仕事や人間関係・家庭事情などでストレスを感じやすい現代では、精神疾患を抱えている人が年々増えています。
精神疾患は原因に個人差があり治療法もその人に合わせた方法でないと悪化する可能性があるため、改善には長期に渡る努力が必要不可欠です。
その中で今回は、日本人の約5%の人が当てはまるという妄想性パーソナリティ障害について診断・治療方法を紹介します。
※この記事はメディカルドックにて『「妄想性パーソナリティ障害」になると感じる症状や原因はご存知ですか?』と題して公開した記事を再編集して配信している記事となります。

監修医師:
伊藤 有毅(柏メンタルクリニック)
精神科(心療内科),精神神経科,心療内科。
保有免許・資格
医師免許、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医
妄想性パーソナリティ障害の診断と治療法

妄想性パーソナリティ障害に自覚症状はありますか?
妄想性パーソナリティ障害の人は、自分が精神疾患であるという自覚がありません。
そのため、なかなか治療が開始できず症状が悪化するケースもあります。
どのように診断するのでしょうか?
妄想性パーソナリティ障害の診断方法は、主にDMS-5というアメリカの精神医学会が発行した統計データを元に診断します。
内容については以下に詳細を記します。
他者が自分を利用している・傷つけている・裏切っていると、十分な理由もなく疑っている。
友人や同僚の信頼性について根拠のない疑いにとらわれている。
情報が自分に不利に使われるのではないかと考え、他者に秘密を打ち明けたがらない。
悪意のない言葉や出来事に誹謗・敵意、または脅迫的意味が隠されていると誤解する。
侮辱・中傷・軽蔑されたと考える場合は、恨みを抱く。
すぐに自分の性格や評判が批判されたと考え、性急に怒りをもって反応したり、反撃したりする。
疑うべき十分な理由もなく、自分の配偶者またはパートナーが不貞を働いているのではないかと繰り返し疑う。
また妄想の原因になる疾患がないかを社会的背景を踏まえた上で、他の精神疾患との鑑別をする必要もあります。
それ以外にも医師は、患者の症状の程度などから危険度を判別しなければなりません。
治療方法を教えてください。
認知行動療法・薬物療法・TMS(磁気刺激治療)の3つが主な治療法です。
認知行動療法とは物事の捉え方と行動にアプローチし、思考のバランスを保ちストレスを軽減することをいいます。
例として、待ち合わせまで「あと5分しかない」と考えるか「あと5分もある」と考えるかで自分にかかるストレスの度合いは変わります。
このように何か起こった時に1度俯瞰した目線で考えて、自分にストレスがかからないような思考に導く治療法が認知行動療法です。
認知行動療法は患者が問題を起こしていることに自身で気づき、社会的に良くない行動だということを自覚させるのに有効です。
TMSはアメリカ発症の治療法で、主にうつ病の人に用いられます。
脳の前頭前野に磁気で刺激を与えることで、脳を活性化させる治療法で大きな副作用もありません。
うつ病以外にPTSD(心的外傷後ストレス障害)・統合失調症・認知症にも効果があり、TMS治療が薬物療法と併用することでより大きい効果を得ることもあります。
妄想性パーソナリティ障害の人には上記の治療法を行いますが、患者は基本的に懐疑心が強く治療すること自体困難なケースもあります。
治療に協力的な人に対しては認知行動療法を行い、難しい場合は薬物療法(抗精神薬・抗うつ薬)などを使用し情動制御など症状の軽減を目的に行うこともありますが、薬物療法だけで妄想性パーソナリティ障害を治療できるわけではなく、あくまで併用という形が前提です。
確実な治療法がないので懐疑心を少しでも緩和しつつ信頼関係を築くことが、治療を行う上で重要です。
治療の効果はどのくらいで現れますか?
治療効果が得られるのは個人差がありますが、数年の月日で蓄積された考え方や価値観を変えるのは長い時間と患者の根気が必要です。
数日や数ヶ月単位ではなく、少なくとも1年から数年単位での治療が必要になるでしょう。
日常生活を通じてカウンセリングを取り入れるなど、継続しやすい環境を整えることが改善への近道になります。
編集部まとめ

ここまで妄想性パーソナリティ障害の病態や症状・治療法等について紹介しました。
日常生活の中では誰しもがパーソナリティにある程度偏りがありますが、自覚していない妄想性パーソナリティ障害はその影響で一般の人よりも生きづらさを感じています。
妄想性パーソナリティ障害の人だけに言えることではありませんが、精神疾患を患っている人は患者自身が1番症状に対して悩み苦しんでいます。
そのため今回の妄想性パーソナリティ障害に関わらず、精神疾患に対しての基本的な知識や関わり方を知ることは自分を守るだけでなく手助けするためにも重要なことなのです。
相手に共感し理解しようとする姿勢を見せるだけでも、患者自身心が救われた気持ちになります。
どう接したら良いのか分からないからと突き放すのではなく、話を聞いて自分は相手のことを思っているということを伝える意識を持っていただければ、その思いは相手にも伝わります。
また自分自身が妄想性パーソナリティ障害かもしれない時には、専門機関のサポートを受けることで生きづらさが軽減されるかもしれません。
治療には長い時間と「良くなりたい」という強い意志が必要なので、困った時は誰かに相談しながら取り組んでいくことが大事になります。
参考文献
妄想性パーソナリティ障害|MSDマニュアル 家庭版
パーソナリティー障害|厚生労働省みんなのメンタルヘルス

