし、その栄光の裏には、早熟の天才ゆえの孤独感、強権的な父親の呪縛、家族への愛と自分の中に溢れるビジョンとの間で葛藤する一人の人間の姿があった…。

■マイケルを演じた二人の俳優の完璧なパフォーマンスに圧倒される!
人類史上最も売れたアルバム『スリラー』を生み出し、全世界で10億枚を超えるレコード売上、13のグラミー賞、30を超えるギネス世界記録を打ち出す。そしてムーンウォークをはじめとした革新的なダンスで、音楽と映像表現の概念そのものを塗り替えた、唯一無二の存在マイケル・ジャクソン。
本作は、ジャクソン5の一員としてその才能を見出された幼少期から、ソロアーティストとして飛躍し、世界最高のエンターテイナーへと駆け上がっていくまでのマイケルの軌跡を描く。
北米で映像が初解禁されると、公開後24時間で1億1620万回以上再生され、音楽伝記映画の予告編として史上最多の記録を達成。日本でも公開2週間足らずで国内興行収入27億円突破の大ヒット(2026年6月23日の時点で)を記録。世界中でリピーターも続出しているという。
製作は、国内興収135億円を記録した世界的メガヒット映画『ボヘミアン・ラプソディ』(2018年)を手掛けたグレアム・キング、脚本は『007/スカイフォール』(2012年)、『グラディエーター』(2000年)など3度のアカデミー賞ノミネートを果たしたジョン・ローガン。
そして監督を務めたのは『トレーニング デイ』(2001年)や『イコライザー』(2014、2018、2023年)シリーズの“名匠”アントワーン・フークア。フークア監督は、資料の中で「マイケルが自分を変え続け、型にはまることを拒んだ姿は、私自身のキャリアにとっても大きな刺激だったし、それは多くの人にとっても同じだと思う。私にとって、マイケルが成し遂げたことは、限界などないと教えてくれる存在だった」と語っている。

マイケル・ジャクソンを演じるのは、マイケルの実の甥であるジャファー・ジャクソン。演技未経験者のジャファーは、いきなり超スーパースターの叔父・マイケル役をオファーされて最初は相当迷っただろう。本当に、よくこんな大役を引き受けてくれたと思う。
彼は2年間の準備期間の間、マイケルの文書資料や私的な文章を読み漁り、映像を見続け、足の感覚がなくなるまで毎日踊り続けたという。本作を観ると、ジャファーがただマイケルのモノマネをしているわけではないことがよくわかった。マイケルの持つ信念や情熱、優しさ、メッセージなどを、彼なりに咀嚼し、全身で表現しているのだ。
ジャファーはどれだけの努力を重ねてマイケル役に挑んだのか。きっと想像を超えるような苦労やプレッシャーを乗り越えてきたはず。上映後は思わず拍手をしたくなったほど、ジャファーの演技と完璧なパフォーマンスに圧倒された。


子どものころのマイケルを演じたのは、オーディションで選ばれたジュリアーノ・ヴァルディ。彼が初めてスクリーンに登場した瞬間、本当にマイケルにそっくりで度肝を抜かれた。歌やパフォーマンスも完璧で、とってもかわいらしいチビマイケルを見ているだけで何故か泣きそうになってしまった。ジュリアーノくんの今後の活躍が楽しみである。


マイケルの父ジョセフ・ジャクソンを演じたのは、アカデミー賞、英国アカデミー賞、ゴールデングローブ賞、トニー賞など数々の賞にノミネートされ、高い評価を受けているコールマン・ドミンゴ。コールマンは2024年に『ラスティン: ワシントンの「あの日」を作った男』で、2025年に『シンシン/SING SING』で2年連続アカデミー賞主演男優賞にノミネートされている。
劇中では、なんとしてでもジャクソン5を成功させたいジョセフが、マイケルを鞭で叩くなどして厳しく指導していたことがわかるシーンが登場し、めちゃくちゃ怖かった。
本作でジョセフは徹底的に悪役として描かれていて、マイケルが大人になっても父親から距離を置いているような描写がある。ただ、ジョセフ本人は、貧しい生活から抜け出すためにスパルタ教育をしていたのだとインタビューなどで語っており(それでも鞭打ちなどの虐待は絶対にダメ!)、マイケルが法廷(虐待疑惑があったが無罪判決が出ている)に現れた際には、ジョセフが彼を支えながら歩くこともあったため、親子の関係性は少しずつ修復されていっていたのではないかなと勝手に思っている。

ほかキャストには、母キャサリン・ジャクソン役に映画『ベストマン』(日本未公開)とドラマ『サード・ウォッチ』(2003〜2005年)で3度のNAACP賞を受賞したニア・ロング、Motownの立役者ベリー・ゴーディ役にラレンツ・テイト、マイケルの楽曲『オフ・ザ・ウォール』や『スリラー』を手がけた伝説的音楽プロデューサー、クインシー・ジョーンズ役にケンドリック・サンプソン、マイケルの長年のボディガード、ビル・ブレイ役にケイリン・ダレル・ジョーンズ、弁護士のジョン・ブランカ役に映画『セッション』(2015年)や『トップガン マーヴェリック』(2022年)のマイルズ・テラーが扮し、それぞれのキャラクターを魅力的に見せている。
また、家族役には、ジェシカ・スーラがラトーヤ・ジャクソン、ジャマル・ヘンダーソンがジャーメイン、ライアン・ヒルがティト、トレ・ホートンがマーロンを演じている。



■ムーンウォークや『スリラー』のゾンビダンス、『Bad』など誰もが知る圧巻のパフォーマンスシーンに大興奮!

筆者はマイケルの大ファンだった母親の影響で、子どものころから毎日マイケルのライブ映像やミュージックビデオを見て育った。『スリラー』のショートフィルムがあまりにもカッコよくてゾンビが好きになり、ムーンウォークを真似しようとして足が攣ったこともある(笑)。
いつから母がマイケルを聴いていたのかは覚えていないが、1988年の10月にマイケル主演の映画『ムーンウォーカー』を母と観に行き、劇場で来日コンサートのチラシをもらったのがきっかけでその年の12月の東京ドーム公演に参加することができた。今でも大切に取ってあるコンサートチケットには『マイケル・ジャクソン ジャパンツアー’88』と記載があるが、のちにこのツアーはBADツアーと呼ばれている。
このあと1992年の12月にもマイケルの『DANGEROUS WORLD TOUR IN JAPAN』東京ドーム公演にも行っているが、2公演ともマイケルが登場した瞬間に鳥肌が立ち、本物の天才のステージを鑑賞できた幸せを噛み締めながら帰路に着いたのを覚えている。まだ幼かった自分をマイケルのコンサートに連れて行ってくれた母親に心の底から感謝している。それ以来、訴えられたあともずっとファンとして応援してきた。(先ほども書いたようにマイケルの裁判は完全無罪という判決が出ている)
マイケルのファンだからこそ、本作の製作が発表された直後から期待と不安な気持ち半々で完成を待っていた。そして今年、覚悟してマスコミ試写に参加したのだが、映画が始まってジャファー&ジュリアーノくん演じるマイケルが出てきた瞬間から不安な気持ちはどこかへ吹き飛んだ。特にジャファーはしゃべり方もマイケルそっくりで、かなり細かく研究し、練習したことが伝わってきた。


本作は、ジャクソン一家が1971年に購入し、1980年代にマイケルが改装したヘイヴンハースト(マイケルが家族と暮らしていた家)の敷地で実際に撮影されている。写真でしか見たことがなかったヘイヴンハーストが、どんな規模でどんな雰囲気の家だったのかを知りたかった筆者にとって、そこもうれしいポイントだった。
ヘイヴンハーストの約2エーカー(約8100平方メートル)の敷地には、キリンやラマ、チンパンジーのバブルスといった動物も暮らしており、本作にももちろん登場している。最新のCGI技術を用いたバブルスとマイケルのシーンはとても微笑ましく、“家の中でも一緒に過ごしていたんだな”とほっこりした。それと同時に、マイケルには兄弟と動物以外でプライベートを共有できる仲間がほとんどいなかったんだろうなと改めて感じて切なかった…。

本作は、マイケルがジャクソン5のメンバーとして活躍していた幼少期から、ソロアーティストとして音楽作りをする姿やエンターティナーとしての新たな才能を開花させるまでの姿が描かれている。ジャクソン5が楽しそうに歌い踊るシーンもよかったが、個人的には1983年に放送されたテレビ特番『モータウン25周年記念コンサート(Motown 25: Yesterday, Today, Forever)』でマイケルが 『ビリー・ジーン』を披露した伝説のステージシーン(初めてムーンウォークをしたことでも有名!)と、『スリラー』のショートフィルムを撮影するシーン(オリジナルの撮影が行われたイースト・ロサンゼルスの工業地帯、ユニオン・パシフィック・アベニューでロケを行っている)が印象的だった。


そしてなんといっても終盤で登場するウェンブリー・スタジアムでマイケルが『Bad』を披露するシーン。ライブ映像で何度も鑑賞し、東京ドームでも実際に見たあのかっこいい楽曲が、圧巻のパフォーマンスで再現されていて大興奮!改めて、自分がマイケルのライブを見たのが、劇中の『Bad』のシーンと同じ1988年のツアーだったというのも感慨深かった。

本作がきっかけでマイケルにハマる人も多いだろう。もうこの世にマイケルが存在しないのは悲しいが、彼の残した音楽や映像作品を深堀りして存分に楽しんでほしいと思う。
母親や兄弟たちとの絆や父親との確執、数々の名曲を生み出した瞬間やレコーディング風景、プライベートで動物や子どもたちと触れ合う姿などが詰め込まれたマイケルの入門書のような本作。ぜひ劇場の大きなスクリーンで鑑賞してもらいたい。





文=奥村百恵
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