氷をガリガリと食べたい衝動が続いているとき、それは単なるクセではなく、氷食症という病気かもしれません。氷食症は鉄欠乏性貧血と深く関係していることが多く、放っておくと動悸や息切れ、疲労感など全身の不調につながるおそれもあります。
この記事では氷食症の原因、症状、身体への影響や、病院での検査と治療の流れを解説します。

監修医師:
林 良典(医師)
消化器内科
呼吸器内科
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眼科(角膜外来)
氷食症の基礎知識

氷食症とはどのような病気ですか?
氷食症とは、氷をどうしても食べてしまう病気です。氷をかじりたい衝動が止まらず、1日に製氷皿1トレイ以上食べてしまう、氷が欲しくて我慢できない状態が1日に何度もある、といった状態が2ヶ月以上続いている場合は氷食症の疑いがあります。
氷食症は異食症の一種です。異食症とは、土や紙、チョークなどの栄養にならない、または食品ではないものを習慣的に繰り返し食べる障害を指します。
氷食症はまだ解明されていないことも多い病気ですが、鉄欠乏性貧血との関係が指摘されています。日本小児保健協会の調査では、鉄欠乏性貧血の患者さんの約79%に異食症がみられ、そのうちの約80%が氷食症であったという結果が報告されています。
また、鉄欠乏性貧血だけが原因ではなく、心理的、精神的な要因が関与している場合もあります。
参照:
『鉄欠乏性貧血の治療指針』(一般社団法人日本内科学会)
『鉄欠乏と異食症の関係一第1報 思春期の鉄欠乏性貧血における異食症の実態一』(日本小児保健協会)
『Ask about ice, then consider iron』(Journal of the American Association of Nurse Practitioners)
普通の氷が好きな方と氷食症の方の違いを教えてください
一般的に氷やアイスクリームが好きな方は、冷たさや食感、甘さなどを楽しんでいます。また、ちょっとしたごほうびや気分転換として氷やアイスを食べることもあります。
一方で氷食症の方では、下記のような行動や心理状態がみられます。
氷をガリガリとかじらないと落ち着かない
1日に何十個も氷を食べてしまう
家や職場に常に氷のストックをしている
氷が食べたくて目の前のことに集中できない
氷を切らすと強い不安にかられる
このような状態が続き、日常生活に支障が出るほど氷にこだわりを持ってしまう場合は氷食症かもしれません。
どうして氷食症の方は氷を食べたくなるのですか?
氷食症の原因としてよくみられるのは鉄欠乏性貧血です。鉄欠乏性貧血は、貧血のなかでも頻度の高い疾患です。体内の鉄分が不足して赤血球中のヘモグロビンが十分に作られなくなることによって生じます。
鉄欠乏性貧血によりヘモグロビンの量が減少すると、血液が酸素を全身に運ぶ能力が低下します。その結果、動悸や息切れ、めまい、倦怠感や集中力の低下といったさまざまな症状が現れます。
氷を噛む刺激は交感神経を活性化し、一時的に覚醒度や集中力が高まるとされます。そのため氷を欲するようになり、氷をかじる行動が習慣化すると考えられています。
参照:『Pagophagia improves neuropsychological processing speed in iron-deficiency anemia』(medical hypotheses journal )
氷食症で氷を食べ続けたらどうなる?身体への影響とは

氷食症で氷を食べ続けることで歯に悪い影響はありますか?
氷を食べ続けることで、歯や口腔内に下記のような影響が出る可能性があります。
歯の破折
咬耗(こうもう)
知覚過敏
顎関節症
長期間にわたり冷たく硬い氷を噛み続けると、歯のエナメル質が欠けたりひび割れたりするほか、歯の表面がすり減って噛み合わせが変化するおそれがあります。さらに、エナメル質が削られて象牙質が露出し神経が刺激されやすくなり、冷たいものがしみる知覚過敏が起こる可能性もあります。
また、顎の関節に負担がかかり、お口を開けるときの痛みや違和感、顎関節に音がする顎関節症を引き起こすこともあります。
氷を食べることは胃腸に悪影響をおよぼしますか?
氷の摂りすぎにより胃腸が冷えて消化機能が低下することがあります。
冷たい刺激で胃腸の血管が一時的に収縮すると血流が減り、胃や小腸の働きが弱まることがあります。そのため、消化がうまく行われず、腹部の違和感や下痢などの症状が現れる可能性があります。
氷を一時的に食べる程度では大きな問題はありませんが、大量の氷を食べる習慣が続くと、慢性的な胃腸の不調につながることもあります。
そのほかにも身体への悪影響があれば教えてください
氷食症の背景にある鉄欠乏性貧血が進行すると、さまざまな全身症状が現れる可能性があります。
鉄分不足により赤血球中のヘモグロビンが減少すると、血液が酸素を運ぶ能力が低下します。身体は酸素を取り込むため心拍数が増加し、少しの負荷でも動悸や息切れが起きやすくなります。
また、筋肉の酸素が不足すると、疲労感や倦怠感を覚えやすくなり、いつも疲れているという状態に陥ることもあります。
さらに、血色が悪くなり赤みがない、あるいは黒っぽくみえる顔色不良や、爪がそり返ってて割れやすくなる匙状爪、味覚障害や舌のヒリヒリ感などの症状もみられることがあります。
鉄欠乏性貧血は、このように全身に症状を引き起こし、日常生活に支障をきたすことがあります。鉄欠乏性貧血は初期症状がほとんどなく、静かに進行していきます。

