咽頭は鼻の奥から食道・気管へとつながる器官で、上咽頭・中咽頭・下咽頭の3つに分かれています。それぞれの部位によって、発生するがんの特徴や症状が異なります。この記事では、咽頭がんの基本的な仕組みや発生場所ごとの違いについて、わかりやすく解説していきます。

監修医師:
大津 和弥(医師)
三重大学医学部卒業。三重大学附属病院で研修。市立四日市病院、三重大学附属病院などに勤務後、国立がんセンター東病院研修。三重大学附属病院 耳鼻咽喉・頭頸部外科 講師を務め、小松病院で一色信彦、田邊正博の音声外科医師の指導の下音声外科手術を研鑽。市立ひらかた病院耳鼻咽喉科部長、市立ひらかた病院耳鼻咽喉科主任部長、音声外科センター長などを歴任。大阪医科薬科大学臨床教授。現在は大津耳鼻咽喉科・ボイスクリニック 院長。
咽頭がんとはどのような病気か——大人が理解すべき基礎知識
咽頭がんとは何か、まずその基本的な概念を理解することが大切です。咽頭(いんとう)は空気や食べ物の通り道として重要な役割を担う器官であり、この部位の粘膜から発生する悪性腫瘍を咽頭がんといいます。咽頭がんは発生する場所によって症状や治療方針が異なるため、それぞれの特徴を知ることが早期発見につながります。ここでは咽頭の構造やがんの発生部位、患者さんの傾向について解説します。
咽頭の構造とがんが発生する場所
咽頭は、鼻の奥から食道や気管へ続く約12〜14cmほどの管状の器官で、「上咽頭」「中咽頭」「下咽頭」の3つの部位に分けられます。それぞれ役割や周囲の構造が異なるため、発生するがんにも特徴があります。
上咽頭は鼻の奥に位置し、耳とつながる耳管の開口部が存在する場所です。この部位に発生する上咽頭がんでは、鼻づまりや鼻血だけでなく、耳の詰まり感や難聴などの症状が現れることがあります。比較的まれながんですが、東アジア地域では一定数みられることが知られています。
中咽頭は口の奥に位置し、扁桃や舌の付け根(舌根部)を含む領域です。飲み込みや発声にも関わる部位であり、中咽頭がんではのどの違和感や飲み込みにくさ、首のリンパ節の腫れなどがみられることがあります。
下咽頭は食道の入り口付近に位置し、喉頭の後方を取り囲むような構造になっています。下咽頭がんは初期症状が乏しいことが多く、進行するまで発見されにくい傾向があります。そのため、診断時にはすでに病変が大きくなっているケースも少なくありません。
咽頭がんの多くは「扁平上皮がん」と呼ばれるタイプで、粘膜表面の細胞から発生します。咽頭の粘膜は食べ物や飲み物、たばこの煙、アルコールなどさまざまな刺激に日常的にさらされているため、長年の刺激の蓄積が発がんに関与すると考えられています。
また、咽頭にはリンパ組織が豊富に存在するため、比較的早い段階で首のリンパ節へ転移することがあります。首のしこりがきっかけで咽頭がんが見つかるケースもあるため、「のどに症状がないから大丈夫」とは言い切れません。
このように、咽頭はひとつの器官に見えても部位ごとに特徴が異なり、発生するがんの原因や症状にも違いがあります。まずは咽頭の構造を理解することが、病気への理解を深める第一歩になります。
咽頭がんの罹患率と年齢層——大人に多い理由
中咽頭がんや下咽頭がんは比較的まれながんに分類されますが、頭頸部がんのなかでは重要な疾患の一つです。日本では中高年以降に発症することが多く、とくに50代から70代にかけて患者数が増加する傾向があります。なお、咽頭がんの一部である「上咽頭がん」は若年者でも発症することがありますが、加齢や生活習慣との関連が深い中咽頭がんや下咽頭がんは、中高年に多くみられるのが特徴です。
その背景には、喫煙や飲酒などのリスク因子への長期間の曝露があります。がんは数日や数年で発生する病気ではなく、長い年月をかけて細胞の遺伝子異常が蓄積することで発症すると考えられています。そのため、若年者よりも中高年で発症しやすい傾向があります。
特に下咽頭がんでは、喫煙と飲酒の両方を習慣的に続けている方でリスクが高まることが知られています。アルコールを分解する過程で生じるアセトアルデヒドには発がん性があるとされており、喫煙による刺激と組み合わさることで発がんリスクがさらに高くなる可能性が指摘されています。
また、日本人ではアルコール分解酵素の働きに個人差があります。少量の飲酒でも顔が赤くなりやすい方はアセトアルデヒドが体内に残りやすく、頭頸部がんのリスクとの関連が報告されています。
一方で、中咽頭がんについては近年状況が変化しています。HPV感染に関連する中咽頭がんが増加しており、これまでより若い世代で発症するケースもみられるようになっています。HPV関連中咽頭がんは従来型の喫煙・飲酒関連がんとは異なる特徴を持ち、治療反応性や予後にも違いがあることが分かってきています。
男性に多いことも咽頭がんの特徴です。従来は喫煙率や飲酒習慣の違いが影響していると考えられてきましたが、近年では女性患者さんも一定数みられており、性別だけでリスクを判断することはできません。
さらに、加齢による免疫機能の変化も発症に関与すると考えられています。私たちの体には異常な細胞を排除する仕組みがありますが、年齢を重ねるにつれてその働きが変化し、がん細胞が増殖しやすくなる可能性があります。
このように、咽頭がんは単に「高齢者の病気」ではなく、喫煙・飲酒習慣、ウイルス感染、体質、加齢など複数の要因が重なって発症すると考えられています。特に40代以降でのどの違和感や首のしこりが続く場合には、「ただの風邪だろう」と自己判断せず、耳鼻咽喉科で相談することが大切です。早期発見できれば治療の選択肢も広がり、機能を温存できる可能性も高まります。
まとめ
咽頭がんは、大人に多く見られるがんの一つですが、原因となるリスク要因を知り、初期症状に敏感になることで、早期発見につながる可能性があります。喫煙・飲酒の習慣、ウイルス感染、生活環境など、複数の要因が関与するがんだからこそ、日常生活の中での自己観察と定期的な受診が重要です。のどの違和感、首のしこり、声のかすれなど、気になる症状が2週間以上続く場合は、耳鼻咽喉科や頭頸部外科の外来への受診を検討してください。早めの行動が、より多くの選択肢と安心につながります。
参考文献
国立がん研究センター がん情報サービス「下咽頭がん」
国立がん研究センター がん情報サービス「中咽頭がん」
国立がん研究センター がん情報サービス「上咽頭がん」
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「頭頸部がんってどんな病気?」
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