毎日ネクタイを着用しているビジネスパーソンの方にとって、首元の締め付けが眼の健康に影響するとは、なかなか想像しにくいことかもしれません。しかし研究では、首元を強く締めると頸静脈の流れが妨げられ、一時的に眼圧が上昇する可能性が報告されています。緑内障との関係や、そのメカニズムについて詳しく解説します。

監修医師:
柳 靖雄(医師)
東京大学医学部卒業。その後、東京大学大学院修了、東京大学医学部眼科学教室講師、デューク・シンガポール国立大学医学部准教授、旭川医科大学眼科学教室教授を務める。現在は横浜市立大学視覚再生外科学教室客員教授、東京都葛飾区に位置する「お花茶屋眼科」院長、「DeepEyeVision株式会社」取締役。医学博士、日本眼科学会専門医。
きついネクタイ・首元の締め付けと緑内障の関係|眼圧が上昇するメカニズム
このセクションでは、首元の締め付けがなぜ眼圧の上昇につながるのか、そのメカニズムについて解説します。緑内障との関係を理解するうえで、首や頸部(けいぶ)の静脈と眼内の圧力がどのようにつながっているかを把握することが重要です。
首を締め付けると眼圧はどう変化するか
首元を締め付けると、頸部の静脈が圧迫されます。静脈は身体全体から心臓へと血液を戻す役割を担っていますが、首の部分で流れが滞ると、血液が頭部や眼球周辺にうっ滞しやすくなります。頸静脈還流が妨げられると上強膜静脈圧が上昇し、眼圧が一時的に上がることが報告されています。
眼圧が高い状態が長く続くと、視神経への負担が増し、緑内障のリスクが高まることが知られています(※きついネクタイによるのは一時的上昇であり、ここで述べるのは緑内障一般の話です)。
米国コロンビア大学の研究者らは、正常者20名と開放隅角緑内障患者20名(いずれも男性)を対象に、きついネクタイ着用3分後の眼圧変化を調べました。その結果、正常者では平均2.6 mmHg、緑内障患者では平均1.0 mmHgの上昇が認められました。メカニズムとしては、首元の締め付けによる頸静脈圧上昇が、上強膜静脈圧を介して眼圧に影響する可能性が指摘されています。
ただし、これは数分間の一時的変化であり、日常のネクタイ習慣が緑内障を引き起こすことは証明されていません。眼科で眼圧測定を受ける際は、ネクタイを緩めてから測ることが推奨されます。
眼圧上昇がなぜ問題なのか
眼圧は通常、10〜21mmHg(ミリメートル水銀柱)の範囲に収まるとされています。この範囲を超えた状態が続くと、視神経への負荷が増し、視野が徐々に欠けていく緑内障のリスクが高まります。緑内障は自覚症状が出にくく、気づかないうちに進行することが多い疾患です。
このように、緑内障一般では、眼圧が高い状態が続くと問題となります。
眼圧の上昇も重要なリスク因子の一つである一方で、眼圧が正常範囲内であっても緑内障を発症する「正常眼圧緑内障」が存在します。日本人の原発開放隅角緑内障患者の約92%は眼圧21 mmHg以下です。眼圧が「正常」でも緑内障を否定できないため、眼圧測定だけでなく視野・視神経の評価が重要です。
きついネクタイは測定時・着用直後に一時的な眼圧上昇をもたらすことが報告されています。一方で、長時間着用が緑内障の発症・進行に直接つながることは、現時点では証明されていません。
まとめ
きついネクタイや首元の締め付けは、頸静脈還流への影響を通じて一時的な眼圧上昇が報告されており、とくに緑内障やそのリスクがある方では、締め方の見直しや測定時の配慮が有用かもしれません。首や肩のこり、頭痛、集中力の低下などとの関連も指摘されていますが、多くは疲労・ストレス・デスクワークなど他の原因の方が多く、個人差も大きいです。
日常では、首元に指1〜2本分の余裕を持たせる、長時間のデスクワーク中に適度に緩める、40歳以降は症状の有無にかかわらず定期的な眼科検診(眼圧・視野・眼底など)を受ける、といった対策から始めてください。気になる症状が続く場合は、眼科や内科などへ早めにご相談ください。
本記事で述べている「きついネクタイと一時的な眼圧上昇」は複数の研究で報告されている事実です。一方で、ネクタイ着用と緑内障発症・進行の直接因果、または認知症・重大な脳疾患との関連を示す大規模研究は限られています。不安がある方は、症状の有無にかかわらず定期的な眼科検診をおすすめします。
参考文献
日本緑内障学会「緑内障診療ガイドライン(第5版)」日本循環器学会「自律神経と循環器疾患」
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